プタンジック島

ミーナ

第1話

 14年前に急に行方知れずになっていた、親友のカーラが訪ねてきた。


 もじゃもじゃの金髪、化粧もしてない顔、風に乗ってツンと鼻に来る匂い。すぐに旧友が石鹸とは無縁の生活を送っている事がわかった。


 胸元が大きく開いた黒いローブに、使い魔のユールが大きな胸に挟まっている姿。これだけは昔から変わらない、私と色違いのまったく同じ魔道士の格好。


 初めて会った時、使い魔が全く同じ姿のキツネという共通点から仲良くなったんだっけ……。


「ちょっと頼みたいことがあるんだ」


 カーラは、まるで昨日まで交友していた友達みたいに言ってきた。


「いやいやいや、今までどこにいたの」

「うん? プタンジック島に住んでる」

「そんなところに!?」

「うん」


 カーラは平然として、私の横をすり抜けて、家の中に入っていく。


「はぁ、あいかわらずね」

「アンナもあいかわらず、若いままだな、20代にしか見えない。大きな胸も張りがあってうらやましい」

「……あんたは何で、スキンケアをサボったりしたの……」

「そこに使う魔力がなくてね――ってマールじゃないか、久しぶりっ」


 カーラは暖炉の前の椅子に寝ころんでいた、私の使い魔に抱きついた。


「ほらユールも覚えてるかい」

「ココーン」


 鳴き声を上げ、ユールとマールが鼻を突き合わせる。久々に会ったから、早速使い魔同士で情報交換をしていた。


「写し絵、今も覚えさせてるか?」


 カールが聞いてくる。


「ああ、あるわ。消さずにずっとね。マール、見せて頂戴」

「ココーン」


 マールの目が光った。


 空中に照射された光の中に、映像が浮かび上がる。


「懐かしい、海水浴行った時のだな。私のもこれを覚えさせられたらなぁ、ああ懐かしいなぁ」


 ほんとに懐かしい……。


 それから、とりあえず私はカーラに食事を出してやった。


 プタンジック島は、プタンジックが海流で集まりできた汚染された場所だ。そこに、いつからか流人が流れ着く、人が住む最低最悪の環境の街ができていた。


 昔から身勝手この上ない奴だったけど、そんな所に居たなんて、さすがにこれには驚いた。


 カーラは、パンとスープを体に送りこむだけみたいな野人的食べ方をしている。


 24年前、私が16歳の時、帝国白魔道士として新しく働くことになった時の同期だった。


 カーラは黒魔導士だったが職場は同じで、共に働いた。でも10年が経ったある日、カーラが行方不明になる。


 帝国魔道士が突然いなくなることは、ままあった。駆け落ちや、もっと儲かる民間に行くためだったりだ。いつもお金欲しいと言っていたので、友達の誰にも、私にも言わずカーラは民間に行ったんだと思っていた。


 でも違ったみたい、何があったんだろ……。


 私はカーラの向かいに座る。キセルを持ってきてふかした。


「結婚してないんだ」

「離婚した」

「子供は?」

「連れてかれた」

「はははははは」


 何かツボに入ったのか、カーラは大笑いする。


「アンタはしたの?」

「してない、そんなことより来てほしいんだ」


 カーラは出されたパンの最後の一切れを口に頬張って皿を脇にどけた。


 本題に入るとばかり背筋をしゃんとして私を見てくる。


「来てって、プタンジック島に?」

「ああ」

「あんなとこに足を踏み入れるつもりはない」

「なんで」

「プタンジックでできてる島だからに決まってるでしょーよ」


 カーラが大きく息を吐いて、予想していた返事ですよという感じで頷いた。


「プタンジックの街が死ぬかもしれない事態が起こってるんだ」


 カーラが目を光らせ、決死の表情になる。


「パルティレ政府に行っても門前払い、だから直接来た。アンナ、なんとか助けてくれ」

「……何が起こってるっていうの……」


 私は細い目をしてカーラを見つめた。


「王を治してほしい。それと街の調査をしてほしい。それには実際に見てもらう必要がある。街の安全のために定量分析をして、詳細な情報を持たなくてはいけない」

「王? そんなのいるの」

「あの小島はパルティレ湾内を何十年も浮かび続けている。廃棄されたプタンジックが集まり続け、それが今、パルティエ街内からでも見る事ができるぐらいになった。あそこにはもう、パルティレ政府が思っている以上に巨大で、私達にとって大事な街が形成されてる」


 カーラが語気を強める。


 私はキセルをふかした。


 ……だいたい何でプタンジック島なんかに住んで何してたのよ、カーラ……。それは聞かないほうが良いのか……。


「私は今、環境保健部に勤めてる」

「しってる」

「……どこで仕入れたの、その情報……」

「あそこはパルティレからプタンジックだけじゃなく、いろんな人も流れつく島なんだ、本部長様」

「じゃ、内部がどんな様子なのか、こっちも調べさせて」

「かまわない、私も協力しよう、皆にも協力するよう言うよ」


 カーラが身を乗り出してきた。


「実際のところ、パルティレ政府はどう対処しようとしてるんだ」

「……もちろん、プタンジックの問題は分かってる。でも禁止しようにも、その代替素材の技術的な課題、経済的な影響、そして社会的な慣習からできない、どうしようもないの」

