死後の寮8号室、真夜中までの絶叫禁止

カミミチ ケウ

エピソード1:「新しいルームメイト」

最初の感覚は、頬に触れる布の感触だった。


橘ミナミはゆっくりと目を開けた。疲れていたからではなく、光の質に何か根本的におかしいところがあったからだ。淡い黄色で、記憶のようにぼんやりとしており、天井に対して不自然な角度で差し込んでいた。まるで太陽が自分だけの理由で横向きに輝くことを選んだかのようだった。


天井は古い木材でできていた。石膏ではなく、本物の木だ。板は少し不揃いで、そのうちの一枚には小さなひびが入り、琥珀色の接着剤で雑に修復されていた。彼女はそのひびをじっと見つめた。見覚えがなかった。何もかもが。


体は完全で、怪我はなかった。しかし、制服の感触が違和感を伴っていた。


彼女はゆっくりと起き上がった。まるで自分の手足が裏切るかもしれないかのように慎重に動いた。厚手のウールの毛布の下から足を抜き、紺のプリーツスカートが膝に軽く触れた。アイロンをかけた覚えもないのに、妙に整っていた。制服の白いシャツは清潔で、完璧すぎるほどきちんとズボンに収まっていた。その上に、ベージュのカーディガンが肩に軽くかかっており、半分だけボタンが留められていた。少し暑すぎるようにも感じたが、不快ではなかった。


ミナミの心臓が喉までせり上がった。


「……誰が着替えさせたの?」


そう誰に言うでもなくつぶやいた瞬間、すぐに後悔した。


部屋は彼女のものではなかった。


壁には木製のパネルが施されていた。一方の端には埃をかぶった目覚まし時計が載ったチェストがあり、時刻は00:07を指していた。窓は閉じているのに、薄いカーテンがわずかに揺れている。彼女のベッドは金属製のフレームで狭く、きれいに整えられていた。もう一つベッドがあった。


そのベッドにはすでに誰かが座っていた。


少女があぐらをかいて座っていた。緩めのセーターに柄物のショートパンツを着ており、ミナミと同じくらいの年齢に見えた。髪は栗色でウェーブのかかったボブカット。片手に持っているトーストは真っ黒に焦げており、その表面にペンの鈍い先で何かを引っかいていた。


ミナミが起きたのに気づくと、少女は無表情のままトーストを掲げた。


そこには「やっと起きた。寝てる時めちゃくちゃ変だったよ」と書かれていた。


ミナミは見つめた。


「……それ、あなたが書いたの?」


少女は一度うなずいた。


「いつも食べ物に書くの?」


またうなずいた。


「……名前はあるの?」


少女はまた新しいトーストに書き始めた。「ミツキ」


ミツキは最初のトーストを肩越しに放り投げ、次のトーストに無表情で書き始めた。まるでIKEAの家具を組み立てるかのように機械的だった。トーストは机の上に落ち、少し金属的な音を立てた。


きしみ音。


ミナミの視線が木のドアに向けられた。鍵はない。取っ手もない。大きな、鈍い真鍮のノブがついているだけで、鍵穴もなかった。


「ここは……どこ?」


彼女はつぶやいた。


そして立ち上がった。


靴下越しの床がわずかにきしんだ。天井からは埃が繊細な糸のように舞い降りていた。まるで放棄されたクモの巣のように。ドアに向かう一歩一歩が、体が重力を再確認しているような感覚だった。


ノブに触れた。二度目の試みで回った。それは嫌々ながら起きる子供のような鈍さだった。


廊下はくすんだえんじ色のカーペットが敷かれていた。壁のランプがぼんやりと金色の光を放ち、暗がりの中で神殿のように点在していた。彼女はためらった——そのとき、廊下の奥からこもった声が聞こえた。


「——にしても、こいつ遅いな。まだビビってると思うか?」


別の声が答えた。「関係ないよ。プリズムが片付ける。」


ミナミは目を細めた。本能と理性がぶつかり合う。体が先に動いた。


彼女は早足で歩いた。部屋1-12を通り過ぎる。壁に半分埋まった奇妙な古時計を通り過ぎる。窓の外には同じ廊下が映っていた。彼女は自分の反射が一拍遅れて瞬きをするのを確認するだけの時間、足を止めた。


