美人姉妹のどちらと結婚するか俺が選ぶことになった
春風秋雄
とんでもない家に婿養子になることになった
しかし、大きな家だ。うちの家もそこそこ大きいと思っていたが、この家は規格外だ。敷地は優に400坪はあるだろう。通された部屋は広いリビングだった。俺は本当にこんな家に養子にくるのか?俺がそんなことを思っていると、ドアが開いて男性が入ってきた。そしてその後から女性3人が続いて入ってきた。男性とは何度か会っているので、この家の主である堂島健介氏であることは知っている。年配の女性は健介氏の奥方だろう。そして、若い女性二人が問題の娘さんたちか。
「冬樹君、紹介しておこう。こちらが長女の沙奈枝、そしてそちら側が次女の舞香だ」
「沙奈枝と申します。よろしくお願いします」
長女の沙奈枝さんが丁寧に挨拶する。
「舞香です。よろしくね」
次女の舞香さんは今どきの若い女性といった感じで軽い挨拶をした。
「榎本冬樹です。よろしくお願いします」
俺が挨拶をすると、次女の舞香さんはニコッと笑顔を返してきたが、長女の沙奈枝さんはうつむいたまま少し頭を下げただけだった。
「冬樹君、お父さんから聞いてもらっていると思うが、君がこの二人の娘のうち、どちらかと結婚して堂島家に婿養子として入ってもらい、この家を継いでもらうことはもう決定していることだ。そして、どちらの娘を選ぶかは冬樹君自身に決めてもらうことにする。堂島家の当主として堂島グループを担っていくには、どうしても精神的に支えてくれる伴侶が大切になる。それは私自身が身をもって経験したことだ。私は家内にかなり助けられた。家内の内助の功がなければ、堂島グループをここまで大きくできなかっただろう。これは単に細君としての資質だけの問題ではない。二人の相性の問題が大きい。だから、冬樹君には沙奈枝と舞香の二人と接してもらい、自分と相性の良い相手を選んでもらいたいと思っている。そのため冬樹君には、しばらくこの家で一緒に生活してもらうことにする。期間は2か月を予定しているが、状況によっては多少延長するのも構わないし、2か月を待たずして決めてもらってももちろん構わない。ただし、半年後の堂島グループ新年式の場で婚約を発表することにするから、それまでには婚約の手続きをすべて終えておきたいので、そのつもりでいてくれ」
健介氏はそれだけ言うと部屋を出て行った。
俺は残された娘さん二人を見ながら、思っていた以上に大変だと思った。いっそのこと、この娘と結婚してくれと、向こうから指定された方が気が楽だと思った。
俺の名前は榎本冬樹。今年30歳になった。俺は榎本エンジニアリング株式会社の次男として生まれた。その榎本エンジニアリングは10年前に堂島ホールディングスの前身である堂島システム株式会社と合併した。表向きは対等合併になっていたが、実質的には吸収合併だ。堂島グループは健介氏のワンマン経営で、榎本の人間が経営に口出しすることは不可能と言えた。ところが、今年になって思わぬ話がきた。堂島家には男の跡取りがいないので、榎本家から婿養子を出してくれというのだ。親父は喜んだ。これで榎本家の力が復活すると言うのだ。兄の正樹はすでに結婚しているので、必然的に次男の俺が婿養子に出ることになる。社交的な兄貴と違い奥手の俺は特定の女性と付き合っているわけではなく、いずれは見合いでもして結婚しようと思っていたくらいだから、親父からこの話を引き受けてくれるかと打診されたとき、何の抵抗もなく承諾した。相手の女性はどんな人だと聞くと、まだ決まっていないという。堂島家には二人の娘さんがいるが、どちらを選ぶかは冬樹自身が決めろと言われた。そんな話があるのかと思ったが、堂島健介氏の話を聞いて納得した。
あらかじめ二人の娘さんの釣書はもらっていた。学歴は二人とも立派なものだった。かなり優秀なのだろう。長女の沙奈枝さんは28歳で、次女の舞香さんは24歳だった。写真を見た印象は、次女の舞香さんは目がクリっとして、とても可愛い顔をしていた。名前は忘れたが、今活躍している若手女優によく似ている。対する長女の沙奈枝さんは大人しそうな雰囲気で、よく言えば清楚な女性だが、どこか暗いイメージがあった。そして、今日会ってみると、二人とも写真で見た印象通りだった。
俺に与えられた部屋は家族の寝室からかなり離れた場所にあった。いったいこの家はいくつ部屋があるのだろう。2か月とはいえ、ここで生活をする以上は、それなりに荷物を持ってきていた。荷物を整理していると、ドアをノックする音がした。健介氏の奥さん貴子さんだった。食事の用意が出来たので呼びにきたのだ。