「消化できるはずだ、開発されたイデオネを使えば」

「あんな高価なもの、予算内でできるわけないじゃないの」


 イデオネは、プタンジックを消化できる唯一の消化液だ。40年前に開発されてこれでプタンジック問題は終結と思われたが、今だにと原材料が高価だという理由で破壊活動家以外は使っていない。


「ははは、そうか。安心したよ。当面の敵は破壊活動家のクソどもだけという事だ」


 カーラが満足そうに笑う。


「そういえば、パルティレから破壊活動家が乗り込んでると聞いてるけど? 危険じゃないわよね、あの人たちプタンジックから環境を守るって思想が行き過ぎてて人殺しもするからね、私とか仕事してないと批判されてるんだから」

「ははは、もちろん、私がアンナの事は守る、安心しなっ」


 カーラが胸を強くたたいた。


 ……この感じ、懐かしい……。


 本当に困ってるのも、なんか親友だったから、感じれる……。


「……準備するわ、休みを取るから、ちょっと待ってて」

「うん。じゃ、私はここに泊ってくかな」


 カーラが笑顔を作る。


「ここの床で良い ユール、ベッドに変化」

「ココーンッ」


 ボンっと煙が出て、リビングはカーラの変化した巨大ふかふかベッドに占領された。


   ◇


 海上を進み、私とカーラはプタンジック島に到着した。


 橙色に緑の車線が入ったプタンジック島の国旗が港に掲げられている。


 到着すると、様々なプタンジックゴミの大地よりも興味の対象は聳える建築物に切り替わる。


「マール、写し絵を撮っといて」

「ココーン」


 マールが胸の間から出てきて頭の上に登っていった。そして辺りを記録しだす。


 建てられている建物は真っすぐに整えられたものでなく、大岩が落ちているみたいだった。


 プタンジックが積み重ねられて上へ上へと伸びている。穴が開いていて、歪なひし形をしていた。


 直径1メドル太い魔伝線がそんな穴から海の方へと伸びている。噂ではあったが、帝国の承認なしでプタンジック島も魔鉱を吸い取りエネルギーにしているらしいのは本当らしい。


「眺めてないで行くぞ」


 カーラが歩き出した。


 荷物のアタッシュケースを持って、後をついてく。


「普通ならある検問所も何もないのね」


 そう言うとカーラが楽しそうに笑う。


「ここに来る奴に難癖つける人間なんているわけない」

「さすが流人の島ね」


 プタンジックの大地は歩くのに慣れが要りそうだった、すごいぐにゃぐにゃしている。ブーツで来て良かった。


 私達は一番近いひし形の穴に入って行った。


 広い空間にテーブルと椅子が積まれている。整理されている置き方で捨てられてる感はない。……じゃ何に使うのこれ?


 どんどん中に入るとトンネルが現れた。


 プランジックが積み重ねられ押しつぶされて、千枚の葉っぱみたいに見える壁に、天井。くりぬいて作ったのかな……。


 ……だんだんと、空気がじめっとしてくる……。


 魔伝線がずっと通路に沿って続いていた。そこに光球を等間隔に設置して照明にしている。これはたしか明かりを取るのと、魔導線に異常が出た時に場所を特定するために、100年前の工場で行っているやり方だ。


 薄暗い光をたよりに進んでいると、地面が下向きに傾きだした。


 どんどん地下に入って行く……、もう……海の中よね、これ……。


「ここって食べ物はどうしてるの?」


 前を行くカーラに尋ねた。


「船に乗って商人がやってくるよ」

「……どうやって買うのよ」

「漁業がここの主力産業さ」


 大きく螺旋を描きながら、下へ下へと私達は進んでいった。


 と、何もなかった通路にドアが現れる。プタンジックゴミを組み合わせてできていて、手作り感があるドアだった。


 通路沿いに、そんなドアが何個も現れる。徐々に通路の幅も狭くなっていく。入口のところでは5人が並べるほどだったのに、今は3人がやっとだ。


 それと同時に、私はプタンジックに住む人と出会った。私は何か反応されるかと思ったが、私に対して何の反応もしなかった。


 カーラが現れたドアのひとつに入って行く。そして左折してしばらく進んで3個目のドアを入っていった。そして左折して、まっすぐ行って、もう一度左に曲がり、とカーラは進んで言った。