角を曲がった——そして彼らを見た。


共有スペース。


使い古されたビーンバッグ。静電気だけを流す古いCRTテレビ。埃をかぶったペーパーバックが並ぶ棚には「バナナ・ヨシモトの眠り」と「上級呼吸法ガイド」があった。空気はわずかにお茶とコピー機のトナーの匂いがした。


そしてその中央に、五人の居住者。


まず目に入ったのは、重力が彼にだけ作用していないかのように、本棚に寄りかかっていた背の高い少年だった。彼のコートは長く、暗灰色で、前を開けてリブ付きのインナーを見せていた。髪は塩のように白く、乱れていた。月川レン。


次に見たのは、向かいの壁に片足を立てて寄りかかっている少女。空調の音に合わせて、深紅のスカートがかすかに揺れていた。長い黒髪の三つ編みが肩に巻きついていた。茨シノ。


彼女はミナミを真っ直ぐに見つめた。その視線には敵意も歓迎もなかった。


その隣の床には、色あせたオリーブ色のパーカーとジーンズを着た少年が座っていた。片膝を抱えていた。髪はくすんだ茶色で、脅されでもしない限りとかされることはなさそうだった。御影ハルト。彼はミナミを軽く一瞥した。


「新入り?」


ミナミが答える前に——


「真夜中以降の悲鳴は禁止。」


その声は人間のものではなかった。*壁*から聞こえた。ベルベットに包まれたサイレンのように、骨の奥に響いた。


ミナミは自分が叫んでいたことにすら気づいていなかった。


彼女は口を手で塞ぎ、後ずさった。


ハルトが笑った。


「やっぱり新入りか。」


レンが首を傾げた。


「名前は覚えてるか?」


「私——ミナミ。橘ミナミ。」


「大したもんだな、それだけ覚えてりゃ十分だ。」


茨は何も言わなかった。彼女は一度だけ足をトンと鳴らした。その動作は静かで、鋭かった。


その時、ミナミの背後からトーストをかじる音が聞こえた。ミツキが音もなく現れ、新しいメッセージを掲げた。


「ここは第八寄宿舎。天国でも地獄でもない。存在の狭間にある、生命と死の外にある収束点。」


照明がちらついた。


ミナミがさらに問いただそうと口を開いた——


——テレビが突然、まばゆい白に爆発し、幾何学的な形のシルエットを映し出した。球体でも立方体でもない。その間を揺れ動く、すべてが稜線と光の存在。


再びあの声が響いた。清らかで、性別を持たず、重層的で。


「ルームメイト情報、同期完了。試練は夜明けに開始。それまでは順応せよ。」


美波はしばらく動かなかった。


音は止んでいた。テレビに映っていた幾何学的な形――ちらつく幾何――は消え、代わりに静かな、幽霊のような静電音が部屋に漂っていた。その不在の中、まるで雷が落ちた直後に雷鳴が鳴る前の瞬間のように、不気味な静けさが部屋を満たした。


彼女の膝は弱々しく感じられた。胸の中で籠の中の鳥のように暴れていた心臓は、今は鈍く、一定の恐慌へと落ち着いた。鋭くはない。即座でもない。しかし、重い。まるで不可能な何かを飲み込んだかのように。


誰も喋らなかった。最初は。


蓮はその場に留まり、本棚にもたれかかったまま、まるで今のアナウンスが歯磨きを忘れたことを思い出させただけのようだった。茨は舌打ちしたが、何も言わなかった。陽翔は吐息を漏らした。それが笑いなのか疲れなのか、判別は難しかった。


月子はまた消えていた。何の音も、気配もなく。


美波が沈黙を破った。


「……“試練”って、どういう意味?」


陽翔は肩をすくめた。「夜明けになればわかるさ。皆そうだった。」


「それは答えになってない。」


「お前に答える義務はない。」


それは茨の声だった。鞘から半分抜かれた刃のような声――乾いていて金属的で、まだ切れてはいないが、そうなることを示唆していた。


美波はゆっくりと彼女に向き直った。「あんたがそれを決めるの?」


「他の誰よりも多く生き延びてきたのは私よ。」


蓮が本棚から体を起こした。「茨、無駄なことは言うな。すぐに理解する。」


茨はまた舌打ちした。「勝手にすれば。」


美波は腕を組んだ。頭がぼんやりしていた。「やだ。夜明けまで待つなんて無理。誰かが今、教えてよ――」


その言葉が終わる前に、部屋の奥にある、壁紙と一体化してほとんど見えない扉が「ガンッ」と音を立てて開いた。機械的で冷たい音が響いた。白い光の細い線が扉の縁に沿って走った。