普段はバラバラに食事をとるそうなのだが、その日は健介氏がいるということで、家族揃って夕食を食べることになった。俺もテーブルについたが、静かな食事だった。みんな何かしゃべるわけではなく、黙々と食事をしている。食事が終わってコーヒーを飲んでいると、健介氏が俺に話しかけてきた。
「冬樹君はゴルフはやるのかい?」
「はい。父に教わり高校時代からやっています」
「それはいい。うちの娘は二人ともゴルフをやるので、来週の休みに4人で行こう」
健介氏と一緒にラウンドするのは緊張するが、ゴルフは性格が良く出るというので、二人をよく知るには良い機会だと思った。
ゴルフ当日は天気にも恵まれ、絶好のゴルフ日和だった。姉妹はゴルフウェアーにも個性が出ている。妹の舞香さんが太もも露わのミニスカートを履いているのに対し、姉の沙奈枝さんはパンツスタイルだった。ゴルフの攻め方も対照的だった。舞香さんはとにかく距離を稼ごうと、ウッド系のクラブを振り回しているのに対して、沙奈枝さんはアイアンでコツコツと刻み、確実にボギーをとりにくるゴルフをしていた。俺のゴルフは、スコアはそれほど気にせず、とにかく気持ちよくボールを飛ばしたいという方で、舞香さんのゴルフに近い。沙奈枝さんのゴルフは、スコアはまとまるが、俺としてはつまらないゴルフだった。ゴルフを一緒にまわって、二人の性格が少しわかったような気がした。
半月ほど経って、同居生活に慣れてきたところで、休みの日にひとりひとりと過ごす時間を作ろうと考えた。やはりお姉さんを先に誘うのが礼儀かなと思ったが、沙奈枝さんは次の休みは予定が入っているというので、まずは舞香さんと一緒に出掛けることにした。どこへ行きたいかと舞香さんに聞くと、テーマパークへ行こうと言う。若い子はやっぱりそういうところへ行きたいのかなと思っていたら、テーマパークの後の食事の場所も指定してきた。俺でも知っている高級ステーキレストランだった。自分の意見をはっきり主張する人だなと思った。しかし、舞香さんのアテンドは完ぺきだった。テーマパークでも回るアトラクションの順番をあらかじめ決めており、無駄な時間がほとんどない。予定通りの時間に回るべきすべてのアトラクションを回り、予定していた時間通りにステーキレストランに着いた。まるで有能な秘書のようだった。テーマパークを回っている間の会話も楽しく、俺の中で舞香さんの点数はグッと上がった。
「姉と私、どちらを選ぶか、もう決めましたか?」
ステーキを食べながら舞香さんが聞いてきた。
「いや、まだです」
「私を選んでください」
舞香さんが真っすぐな目で俺に言った。
「それは私と結婚したいという意味ですか?それとも堂島グループの社長夫人になりたいと言う意味ですか?」
「はっきり言えば、堂島グループの社長夫人になりたいというのが本音です。でも、冬樹さんが変な人だったら諦めていたと思います。嫌な人と結婚してまで社長夫人にこだわる気はありませんから。この半月ほど冬樹さんと同じ屋根の下で生活していて、この人なら結婚してもいいかなと思えてきました。だから、姉ではなくて、私を選んでください」
「でも、私を愛しているとか、そういう感情ではないのですよね?」
俺がそう聞くと舞香さんは怪訝そうな顔をした。
「そもそもこの結婚話に愛を求める方がおかしいでしょ?冬樹さんだって選択肢は私か姉の二者択一なんだから、そこに愛を求めること自体無理があるでしょ?」
「確かにそうですね」
「それに、私でなく姉を選ぶとしたら、ますます愛なんて求めるのは無理ですからね」
「それはどうしてですか?」
「姉には好きな人がいますから」
「好きな人がいるのですか?」
「姉は好きな人がいて、本当はその人と結婚したかったのです。でも両親に反対されて、泣く泣く別れたのです。もう1年前のことですけど、姉は今でもその人のことが忘れられないのだと思います」
「どうしてご両親は反対したのですか?」
「堂島家に相応しい相手ではなかったからです」
そうだったのか。沙奈枝さんは端からこの縁談には乗り気ではなかったのか。
翌週は沙奈枝さんと出かけることにした。舞香さんの話を聞いて沙奈枝さんを選ぶことはないなと思っていたので、その意思を沙奈枝さんに伝えるつもりでいた。沙奈枝さんにどこか行きたいところがあるかと聞くと、一緒に行きたいところがあると言う。行き場所は沙奈枝さんに任せることにした。