「私の後をちゃんとついて来てよ」

「迷路になってるわね」

「全部覚えてるから平気だ、私とはぐれない限り、迷う事はない」


 カーラは平然と答える。


「なんでこんなにしたの、都市計画はどうなってるのよ」

「はははは」


 なんか笑い出した。そんな面白いこと言ったっけ。


 カーラが何の前触れもなく止まり、左手のドアを開く。


 中は四角い部屋だった。窓はなく、簡素なベッドとテーブルがひとつだけ、魔伝線から枝線がドアの下の隙間から伸びていって天井の光源につながっている。


「悪いが、ここしかない」

「何の問題もないわ」


 テーブルの上にアタッシュケースを置く。


「トイレと風呂、それから資料のある警備部の場所を教えるよ」


   ◇


「第5警備部長のセッドと申しますっ」


 名乗った初老の男性が敬礼をした。そして部屋の隅を指さす。


「魔導士様より伝え聞いておりますっ。あの端の机をどうぞ、お使いくださいっ」

「ありがとう」


 私は警備部の倉庫から持ってきた資料ファイルを抱えながら、机に向かった。 


 第5警備所には白髪が腰まで伸びた男性4人が、私の部屋の3倍ぐらいの四角い部屋の中にいる。武器を携え、全員が筋骨隆々だった。


 私は警備部の隅で統計記録を見ると、プタンジック島では犯罪数が急増し、また、その悪質性も増しているのが分かった。


 プタンジック島の人口は20万人。突発的な人口の増減はない。漁業産業がうまくいかず、景気が悪くなったわけでもない。なのに前年の犯罪件数は、統計を始めて以来、その累計と同じ数になっている。


 しかし私はすぐに、どういうからくりかわかった。今までの犯罪数が異常な少なさだからだ。きっと少なく取っただけだろう。


「何したんだっ」


 突然セッドさんの怒号が響く。これで何回目か、警備部も朝から大忙しだった。


「え、遅刻したから殴ってケガさせたっ?」

「はい。損害はこれで少なくなると思います」


 背の低い男がセッドさんに言うと、セッドさんが迷いだす。


「うーん、どうだ、どうおもうっ?」


 セッドさんが隣の警備兵に意見を求めた。


「たしかにあいつ遅刻、酷かったですもんね――」

「そうです、一度ぶん殴らないと」

「しかしな、殴って骨折までいってる。この損害の方がデカいっ」

「たしかにそうですねー、微妙なところだなー」

「これから統計を取り、損害が少ないなら無罪だ。それまでは保留だなっ」


 警備兵たちの会話を聞いていた背の低い男が困った顔をする。


「そんなっ殴った方が損害は少ないですよ」

「黙れっ、処置は決まった。帰れっ」


 セッドさんが威圧し、背の低い男が困った顔のまま帰っていった。


 私はすごく違和感があった。


 プタンジック島の法律も気になった。


「すいません、セッドさん。法令集も見せていただきたいんですが」


 私に振り向いたセッドさんは、戸惑った顔をした。


「法律はありませんっ」

「え」


 そのセリフに私も戸惑った顔になった。


「ああ、説明しますと、犯罪というものの概念が違うんですっ。ここには法律がありませんっ。パルティレでは犯罪というものは法に違反することを言いますが、ここでは社会に損害を加えることを犯罪と言っておりますっ」

 

 私は考え込んだ。


 たとえばパルティレでは、ある企業が環境汚染をしたとしても、違法ではないので犯罪と立件できないという事があるが、ここでは、社会に損害を加えている事実があるので逮捕できる。そういうことか。


「自由は損害が少なければ極力、認められるのですっ。法に重きを置かず、社会的損害度に重きを置いていますっ。社会的損害を最小限にするには、法では小回りが利かないのですっ、自由を最大にしようとすれば法では圧迫しすぎるのですっ」