開いた。


その先には白いタイルの部屋があった。広く、天井は高く、中央には奇妙な円形の構造物がそびえ、その基部では何かが脈動していた。テレビに映った幾何体とは異なるが、よく似ていた。不規則ではなく、眠る目のようだった。


「触るなよ」と陽翔が立ち上がりながら言った。


だが、美波はすでに足を踏み入れていた。何かが彼女を“呼んでいた”。声ではない。思考を吸い寄せるような沈黙で。


彼女は近づいた。


それは、音を立てて鼓動を強めた。


他の者たちも後を追ったが、距離は保っていた。茨ですら、片手を腰のあたりに添えるような、何かを掴もうとする動きを見せた。


その構造物は鏡のようなガラス、あるいはそれに似たものでできていた。部分的には透明で、別の部分では反射しており、動くたびにきらめいた。中央の脈動は、柔らかなセルリアンブルーに光っていた。


彼女は手を差し伸べた。


「誰もここに入れって言ってない。でも、入るなとも言ってない。」


「それが“仕組み”だ」と陽翔がつぶやいた。「指示は、あっちが与えたいときだけに来る。」


「それを……受け入れるの?」


「そうだ」と蓮が答えた。「さもなくば、死ぬ。」


美波の手は、脈動する表面の1センチ手前で止まった。太陽の光が冷たい水を通して届くような、暖かくも恐ろしい感触だった。


彼女は、触れた。


空気が崩れた。


部屋の壁が痙攣した――壊れるのではなく、“ずれた”。まるで中の何かが寝返りを打ったように。足元から深い低音が震えた。


そして、沈黙。


新たな声が、今度は美波自身の頭の中で囁いた:


「起動者、確認。神経インデックス照合中。基本キャリブレーション完了。初期役割:スレッドを割り当て。」


美波は後ずさりした。


「今の、何!?」


「聞こえたのか?」と蓮が訊いた。


「*聞こえなかった*の?」


「いや」と彼は簡単に答えた。「それぞれに違う。タイミングも内容も。個別インターフェースってやつだ。お前も繋がったな。」


「何も同意してない――」


「やつは、聞かない。」


壁から、タイプライターのキーが一斉に打たれるような音が鳴り始めた。多数の小さな金属製のスロットが開き、紙片を空中にばら撒いた。そのうちの一枚が美波の足元に落ちた。


彼女はそれを拾った。


そこにはこう書かれていた:

「試練0:順応。目的:共同生活構造への適応。期間:6時間。生存閾値:60%。失敗時:リフォーマット実行。」


「“リフォーマット”って何……?」と彼女は声に出した。


「失敗しなきゃ、わからんよ」と陽翔が答えた。「そして、わかんないままでいたほうがいい。」


茨が鼻で笑った。「あんたには、生き残る力なんてないけどね。」


もう一枚の紙が舞い降り、茨の手に。


「試練0。同じね」と彼女は無感情に言った。


蓮も自分の紙を見る。「俺もだ。」


陽翔も頷いた。「新人はいつもベテランと組まされる。あいつにとってその方が“面白い”んだとよ。」


その時、月子が音もなく現れた。空中の紙を一枚キャッチし、掲げた。


そこにはこう書かれていた:

「対象:非応答。自動エコー役割を割り当て。」


陽翔が笑った。「また“幽霊”役か。お決まりだな。」


美波は再び自分の紙を見つめた。


“スレッド”。


「……どういう意味?」


誰も答えなかった。


だが、彼女は“それ”を感じていた――背骨から、この建物より遥か上の何かに繋がる線。張っていて、見えなくて、微かに震えていた。比喩ではない。


文字通り、そこにあった。


“順応”試練は、始まった。


だが、ルールはまだ、姿を見せていなかった。


その後の静けさは、決して穏やかなものではなかった。重く、何か巨大な存在が彼らに気づき、今はただ視線を逸らしているだけだという感覚に満ちていた。プリズムの残像がまだ南の視界に踊っており、幾何学の亡霊のように部屋全体を覆っていた。