沙奈枝さんの運転で連れていかれたのは、小さな工場だった。日曜日だというのに仕事をしているようだ。沙奈枝さんは車から降りると勝手知ったると言った感じで工場の中に入っていく。俺もそれについて行く。
「こんにちは。社長さん今日もご苦労様です。これ差し入れです」
沙奈枝さんはいつの間に用意していたのか有名な洋菓子店のプリンが入った箱を渡している。
「ああ、沙奈枝お嬢さん。いつもありがとうございます」
「どうですか?納期までには間に合いそうですか?」
「まあ、家族総出で寝る時間も惜しんでやっていますので、何とかなるとは思いますけどね」
「会社が無理を言ってごめんなさいね。会社には掛け合ったのですけど、私には何も力がないので・・・」
「いやー、沙奈枝お嬢さんが謝ることではないですよ。私どもは仕事がもらえるだけで幸せですから」
二人の会話を聞きながら工場内を見渡すと、従業員らしい人が二人と、社長の奥さんと思われる女性、そして社長のお母さんと思われる老女の他に、中学生か高校生と思われる子供も二人働いていた。
車に戻り走り出したところで沙奈枝さんが話し出した。
「あそこはうちの下請けの工場なの」
そういえば沙奈枝さんは堂島グループの製造管理部で下請けの管理も行っていると聞いた。
「いつもうちの無理な発注に振り回されている。こちら側がもっと計画的に製造計画を立てればすむことなのに、会社は下請けのことなど考えていないから、できないなら今度からは他に回すと言って、有無を言わせずやらせるの」
「それで定期的に様子を見にいっているのですか?」
「そんなに頻繁ではないけどね」
次に沙奈枝さんが連れて行ってくれたところも下請けの工場だった。状況はさっき見た工場と変わらない。堂島グループはこういった下請けの工場に支えられているのだと痛感せざるをえなかった。
結局3件の工場を回り、沙奈枝さんの行きつけの和食店へ行った。よく利用している店のようで、女将さんが気さくに沙奈枝さんに挨拶をしてくれた。
「私は運転がありますのでお酒は飲めないですけど、冬樹さんは遠慮なさらず飲んで下さいね」
「ここはよく来るのですか?」
「そうですね。女将さんが良い人で、どこへ行こうか迷ったときはここに来るようにしています」
なるほど、沙奈枝さんは人付き合いを大切にする人のようだ。
「冬樹さんは、おそらく結婚相手に舞香を選ぶと思います。だから、いまのうちにお伝えしておこうと思って、今日はお付き合いしてもらいました。冬樹さんが経営者になられたとき、下請けのことも考えられる経営者になってもらいたいのです。私は何度も父に言いました。下請けの実情もちゃんと伝えました。でも、父はとりあってくれませんでした。父は常々、下請けも、部品納入業者も、配送業者も、うちに関わるすべての業者を含めて堂島ファミリーだと言っています。でも実情はファミリーでも何でもなく、単に都合よく使う業者にしか過ぎません。これでは堂島の将来はないと思うんです。ですからお願いです。冬樹さんは父のような経営者にならないでほしいのです」
沙奈枝さんはそれが言いたくて下請け工場に連れて行ったのか。
食事が進み、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「沙奈枝さんは、本当は結婚したかった相手がいたそうですね?」
「舞香から聞いたのですか?まあ、本当のことだからいいのですけど」
「家柄が合わないからご両親に反対されたと聞きましたけど、親の反対を押し切ってでもと思わなかったのですか?」
「私は堂島の家に未練はなかったですから、駆け落ちしてでも一緒になりたいと思っていました。でも、彼の家も工場を経営していて、後継ぎの彼が駆け落ちするのは無理だったんです。堂島とは直接関係のない業種の工場ですけど、堂島の力をもってすれば圧力をかけることは簡単ですし」
「今でもその彼のことが好きなのですか?」
沙奈枝さんはジッと俺を見ながらどう答えるべきか悩んでいるようだった。しかし、しばらくして意を決したように口を開いた。
「冬樹さんには申し訳ないですけど、今も彼のことは好きです」
やっぱりそうなのか。しかし、堂島の家に生まれたからというだけで、好きな相手と結婚できないというのは、あまりにも可哀そうだと思った。
1週間色々考えた末に、俺は次の休みにもう一度沙奈枝さんを誘った。今度は俺の車でドライブすることにした。
「どうしたのですか?もう私は誘われないと思っていたのですけど」
「この前の話が気になりましてね」
「この前の話ですか?」
「沙奈枝さんが今も彼のことが忘れられないということです」