 と、その時ドアが開きまた被害を受けたという人が飛び込んできた。


 セッドさんが私に敬礼をして、聴取に取り掛かる。


 私は、すばらしいと、おもった。ここは無法地帯と聞いていたが、確かに無法地帯だけど、高度な政治設計ね……。


 と、またドアが開く。カーラだった。


「アンナ、来てくれ」


 私は言われるまま、カーラの後をついていく。


 今あるところから、さらに通路を下っていった。


 下るにつれて湿気がひどくなっていく。出会う人はみんな、長靴を履いていた。子供はひとりもいない。


 と、地面が揺れ出した。


「また地震だ」


 轟音が響く。上からギシギシいう音と一緒にプタンジックの欠片が降って来た。


 立っていられない。踏ん張りながら、壁を掴んだ。


 私の平常心をもてあそぶように揺れが続く。


 しばらくして揺れが収まった。


「さっ行くぞ」


 カーラがひょうひょうと進んでいく。


 私は動揺を隠して、後をついて下って行った


 ここではしょっちゅうなのかしら……。


 カーラについていくと、時々カーラに尋ねる人が現れる。そのたびにカーラは早口で答えていた。


 通路がどんどん広くなっていく。下に行くにつれ広くなり、今は10人が並べるぐらいにまでなった。


 空気も綺麗になっていく。どこかに換気口があるらしい。私は辺りを見回した。


 光球も、狭い感覚で天井に一列に並んで明るい。


 そして人も多い。特に目的もなくぶらぶら歩いているみたいだった。


「部外者でここまで近づいたのは、アンナが初の事だ」

「近く?」

「王の」


 カーラが指さす。その先で広い通路はそこで終わっていて階段があった。


 一番上に何かある……。


 私は目を凝らして見る。でも良く見えない。


「ここで見なくても、今から行くんだから、さっ早く行くぞ。あっマールは禁止だ、撮っちゃダメだぞ」


 カーラが笑って、どんどん進んでいった。


 王、と呼んでいたものは大きな玉座の上に座っている。


 人の何倍もある長くて太い体を玉座に巻き付かせて、座面にとぐろを巻いて、その中心に頭を置いて目を瞑っている。


「使い魔? 何て大きさなの……」

「うん」

「誰の? すごいわ、何この魔力……」


 肌がビリついてきた。


「ソフィアだ」

「どこにいるのよ」

「使い魔が体を巻きつかせて守ってる」


 私は大蛇を見る。たしかに、巻いているとぐろには少し膨らみがあった。


「王、カーラだ。連れてきたよ」


 カーラの優しい声に蛇が目を開けた。


 ニュルニュルと長い体が動いて、中にいた老婆が露わになる。


 彼女は痩せこけていた。裸の体は皺だらけで深い溝が全身に刻まれている。その皺の皮膚の中に大きな血管が絡みつく蔦のように走っていた。


「帝国魔導士の方ですか?」


 しわがれた声で私に尋ねてくる。身動き一つしない。目も動かず、どこか明後日の方向を見ている。


「あなたは」

「ソフィアです……私もあなたと同じ、私も帝国魔導士だったんですよ、ふふふ」


 彼女が微笑んで話し出す。初めてが動くのを確認できた。


「私が開発した魔導回路は使い魔に入れ込みました。皆に心理作用を及ぼし、友愛と同調性を持たします。この島にいる人は全て、このジテジが分泌している私の魔力にさらされています」


 人の精神に影響を及ぼしてって……とんでもないことをサラっと言ったわね……。


 たしかに、この魔力では可能か……。


 彼女が蛇の方を見る。


「ゆえにこの島では犯罪行為というものは、ほぼ存在しませんでした」


 私は統計記録を思い出した。


「あの統計記録は間違ったものでないという事?」

「そうです、とても平和でした」


 そんなバカなっ。


「しかし、今やそうではありません。私は病気になってしまいました。ゆえに魔力が弱まり、皆が非同調的になっています」


 この魔力で弱まったですってっ。


 私も身動きではなくなってしまった。


「私を治してほしいのです」


 彼女が言った。


「そして、この島は今……」


 彼女の目が私を捕らえる。


「何か異変が起きています。何かとてつもない危機の予感がしています。魔導線で亡くなったスーのについて調べてください。異変はあそこからでした」


 私は彼女の異様な姿に、ずっと抑えていた険悪感がままならなくなった


「……あなたを治して、この島の調査というのが依頼でした。私もそれで承諾しました、やりましょう……」


 私は王に触れる。


 白魔術ポファルを唱えた。触れた私の指先から、魔力の波が放射される。


 体を透過する魔力で体内の内部構造を調べる基礎の白魔法。魔力は体の一部のようになって、体内を触覚で感受できる。


 感受した瞬間、私は彼女から離れた。


「カーラ、今日は疲れがあるわ、明日にして良い」


 懸命に、そんな噓を言った。


 私はここから早く立ち去りたくて仕方なかった。


 カーラが王の元へ行き、抱きしめる。


 そして、なにか言葉を交わした後、私達は部屋に戻った。


 椅子にドスンと腰かける。


「王は病気じゃない」


 向かいの椅子に座ったカーラにはっきり言った。


「彼女は死にかけている」


 私の言葉に、カーラはうつむいたまま動かなくなる。


「そう、そうか……まぁ……知ってたよ……」


 私はアタッシュケースからキセルを取り出し、吸い始める。


「カーラ、彼女が死んだらどうなるの」

「ここがバラバラになる。その後、どうなるかなんてわかるわけない。でも、一応ジテジの魔導回路をユールに移した」

「移し替えた所で、あんたには使えはしないわよ、私たち2人分併せてやっとの魔力量よ、あれは」

「……わかってる……わかってるよ」

「あの魔力量に私は単純に興味があるわ。彼女の体は調べたい。その時、できるだけの事はしてみる、少しでも長生きするようにね」


 ふーっと煙を吐いた。


「……あと、彼女の言ってた異変ね。何のこと?」

「地震が起こったろ。海に浮かぶプタンジック島で地震なんて起きるわけないだろ」

「……なるほど……その調査もちゃんとするわ。あと、これからまた資料を見て来るわ。環境保全部の仕事もしないと」

「あとアンナ、明日は議会に参加してほしい、そこで皆に顔だけ見せてくれ」


 そう言うと、カーラは立ち上がる。


「じゃ、私はもう行かないと」


 私はキセルを吹かしながら、手だけ降って別れの挨拶をした。


「ユールも挨拶」


 カーラが言うと、胸の谷間からユールが出てきて、私に手を振って返してくる。


 私は微笑んで、胸を叩いた。すぐに胸元からもマールが出てきて手を振りだす。


 その夜は気温が高かった。


 プタンジック島は夜の方が暑いらしい。記録を見るかぎり、一年中気温は150度から250度の間を動いている。これは、プタンジックという万能素材でできているためだろう。