誰も口を開かなかった。


テレビの砂嵐は黒にフェードアウトした。


南は首筋に汗がたまり始めているのを感じた。素早く拭い取り、まるで何か隠された明瞭さにたどり着けるかのように、さらに部屋の奥へと足を踏み入れた。空気は異様に清潔だった。年季の入った家具があるにも関わらず、埃も、カビも、古紙の匂いもない。消毒されたような忘却。


月子は死んだテレビのそばにあぐらをかいて座り、セーターのポケットから三枚目のトーストを取り出した。


「夜明け=4時。あと3時間。」


彼女は焦げたメッセージのあるパンを、まるで聖典を開く巫女のように両手で掲げた。


南は他の者たちに向き直り、声を落ち着かせようと努力しながら言った。


「夜明けに何が起こるの?あれは私たちに何を望んでいるの?」


最初に答えたのは蓮だった。乾いた肩すくめで。「任務だよ。」


「だいたい、命がけのやつな。」遥人が続けた。


茨志乃は一瞥も寄せず、手の爪を外科医のような無関心さで見つめていた。


「そんなこと聞いてるようじゃ生き残れない。順応するか、取って代わられるか。それだけ。」


南はたじろいだ。「取って代わられる…?」


蓮は廊下を一瞥した。まるで見えない耳を警戒しているようだった。「誰かが死ぬたびに、誰かが現れる。まるで交換みたいな感じ。俺たちはどれだけここにいるのかも分からない。時間の流れも違うみたいだし。」


南はカーディガンの裾を握りしめた。「でも、私たち…死んだ記憶なんてない。ただ目覚めたのよ。」


月子はうなずいた。静かに三枚目のトーストをかじる。


遥人は立ち上がり、両腕を気だるく伸ばした。「初めての奴らは、たいていバカみたいな任務を与えられる。おつかいとか、囮とかさ。」


南は凝視した。「囮…?」


蓮が答えた。「プリズムは段階を踏む。まずは感情の閾値を試すんだ。」


遥人は笑った。「で、お前叫んだからな…まあ、楽しくなるぞ。」


その時、音がした。廊下でもなく、上階でも下階でもない。部屋の中。


柔らかな「シャクッ」という音。


皆が振り向いた。


遠くの壁にある一角が、見えない線に沿って切り出されたかのように開いた。そこから黒い金属製のトレイが滑り出す。


その上には、異なる文字でラベル付けされた六本のガラスアンプル。隣には二枚のカードが並べられていた。


月子が誰よりも早く一枚を手に取った。そこには「橘南」と書かれていた。


もう一枚は「美月月子」。


南はアンプルに手を伸ばした。「これ、薬なの?」


志乃がようやく前へ出た。腕を組んだまま。「場合によるわ。助けになる時もあるし、ただ変異するだけの時もある。」


南はまるで火傷したかのように手を引っ込めた。


遥人はにやりと笑った。「名前が呼ばれただけマシだ。たまに全員分出てくるからな。」


蓮は残りのバイアルを見下ろした。眉をわずかにひそめる。「…温かい。これは初めてだ。」


南はカードを裏返した。金色の文字でこう書かれていた。


「夜明け前に飲め。生存率が上がる。」


月子は迷いなく、自分のアンプルを取り、キャップを外して、冷たいお茶のように飲み干した。


南はためらった。親指が蓋の上で止まる。ガラスが思った以上に重く、密度があるように感じられた。


月子は息を吐いた。袖の端で口元を拭う。そして、新たに刻まれていたトーストを再び掲げた。


「何も信じるな。ただし、遅れはもっと悪い。」


南は他の者たちを見た。答えはなかった。


だから、彼女は飲んだ。


味は即座に、かつ矛盾していた。金属的で甘く、まるで缶詰の中で腐った果物のよう。喉を焼くように熱く、しかし胃の中では冷えた。四肢にしびれが走り、耳には低く調和した音が響いた。それは、訪れたことのない大聖堂に属する音のようだった。


