第5話孤独の理由

ミカの姿がスーパー「マルキョウ」から消えて、2週間。


——場所は変わって、郊外の小さな団地の一室。


午前10時。

高瀬ミカは、キッチンの椅子に座り、スマホの家計簿アプリを無言で見つめていた。


テーブルの上には、1歳半の息子・ユウトの離乳食。

寝室からは、微かないびき——病床に伏せた母のもの。


「……あと、今月の残り、5,400円」


彼女の目は冷静だった。

でも、心の中にはいつも、言葉にならない焦りがあった。



3年前——


ミカは都内のIT系企業で働いていた。

キャリア志向、仕事一筋。数字で成果を出すことが自分の誇りだった。


けれど、結婚・妊娠・母の介護——

一つずつ重なっていった「選べないこと」が、彼女の人生から“選べること”を奪っていった。


夫は出張がちで頼れず、実家に戻ったころには母は初期の認知症を患い、生活の中心は「育児と介護」に変わった。


「無駄を減らさないと、生き残れない」

それが、ミカの中でいつしか“哲学”になっていた。


スーパーでの情報収集も、値引き戦も、

“勝ちたい”わけじゃなかった。

ただ、家族を守るには、そうするしかなかった。


でも——

“合理性”だけでは、どうしても立ち向かえないものがある。


それを、あの火曜市の“おばちゃんたち”の中で、

ミカは無意識に感じ取っていたのかもしれない。


「うるさくて、遠回りで、でも…あったかかった」


ミカは、冷蔵庫に手を伸ばし、買い置きしていた冷凍コロッケを取り出す。


「この味…あのスーパーのやつか」


目を閉じる。

あの日、にぎやかに喋っていたあの人たちの声がふと、耳に浮かぶ。



その時、スマホが震えた。

LINEの通知。送り主は「山田ケイコ」。


「火曜市の冷凍コーナー、今日ちょっといいもの出てるわよ」

「あんた、来ないの? ちょっとだけ寂しいわよ」

「※別に歓迎してるわけじゃないからね」


ミカの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。


「……行くだけ、行ってみようかしら」

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おばちゃん大戦争 Miki @mikimarugt

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