 今夜は250度、この島の最暑日。


 まぁすごく快適な適温で、それプラス船旅の疲れもあったのか、私はぐっすり眠りについた。


   ◇


 ぐっすり眠っていた私は、カーラにたたき起こされた。


「議会が始まる、行くぞ」


 そう、うるさく言ってくる。


「いまゃ、何時なにょよ、もー、ねむちゃいよぅ」


 ろれつが回らない。私は朝に弱いのにぃ。


「8と1時だ。そういやアンナは朝が苦手だったな、はははは」

「もうちょっと、ねかしぇて」


 私はマールのベッドに蹲る。


「起きろっ、もう起きる時間だぞっ」


 カーラが体をゆすってきた。


「ああ、もう、しょうがにゃい」


 私は立ち上がる。パジャマを脱いでいった。


「水はこっちだ。早く顔洗って歯磨きしろ」


 カーラは着替え終わった寝ぼけ眼の私を、無理やり引っ張っていく。


 それから水で顔を洗い、やっと眠気が吹き飛んだ。


「準備は良いか」


 カーラが尋ねるのに、ウィンクで答える。


「マール、写し絵を願いよ」


 私は

「ココーン」


 連れられた議会室は数十人が座れる広さの部屋だった。


 誰かが高い位置に座っているという事もなく、皆が7列に並べられた椅子に座って行われる。その皆が向いている先にはプタンジック島の国旗が壁にかけてあって、その下には投票箱があった。


「こちら、アンナ・イトーネ。帝国白魔導士です」


 出席者全員が拍手して歓迎の意を示しだす。


「発言します」


 と手を上げながら言って、禿げ上がった頭の老人が立ち上がった。


「あー王より名を受けた、コティ・メーロです。あー自由に島内を見て行ってください。あーもちろん、我々への質問も答えますよ」


 私はせっかくの機会だから、議会の仕組みについて尋ねてみる。


「あーそうですな。あー議会は誰でも参加して、意見をして、投票することができます。あー代議制ではなく、誰が上や下などの判定はありません。無論、あー、数に限りがありますから、あー、能力で上下が決められ議会に参加できます。その能力と言いますのは、あー知識量の事であります。あー、まず的確な判断に知識量の多さは直結する力量でありますから、尊重されます。あー、そして、あー、通用する知識は専門的なものであります。自分の専門に特化した者が、あー、こうして集まり、こうして同じ方向を向いて議論する事が、あー、議会の理想と考えております」


 うーむ、長くなりそう。こういう偉いジジイの話はやはり長い。


 しかし面白い話ね。流人が流れ着く、人が住む最低最悪の街なのに、ちゃんと議会まであるなんて。


 そのあと、メーロ氏の話を聞いた後、私は議会を退室した。


 そして、王の元へ向かう。


 王の治療と見立てた、調査のためだ。


 使い魔の蛇が動き、露わになった王の体に触れる。


「私はこうして寝ているだけでよろしいですか」

「はい、じっとしていてください」


 魔力を高め、ボファルを唱えた。


 前よりも魔力を高めた、精密なものにして彼女の体を調べていく。


 やってすぐにわかった事は血管の太さだった。常人の2倍ある。脈打つ振動がそこら中でしている。


 そんな馬鹿な、静脈まで脈打ってるなんてっ


 ……これは魔力が流れてる? 血管の中を……? どうなってるのこれ?


 私は驚きながらも、ほかの個所を調べていった。


 ……胸腔に水が溜まっているのと、肝臓が肥大している。あとは普通の老衰ね、体全身で治癒力がなくなってる。


 ……もう残り時間は……少ないわ……。


「終わりました、次は使い魔の方を見てもよろしい」

「かまいません」


 彼女が合図すると、蛇が私の元へやってきた。


「マール、お願い」

「ココーン」


 マールが蛇の頭に鼻をくっつける。


「使い魔は、使い魔同士で調べるんですか」

「はい。魔導回路をマールは検査できる能力を付与しました」


 その時、ずっと明後日の方向を見ていた彼女の目が動いて、私の目を捕らえた。


「どんな治療を、これからするんですか」

「……白魔法は基本、自然治癒力に頼るのはご存じ?」

「ええ」

「あなたの治癒力は弱まってる。そのため、回復魔法ではなく肉体強化をします」

「やはり、私はもう長く、ないですか……」


 彼女の目が映ろになっている。


「……しっかり治療しましょう」

「……そうですね……」


 彼女は微笑んだ。


「キュルルルル」


 蛇が彼女の顔をなめる。すると彼女はうんうんと頷いた。


「キュルルルル」


 蛇がもう一度、マールの元へ帰って頭をくっつける。


 何か問題があったんだろうか?


