第2話 そこまで仰るなら、宜しいですわ。

とうとう騒ぎを聞きつけた、この国の王太子も側近を連れて現れた。野次馬に混じって、この喜劇の行末を黙って見守っている。


「私達は愛し合っているの!! お願いします、ジーク様と婚約を破棄して!! 」

可愛らしい顔のオデットが涙ながらに訴える。


だいたいこんな人の目のある所で話す内容ではない。恋人同士の中に後から入ってきたオディールが酷いと、皆に知らしめる為にオデットがこの場所を選んだようだ。気の弱いジークブルクは既に尻に敷かれいた。


「お願いだオディール。僕はオデットを愛しているんだ。君から父に言ってくれ。」

「嫌ですわ。」

ジークブルクとオデットは手を取りながらオディールに懇願した。だが頑なにオディールは拒否する。


「仕方ありませんわ。」

オディールは淑女の必需品の扇を取り出し広げた。


「オディール!? 」

オディールの言葉にジークブルクは希望を見た。


ございませんでしたが。この婚姻は政略結婚ではなく、のための婚姻ですのよ。」

ディオールが目を細めて二人を睨む。(目が悪いだけで睨んではいない。)


「「し、借金!! 」」

ジークブルクとオデットは、驚きに声をあげた。周りの令息令嬢、王太子もざわめいた。


「そうですわ。ですので婚約破棄はできかねますわ。」

オディールは冷たく理路整然と言ってのける。


「借金なんて…… 聞いて無い。」

「不名誉なことですので、言えませんわ。」

オディールは口元を扇で隠し、悲しい目をした。


「どうして、借金なんか!! 」

「領地の日照りですわ、領民のためですわ。」

ジークブルクは吐き捨てた。オディールは借金の理由を話した。俯くジークブルクにオデットは縋り付く。


「ジーク様。」

「オデット。それでも…… 僕はオデットを…… オデットを、愛しているんだ!! 」

悲しそうなオデットを見て、ジークブルクは最初は小さい声から、大きな声へとオデットへの愛を叫んだ。


「オディール、お願いだ。婚約破棄をしてくれ!! 」

「できませんわ!! 」

ジークブルクの言葉を拒絶する。


「それともジークブルク様が、代わりに借金を返済してくださるのですか? 」

借金がある限り婚約破棄をすることは出来ないとオディールは言い放つ。


「僕が、借金を返すのなら君は婚約破棄を承諾してくれるのか? 」

「婚約しているはありませんわ。」

借金さえ無ければ、婚姻を結ぶ意味はないとオディールははっきり言った。


「ジーク様。」

「オデット。」

二人は手を握りしめた。


「分かった、その借金は僕が返そう。」

ジークブルクはオディールに借金返済を言った。オデットに支えながらも、その目は強い輝きを保っている。


「本当に? ジークブルク様が、代わりに借金を返済すると仰るのですか? 」

オディールは驚きの声をあげた。


「僕が、代わりに借金を返済する。だから婚約を破棄してくれ。」

「それはグレート侯爵家嫡男としての言葉ですか。後で反故にはできませんわよ。」

再度、ジークブルクに確認を取る。


「男に二言はない。」

「ジーク様、かっこいい。」

オデットはジークブルクに抱き着いた。


仰るのなら、宜しいですわ。」

オディールは野次馬の中にいる王太子に目を向ける。


「王太子殿下、今の話の証人になってもらえますか? 」

「ああ、いいだろう。」

王太子は頷いた。


「グレート侯爵家の嫡男、ジークブルクの男気を見たような気がする。」

王太子はジークブルクを称えた。


「わたくしオディール・フォン・ブラック公爵令嬢は、ジークブルク・フォン・グレート侯爵令息との婚約破棄を宣言しますわ。」

オディールは声高らかに、婚約破棄を宣言した。


「ジーク様!! 」

「オデット!! 」

二人は抱き合い喜びあった。


「ジークブルク様。いえ、グレート侯爵令息。」

オディールは二人に話かけた。


「婚約破棄は致しましたけど、これは朗らかにグレート令息の不貞。慰謝料は貰い受けますわ。」

オディールはにっこり笑って、お弁当箱を持ってその場を後にした。





「馬鹿っか、もーーん!! 」

侯爵家の一室で怒鳴り声があがった。


「やっと王家との繋がりが出来る処をお前は!! 」

グレート侯爵は息子のジークブルクを叱咤した。体が小刻みに震え、今にも怒りで倒れそうだ。


「ブラック公爵家との婚約を破棄するとは!! 何を考えている!! 」

「父上、僕はオデットを愛してるんだ!! 」

「男爵家など知るか!! 」

侯爵は近くにあった灯台を手に取って振り回す。


「これでは借金を…… 返して、」

侯爵は借金の事を話しだした。


「借金は僕が返すよ、だから安心してくれ。」

ジークブルクは胸を張った。


「何を…… 言っている? 」

呆然と呟く。


「ブラック公爵家への借金は僕が返済すから、安心してくれ。だから、借金のかたに婚姻を迫られなくてもいいんだ。」

ジークブルクは嬉しそうに話す。


「馬鹿っか、もーーん!! 借金をかたに婚姻を迫ったのはこっちだーー!! 」

「えっ? 借金はグレート家がしていたんじやぁ…… 」

「逆た!! ブラック公爵家が、借金をしていたんだ!! それを、それを、お前は、お前は 」


バタッ!!


「父上!! 」

とうとう侯爵は怒りあまりの倒れた。


憐れグレート侯爵家は借金を返しては貰えなくなり、慰謝料をも払うこととなった。



「ジークブルク様、オデット様。お幸せに。」

「「「お幸せに。」」」

オディール公爵令嬢は、両親と弟とお茶の祝盃をあげた。




【完】

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婚約破棄ですって、嫌ですわ。 ❄️冬は つとめて @neco2an

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