第3話
風が少し吹き始めた頃、遠くの空の色がだんだんと変わり始めてきた。そろそろらしい。私が時計を確認するために、スマホを取り出そうとすると、隣に座っていた彼が、私の膝の上に飛びついてきた。どうやら彼はまだ終わりたくないみたいだ。
仕方がない、もう少し続けようか。
親ガチャという言葉が流行ったのは、今から三年も前のことだ。自分の生まれ育った環境や教育過程は親に依存しているから、20代前半までは親によって人生が左右されていると、ソシャゲのガチャを揶揄して「親ガチャ」などという言葉が流行り始めたのだ。
結論から言うと、これは無責任な言葉に聞こえる一方で、先進国の現状を示唆しているように取れる言葉だ。難しい話をするつもりはないが、親の給料と子どもの進学率は正の相関関係にあることがわかっている。親が良ければ子も優秀になると言うのは、遺伝的な要因だけでなく、環境的な要因も寄与しているだろう。
とはいえ、私はこの「親ガチャ」と言う言葉があまり好きではない。やはり、この言葉には責任感がないのだ。自分の不出来さによる将来の不安性を親を選べなかったの一言では片付けられないはずだ。これを平気で使えるやつは、弱い人間だ。
彼は私を見上げると、お前はどうなんだと言わんばかりのその目力に少し後ろ暗い気持ちになった。私は、彼をそっと撫でると、足元で石のタイルの隙間から生えている雑草を見つめた。
私も弱い人間だ。朝はまともに起きることはできず、遅刻してばかり。夏休みの宿題はギリギリまでやらず、間に合わなかったのも一度や二度ではない。留年だって三回もしたし、借金まで抱えた。子が親ガチャというのなら、親から見れば子ガチャに失敗しただろうな。
私は、過不足なく与えられてきたはずだ。うまく使いこなせば、もっとまともで、誰からみても素晴らしいと言えるような人生を送ることができただろうに。
一瞬、私の前髪が大きく跳ねるほどの風が吹いた。
私は、失敗作なんだろうか。
私は、生まれてくるべきではなかったのだろうか。
私は、愛されていないのだろうか。
ぐるぐると、自分の感情を飲み込むかのように、まるで全世界が私を否定するかのように、悲観的な言葉が思い付いた。
「……いたッ。」
彼は、私に爪を立てた。その鋭い目つきで何かを訴えかけるように、こちらをただじっと見つめていた。
全く、自由な生き物は何を考えているかわからんな。
だが、少し渦の中に落ちかけていた。君は私を正気に戻してくれたのだろう。感謝する。
私が腿の炎症部を優しく撫でていると、視界が急に明るくなるのを感じた。新しい朝がやってきたようだ。
毎日生きることを選択していると、生きるよりも死んだ方がマシなのかもしれないと思わせてくる選択肢が顕れる。しかし、そこで死を選択しようと、生を選択しようしたところで実はあまり変わらない。もちろん死を選択すれば、人生はそこで終わりになり、もう二度と選択する機会はなくなってしまう。
選択肢はほとんどが一択で進めるが、中には非常に難しい選択も発生する。しかし、宇宙スケールで考えればその選択肢も、なかったに等しくなるだろう。また原子レベルでミクロなスケールで考えても、この選択肢が大きく彼らに影響を与えることはない。
そう、自分一人がどれだけ悩んだところで無意味なのだ。失敗作だろうが、愛されてなかろうが、そんな悩みすら意味をなさない。
ああ、それでも朝はやってくるというのだ。
こんな私にもだ。不平等な人生だろうか。
いや、あり得ない。私は一人だろうか。
それも違う、この1匹は私を見ている。
この朝をどう使うかは、私次第だ。
私は失敗作か 雄丸田ブルー @owd_a01
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