   ◇


 昼はカーラと一緒に食べる事になった。


 外に出て、4人掛けのテーブルにふたり座って焼いた魚を食べる。そこら中から焚火の煙が青空へと昇っていく。


 久々に感じる外は太陽がまぶしい。住民は外で食べるのが一般らしく、たくさんの人が私達と同じように魚を焼いて食べていた。


 ひとつの焚火にテーブルが4個囲んでいる。


 あの建物に入ったところにあったテーブルと椅子が、そんな風にたくさん外に並べられていた。


「もう死期は迫ってるわ」

「そうか、議会に報告するよ、皆、専門家の診断結果を一番知りたがってた」


 カーラが焼き魚にかぶりつく。


「こういう食事なの、いつも」

「ああ、切り身にしたほうが良かった?」

「そうね、かぶりつくなんて久々」


 そう言いながら、私は身がつまった焼き魚にかぶりついた。


「失礼、帝国白魔導士の方ですか」


 振り向くと、男性ふたりが手をつないで立っている。


「ここ、開いてますか」


 私達の向かいの席を指さして聞いてきた。

 

「ああ、座んなよ」


 カーラが言うと、ふたりが仲睦まじく私達の前の席に並んで座った。


「もしかしてカップルなの?」


 私はつないだ手を見ながら尋ねる。


「はい」


 左の男性が何も隠すことなく肯定した。


「パレティレで迫害を受けまして、逃げてきたんです」


 しゃべりだす。右の男性は、左の男性が話すのを見ていた。

「ここは自由なの」

「はい」


 右の男性が微笑んだ。それに気づいて左の男性が微笑み返す。


「ふーん」


 私は魚にかぶりついた。


 ……なるほどねー……。


 私の中の好奇心が湧いて出てくる。


「カーラ、ちょっと住民達になんでこの島に来たか、聞いて回って良い?」

「ああ、皆、語ってくれるだろう」


 私は食事を早々に終わらせると、


「マール、撮っといて」

「ココーン」


 私は返事するマールを頭の上に乗せながら、食事中の住民達に話を聞いて回った。


 皆、快く語ってくれた。


 過去を嘆いている指名手配犯や、敵対する組織から逃げてきた元マフィアの人達。


 記者だった人達、これが一番多かった、暗殺者から逃げてきたらしい。そして暗殺者だった人、無論、足は洗っている。


 あのふたりのように愛の自由を求めた人。政治的にまずい事をした芸術家も自由を求めてやってきていた。作品は闇ルートで数千万エーンで取引されているそうだ。


 迫害を受けてきた黒髪の人、身分制度から逃れるために東部大陸から逃げてきたティシュレ人もいた。


 皆、プタンジックの街の事を聞きつけて、ここに来ていた。


 過去など関係ない。自由は極力認められる。社会的損害度が低ければ、どんな愛も、政治思想も認められる。


 彼女が言ってた、私の魔力は、ジデジを通じて人々に友愛と同調性を持たすと……。


 ここに来れば、皆が、安心に暮らせる……。


 犯罪者もマフィアも、友愛と同調性を持って第二の人生を送っていた。

 

   ◇


 私は港の端に来た。


 王が言っていた魔導線で亡くなっというスーという人の調査のためだ。


 私の目の前では、太い魔導線が海の中へと入って行っている。


「異変はここから、と彼女は言っていたわ」


 カーラは魔導線を指さした。


「一緒に仕事をしていた整備部の証言では、スーは魔導線漏れの修理の最中、誤って魔力が流れ込んだために意識を失った。そのまま海中に沈んでいってしまって遺体はない」

「命綱はつけてなかったの」

「切れたらしい」

「切れた?」


 カーラが思い出すように上を見あげる。


「……警備部としては命綱に何か細工がされていたと考えているようだ」

「犯人に心当たりはないの」

「あったから同僚を調べたが、別に何もだ。今から整備部に行くか?」

「ええ」


 私はカーラと一緒に、適性の色鮮やかなペイントがされた第1昇降機に入り込んだ。


「マール、写し絵を撮っててよ」

「ココーン」


 マールが頭の上に登る。


 丸い昇降機の中は3、4人が入れるものだった。カーラは魔方陣に手を当て、魔動機を駆動させる。


 音を立てて、魔導線をレールに昇降機は海の中へと入って行った。


 やがてプタンジック島の底に来る。そこは整備所となっている広い場所になっていた。


「ココーン」


 マールが突然、鳴き声を上げる。


「コン、ココーン、ココッ、ココーン」


 ……この鳴き方は……黒魔導反応……!?


 私はあたりを見回した。


 椅子とテーブルが置かれた休憩スペースと、壁も扉もなく予備の第2魔導線が部屋いっぱいに巻かれて置かれている。壁にはプタンジック製と鉄製の工具が壁一面に吊らされていた。


