第4話一時撤退
あの日、ミカはいつものようにスーパー「マルキョウ」に現れた。
けれど、何もかもが少しずつ、ズレていた。
「冷凍食品、今週はB棟の冷凍庫で管理してるのよ」
「精肉は今日、午後から再入荷って」
「お魚、今日はどれも脂がイマイチね〜」
いつもは静かだった売り場が、どこか騒がしい。
チラシの情報、アプリのタイミング、割引のパターン…
すべてが、微妙に“外されていた”。
(……やられたな)
ミカは悟った。
無言のうちに築かれた“包囲網”。
目には見えないけれど、確実に自分を排除しようとする空気。
その日の買い物を終えたミカは、カゴの中を見つめてため息をついた。
「……コスパ、悪すぎるわね」
翌週、ミカの姿は消えた。
一方、おばちゃん連合は——
「ミカさん、来なかったわね」
「やっぱり、地道な主婦の知恵には敵わないのよ」
「静かでいいわ〜。あの緊張感、ちょっと疲れたもの」
勝利の余韻に浸るおばちゃんたち。
しかし——
スーパーの中に、ほんの少しだけ、物足りなさが漂っていた。
「…なんか、最近ピリッとしないわね」
「競争相手いないと、気が抜けるわ」
「っていうか、割引タイミング、なんか緩んでない?」
そして、そこに現れる別の異変。
・新人スタッフの不手際で、値引きタグが間違って貼られる
・在庫管理ミスで、週末の目玉商品が入荷されない
・客足が徐々に減り、火曜市の勢いが下がっていく
かつての“緊張感”が、むしろスーパーの活気を保っていたことに、誰もが気づき始めていた。
「……あの子、いない方がラクだけど…」
「ラクがいいって、わけじゃないのかもね」
——そして、おばちゃんたちは思い出す。
最後にミカが見せた、ほんの一瞬の“さみしそうな表情”を。
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