次のコンパートメントが開いた。


今回は、ビロードで覆われた箱が滑り出てきた。ラベルも鍵もない。


蓮がそれを開いた。


中にはぬいぐるみ。


一見すると無害に見えた。テディベアのデザイン。大きな目、パッチワークの腹、柔らかな生地。しかし目はプラスチックではなくガラスで、その奥には蜂蜜に沈んだマザーボードのような紫の回路が微かにきらめいていた。


遥人は一歩下がった。「ああ、またかよ…」


「何それ?」南が尋ねた。


志乃が答えた。「テスト走行。レベル0。対象:感情的撹乱。」


彼らが見守る中、ぬいぐるみは痙攣を始めた。


背中の縫い目が開き、関節のある脊椎が現れる。手足が展開される。ぬいぐるみではなく、金属製だった。


月子はトーストを落とした。


プリズムの声が戻った。


「知性体起動完了。コードネーム:ベルベット・ルイン。試験条件:午前4時まで非致死追跡。捕獲者は改造対象としてマーキングされる。」


蓮が小さく呪った。


遥人は壁際へと走った。「地下室だ!ランドリーダクトに隠れるぞ!」


志乃は動かなかった。「無駄よ。今は私たちの匂いを学習してる。」


南は動けなかった。ベルベット・ルインは彼女に視線を向けた。


その目の光が狭まり、


突進してきた。


南は走った。廊下は歪み、足元がねじれる。狭すぎて、長すぎる。ドアが次々と通り過ぎる。ひとつが開いた。月子が彼女のカーディガンを掴み、引き入れた。


ドアが閉じられた直後、外側から重い「ドン」という音が響いた。


ドアがうめき、わずかにひびが入る。


中は二人がやっと入る程度の読書室。月子は本棚の裏で何かを探っていた。


「他のみんなは!?」南が叫ぶ。


トーストが彼女の頭をかすめて飛び、ドアの隙間に挟まった。そこにはこう書かれていた。


「出口別。グループ分離。試練は単独耐性を観察中。」


背後の通気口が破裂し、遥人が猫のように降りてきた。


彼は笑った。「初陣にしては上出来だな。」


南は息もまともにできなかった。外の熊はドアを引っ掻いており、どこから食べ始めようか考えているようだった。


蓮の声が天井の通気口越しに割り込んだ。「全員状況報告。誰か熊を視認してるか?」


志乃の声が遠くから落ち着いた口調で返る。「分裂したわ。二体になってる。」


遥人は呪った。「あれは新しいな…」


月子はまた書いた。


「残り44分。10分ごとに進化する。」


照明がちらつく。外の熊が笑い始めた。


南は目を閉じた。


これは第一の夜だった。


そして、夜明けは果てしなく遠くに感じられた。


そのアナウンスの後の静けさは、本当の静寂ではなかった。それは、何かがかろうじて張りつめたまま、今にも弾けそうな圧力を帯びていた。南みなみ立花たちばなはその場に凍りついたように立ち尽くし、喉は乾ききっていた。まばたきするたびに、白い光の残像がまだ視界に残っていた。


最初に動いたのは蓮れんだった。


それはまるで振り付けられた動きのように自然で、彼はゆっくりとコモンルームの向こう側、傾いた本棚の奥に半ば隠れている狭い廊下へと向かって歩き出した。彼のコートは煙のように後ろに流れた。


「どこへ行くの?」南は知らずに声を出していた。


蓮は立ち止まらなかった。「聞いただろう。夜明けまで時間がある。眠れるなら眠れ。あるいは、今のうちに慣れておくんだ。」


陽はるとが立ち上がった。彼は目の奥が笑っていない笑みを南に向け、ホットプレートの上に置かれた錆びたケトルを指差した。


「お茶を飲むなら、緑ラベルの缶を使えよ。赤いのは幻覚を見る。まあ、そういうのが好きなら別だけど。」


そう言って彼も蓮の後を追った。


志乃しのは動かなかった。彼女の視線は南から逸れず、敵意もなければ歓迎もない評価の目だった。転校生を最初の日に見るような、脅威か、有用性か、あるいはその両方を見極める目。そしてその間、月子つきこは新しい何かを書いていた。