 天井は高く、光は壁に掛けられた光球だった。だから中心部には床に光球が設置してある。


 整備士が7人、男性5人女性2人がドアから入ってすぐの、物を積んで仕切ってある休憩スペースにいた。


「とりあえず隈なく調べたいとおもってるから、協力お願いね」


 私が見まわしながら言うと、座って談笑中だったであろう整備士たちが、目を合わしだした。嫌がってるみたいだな。


「協力してくれ、王の命令だ」


 カーラが整備士たちに強く言う。


「あーそうかい」


 小太りの男性が前に出る。


「私からスーの事は話そう、皆は作業を続けて」


 男性の合図とともに6人の整備士が散らばって行った。


「同僚が事故死してね、皆が疑われて、それでもう……ちょっとね……悲しんでいるのに犯人扱いではな、怒る気持ちもわかってくれ……」


 困った顔をして、男性は薄い毛髪の頭をなでる。


「まず、この室内を見て回って良いかしら」

「ああ……かまわないよ……」


 私は工具のかかっている壁へと歩いて行った。


「ココーン」


 マールが上を見上げる。私も高い天井を見上げた。そこには蓋がある。


「もうすぐパルティレの街に全員で買い出しに行くんです、それが良い気晴らしになるでしょう」


 男性が和やかに話してきた。


「あれで天井裏に行けるの?」


 私はそれを断ち切って尋ねる。


「ああ、はい、そうですが」

「上がってみるわ」

「ええっ、あそこは建設の時に工事で使われた場所で、誰も入ったことないから梯子なんてものもないし、行けそうもないですが……」


 私はカーラに振り返った。


「ユールの変化能力使わせて」

「ああ、良いが……おいユール、長い梯子に変化」

「ココーン」


 ユールが元気な鳴き声を上げると、ボンっと煙が出てきた。すぐに霧散した煙の中から、突如ぐーんと梯子が天井へと伸びていく。


「よし、いくかな」

「ゆっくり優しくな。ユールの体を踏み台にしてるんなんだから」

「わかってるわよ」


 私はユールの梯子を上り、天井に達した。


 思い蓋を開け、天井に頭を出す。


 ……真っ暗ね。


「マール、光」

「ココーン」


 肩にいたマールの目が光った。天井裏が明るく照らされる。


 その瞬間、私は絶句した。


「おいアンナ、どうしたんだ?」


 下でカーラの声がしてくる。


 ……ああ、なんてことっ、どうすれば良いっ? 誰がこんなものをっ。


 ふと壁にある物に目が行く。


 あれは、あの図は、まさか設置場所!? これだけじゃな――


「――くそ! 全員退避しろ!」


 その時、下から怒号が響く。カーラのものではない、小太りの男性の声だ。


「起動させろ、昇降台に乗り込め!」


 男性の声と共に目の前で容器の液体が噴出した。液体のかかった部分がミチミチ、ギシギシと軋みを上げだす。


 すぐに大きな音と大きな振動が襲ってきた。あたりに亀裂が入り、穴が空く。大量のプタンジックのかけらが降りかかってきた。


 私は落ちないように、ユールをがっしと掴む。


「おいアンナ、降りて来い!」


 下からカーラの声が響いてきた。


「そ、そんな事ッ、言ったってっ」


 揺れる中、落ちないように必死に掴むので精一杯だ。


「ユール、ベッドに変化!」


 掴んでいた梯子が煙に変わる。瞬時に私は落下していった。

 

「きゃあああっ」


 私は落ちていく。すると、


――ポワンッ。


「きゃあっ?」


 私の体は、ユールの変化した巨大ふかふかベッドの上に落ちた。あまりのふかふかさに何の痛みもない。


「アンナ、昇降機へ早くっ」


 目の前でカーラが叫んでいた。私は素早く身を起して立ち上がる。ポンと煙が出てベッドがユールに変わった。


 整備室が崩れていく。プタンジックの壁と天井が溶けて形を失っていっていた。地震みたいに床も激しく揺れている。


 私達は第3昇降機に乗り込む。

 

「下で何が起こったの!?」

「あの整備士たちが何かやったみたいだった」


 カーラが昇降機を起動させた。音を立てて、昇降機が上がっていく。でも激しい揺れで昇降機はぐらぐら揺れて、今にも魔導線から外れて海の底へと落ちていきそうだった。


「……私が天井裏で、何を見たと思う?」

「なんだ? なにがあったんだ」

「あそこにあったのは……奴らの巣よ」

「巣?」


 カーラが訝しい目で見てきた。肩のユールも同じ顔をして見てくる。


「破壊活動家の、巣よ。イデオネと書かれた大きな容器が何本もあったわ」

「なんだって!?」

「壁に図が、プタンジック島の図よ、そこに赤い印が何十個とあったわ、もしあの設置場所が本当なら……」

「じゃあ、この揺れは!」

「きっと設置されたイデオネの容器が爆発したのよ」


 カーラが黙り込んだ。


「あいつら全員、整備士が全員、破壊活動家だったということか? ははは、そんなバカな……」

「カーラ、早く島から出た方が良い、この島が溶けて崩れる可能性があるわ! パルティレの街に全員で買い出しに行くって言ってたの、あれで逃げた後に爆発させる手はずだったんじゃないかしら!」

「……」


 カーラが黙り込んだ。


 と突然、ゆらゆら揺れる昇降機がガタガタと振動しだす。


 何事かと思ったら、カーラが扉を開いた。港に到着していた。


 カーラが駆け出す。私は後を追って行った。揺れはだんだんと大きくなり、もうまっすぐ走ることもできなくなっていた。壁にもたれながら、人にぶつかりながら、私達は走り抜ける。


 島中、大騒ぎになっている中、カーラが向かったのは議会だった。


「アンナは入れない! あと、今すぐ自分で帰ってくれ、悪い、また会いに行く!」


 カーラは言い捨てるようにそれだけ言うと、私を残して扉を閉める。


 隙間から見えた議会室は人で溢れかえり、警備部のセッドさんが狼狽していた。


 ……カーラ……。


 私は混乱している住民をかき分けて、港へと向かう。


 脱出しようとしている人と共に、私は島を後にした。


   ◇


 それからプタンジック島は、どんどん小さくなっていった。泡立ちながら、崩れていった。


 30日後、パルティレの街からも見えなくなる。このまま溶けてなくなると環境保健部も警裁部も同じ見解を出して喜んでいた。


 カーラ……。


 あの時以来、会ってない。一緒に沈んでいったわけではないだろうけれど……。

 