「順応が早い。あるいは、そう装ってる。どっちにしても、いい顔してる。壊れるまで大事にしな。」


トーストが、まるで重さがないかのように彼女の手でひらひらと舞った。


南はごくりと喉を鳴らした。気がつけば、足は勝手に動いていた。蓮と陽の向かった廊下へと引き寄せられるように。ここは急に狭くなり、肩を斜めにして通らなければならなかった。壁は古い本と微かな消毒液の匂いがした。


彼女が辿り着いたのは、小さな部屋だった。倉庫と談話室を掛け合わせたような場所。天井は低く、再利用された体育館の床材で作られたテーブルが中央に置かれ、まばらな椅子たちに囲まれていた。電球は今にも消えそうにちらついていた。


蓮は腕を組んで座り、目を閉じていたが、眠ってはいなかった。陽は椅子を引き、表紙に子供のような絵が描かれた使い古されたノートをめくっていた。この空間には何かが引っかかった。不自然すぎた。まるで、誰かが台本通りに動いているかのような演出。


南はどうしていいかわからず立ち尽くした。やがて陽が顔を上げた。


「名前、南だったよな?」


彼女はうなずいた。


「じゃあ、ルールを教えてやるよ。誰もちゃんと教えてないだろ? あの声。あれはプリズムのものだ。多くは説明しない。だけど、任務を与えてくる。課題。時にはパズル、時には化け物、時にはただのルール。」


南は前のめりになった。「失敗したら、どうなるの?」


「死ぬんだよ。」陽はあっさりと言った。「もう一度な。」


長い沈黙。


「待って……」南は慌てて椅子に座った。椅子は軋んだ音を立てた。


蓮が目を開けた。灰色の、鋭い目。


「死んだこと、覚えてないんだろう?」


南はゆっくりと首を振った。


陽はノートを彼女に投げた。「普通だよ。最初はみんなそうだった。月子は違うかもな。喋らないけど。喋る必要がなさそうだ。」


南はノートを開いた。中には図が描かれていた。見取り図、任務の順序、理解できない記号。あるページには名前のリストがあり、何人かには線が引かれていた。


南立花の名前はなかった。


「ここにどれくらいいるの?」彼女は小声で訊いた。


陽は天井を見上げた。「何週間? 何か月? 時間の流れはおかしい。夜明けが10分で来ることもあるし、1週間かかることもある。」


蓮が付け加えた。「関係ない。時間もプリズムの支配下だ。」


突然の音――ノックだった。規則正しく、壁の向こうから。


三回。


陽がすぐに立ち上がり、南の前に立ちはだかった。蓮も壁に向き直り、顎を引き締めた。


「早すぎる。」陽が低く言った。「夜明けまでって言ってたはずだ。」


壁が動いた。


いや、*めくれた*のだ。紙が巻き取られるように。奥には、液体のように濃密な闇があった。


そこから何かが現れた。


人間ではなかった。二足歩行だったが、歪んでいた。手足は異様に長く、関節は縫い合わされたようだった。目は溶けたネオンのように輝き、首には迷子札のようなタグがついていた。


南は動けなかった。


蓮が鋭く言った。「テストラウンドだ。プリズムの間隔が狂ってる。」


その存在は一歩近づいた。


南の視界が狭まる。呼吸が止まる。陽がテーブルの下から錆びた鉄パイプを掴み、それを彼女に投げた。


「近づいてきたら振り下ろせ。考えるな。動け。」


もう一歩。


そのとき、急にその姿が止まった。割れたガラスの間を風が通り抜けるような音が部屋に満ちた。


首元のタグが点滅した。


**「試練中断。パラメーター不正。開始をリセットします。」**


その存在は崩壊した。


砂時計から砂が落ちるように、粉末となって床に散った。壁は再び閉じ、何事もなかったかのように完璧に元通りになった。


南はパイプを手から落とした。


「これでわかっただろ?」陽が、後頭部をかきながら言った。


彼女はゆっくりとうなずいた。


「よし。」蓮がつぶやいた。「次は、バグらない。」




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