 こうして家のテーブルでキセルをふかしていると、私は感慨深くなってしまった。


 そうだっ、プタンジック島で撮った写し絵があったっ。


「マール、写し絵を照射して」

「ココーン」


 床で寝ていたマールが起き上がり、両目を光らせた。


 空中に照射された光の中に、映像が浮かび上がる。


「なにこれ?」


 20代くらいのカーラの姿が浮かび上がった。でもその場所もなにもかも記憶にないものだった。


 いつのものかもわからない。女性魔道士は全員スキンケアに魔力を使うから見た目ではわからない。きっと、ちゃんとしてた頃のカーラ……。


 カーラが若い女性に抱きついた。こっちは見たことのない人だった。


 ……いえ、見たことはあるわ。


 カーラが抱き着いた若い女性の傍に、大蛇がいた。


 これで確信した。


 そうよ、間違いない、このカーラが抱き着いているのは、王だわ。


 しわくちゃな姿でしかあった事ないけど、どこかしら面影がある。


「……なんでこんな写し絵を持っているの」

「コン、ココンコーン」

「? どうしたの?」

「ココン、ココン」


 写し絵が大蛇の姿を映して止まった。


「コンコーン」

「ジテジから貰ったっての?」

「ココーン!」


 いつ? 王の調査の時かしら。そういえば鼻をくっつけ合わして、あの時に……。


 ……でもなぜ……。


 王は私達と同じ帝国魔道士のローブを着ている。


 映像が変わった。


 政府の高官とみられる大勢の人達の前に、カーラと王がいた。


「あなたが、あの伝説のソフィア様ですね。もちろん知っていますとも、その魔力値は帝国中に轟いています」


 高官達が王に頭を下げている。


 しかし、王の話を聞いて態度が急変する。


「私が開発した魔導回路は使い魔に入れ込みました。心理作用を及ぼし、人々に友愛と同調性を持たします。私の魔力を、このジテジが分泌して皆に晒させます」


 そう王は言ったのだ。


 それを聞いた高官達は、この地から去れと警告してどこかへ去っていった。


 また映像が変わる。


 カーラと王は、今度はガンキ政府にいるみたいだった。そして王が開発した魔導回路の事を言った瞬間、我々にかかわるなと追い返されてしまった。


 その後も映像が変わり、そのたびに何か所も国を回って、帝国中を旅して、追い出されていた。


 ここまで繰り返されると、追い出している国に共通点があるのがわかる。どこも戦争をしている国だ。そんな国をふたりは巡っている。


 そしてまた、映像が変わり、ここではカーラが叫んでいた。


「ソフィアは戦争に効く解毒剤のようなものだ。それはつまり戦争で儲けている奴ら、戦争従っている奴らには困った存在なんだ。だから迫害を受ける。それだけじゃない、前にも奴らは暗殺者を送り込んできやがった!」


 王が優しく微笑む。


「でもその暗殺者も許しを乞うてきたではありませんか」

「もう帝国は捨てよう! 国々を回って気づいたのは私達のように迫害を受けている人たちがたくさんいたという事。その人達のために、国を作ろう、な、良い考えだろソフィア」

「……できるかな……」

「ははは、もちろん、私がソフィアの事は守る、安心しなっ」


 カーラが胸を強くたたいた。それに、王が微笑む。


 そして、カーラと王が抱き合った。


   ◇


 ここからどうなって、プタンジック島に国を築いたのかはわからない。


 あの2人の姿を見るに、大変な思いをしたんだろう。


 王もなぜこの写し絵をマールに渡したのかも、わからない。写し絵能力は使い魔でも珍しいから、死期を悟って自分が死んだ後も記録を残したかった、とかぐらいしか思い浮かばない。


 それから私はマールで撮った写し絵と、調べた記録と、経験から、プタンジック島にあった国がどのような国だったのか、熱く語る本を出版した。


 でも全く売れなかった。


 が、ちょっとだけ反響はあった。


 警裁部からお呼び出しをされたり、反政府的なのが政府内にいるのはどういうことかと市民からの批判とか、本部長から降格した事とか……。


 どうも政治関連は不自由で嫌になる、まっ社会的無政府主義だから当たり前か……。


 あとカーラからの手紙が来た。


 王はなくなってしまったらしい。そしてカーラは今、エリクソン国の僻地にあるエジーロという街に住んでいるらしい。一度遊びに来いと結んであった。なんでも自然豊かでとても良いところだそうだ。


 なので私はもう引退して、そのエジーロに移り住もうと思っている。


 ジテジの魔導回路をユールに移しているとしたら、私たち2人分の魔力を併せてやれば、きっとまたプタンジック島のような街が作れるはずだから。

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プタンジック島 ミーナ @akasawaon

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