「そういう女ですから、結婚相手には舞香を選んで頂ければ良いと思います」
「結婚相手については、私は二人とも素敵な方だと思うので、どちらと結婚しても良いと思っています。それよりも、そんなに好きな相手と家の事情で結婚できないというのが、理不尽に感じて、何とかならないのかと考えていたのです」
沙奈枝さんは俺が何を言おうとしているのか見当がつかない様子だった。俺はたまに行く埠頭に車をつけ、車から降りた。沙奈枝さんもそれに続く。
「私はいままで、そんな恋愛をしたことがないのです。どうしてもこの人と結婚したいと思える女性はいませんでした。だから沙奈枝さんがうらやましいです。人生で一度でも良いからそんな恋愛をしてみたかった。だから私は、沙奈枝さんを応援してみたくなったのです」
沙奈枝さんは俺の真意がわからず困惑しているようだった。
「沙奈枝さん、私と偽装結婚しませんか?」
「偽装結婚?」
「そうです。あなたのお父さんから、結婚しても子供が出来るまでは、堂島の家ではなくて新居で新婚生活を過ごせば良いと言われています。ご両親と別居して暮らせば、その間の二人の生活に関しては、ご両親は知る由もないです。私と結婚して、半年くらい経ってから、沙奈枝さんは彼氏のところへ行ってください。当然堂島のご両親はカンカンになって怒るでしょう。でも私が彼氏に対しては何もしないように言います。何か報復をすれば、堂島の婿は嫁さんに逃げられた頼りない当主だと噂が広がります。そんなことになれば堂島グループの後継ぎとしては失格です。ですから、表向きには沙奈枝さんに逃げられたのではなく、私が沙奈枝さんを、細君失格として離縁したという形にしなければなりません。そうなれば彼に被害が及ぶことはないと思います」
「それでも父が裏で何かやってきたら?」
「その時はしばらくの間我慢してください。私が経営権を握れば必ず二人を助けます。それまでの期間は榎本の家から経済的援助はします」
「冬樹さんはそれで良いのですか?」
「私は構いません。沙奈枝さんと離縁した後は、舞香さんと再婚という流れになるはずです。それですべてが丸く収まるのであれば良いじゃないですか」
沙奈枝さんはジッと考えているようだった。
「あ、それから、あくまでも偽装結婚ですから、同居している間私は沙奈枝さんに指一本触れませんから安心してください」
俺がそこまで言うと、沙奈枝さんはかすかに頷いた。
堂島家の風呂は、温泉旅館かと思うほどの広さで、しかも檜風呂だった。お湯につかりながらゆっくり考えごとをするには良い風呂だ。その日、風呂に入りながら俺は今後のことを色々考えていた。すると、脱衣場に誰か入ってくる気配があった。
「冬樹さん、ちょっとお話していいですか?」
舞香さんだった。
「どうしました?」
「今日も姉と出かけていらっしゃったのですよね?」
そうか、知られていたのか。
「姉と結婚するつもりなのですか?」
俺は返事に困った。
「私じゃあ、ダメなのですか?」
今の計画だと最終的には舞香さんと結婚することになるわけだが、沙奈枝さんとの計画は誰にも話すわけにはいかない。俺が返事もせず黙っていると、ガラスドアの向こう側から衣擦れの音がし出した。「まさか!」と思っていると、ドアが開きタオルで前を隠しただけの舞香さんが入ってきた。
「舞香さん、ダメです」
俺は慌ててタオルで前を隠して立ち上がりドアへ向かった。すると舞香さんが俺に抱きついてきた。
「私、冬樹さんのことが好きになったみたいです。沙奈枝姉さんには取られたくない」
その言葉に一瞬俺の動きは止まった。しかし、我に返った俺は舞香さんを引き離し、「ごめん。今はそんなことできない。待っていてくれ」と言って逃げるように出て行った。
俺と沙奈枝さんの結婚式は盛大に行われた。偽装結婚なのに、こんなに盛大にやって良いのだろうかと気が引けたが、盛大にやればやっただけ、離婚後に嫁に逃げられたことは絶対に秘密にしなければならなくなるだろうと思った。
新婚生活はことのほか快適だった。沙奈枝さんは料理も上手で、家で食事をするのが楽しみになった。一緒に暮らす以上は会話もする。沙奈枝さんは話題も豊富で一緒にいる時間が楽しかった。休みの日にはゴルフにも行った。沙奈枝さんのゴルフは変わらず堅実なゴルフだった。ロングホールの2打目でアイアンを握った沙奈枝さんに言ってみた。
「ここはウッドで距離を稼いだ方がいいのではない?」
「練習で出来ないことを本番でやって出来ると思いますか?無理をすれば必ず後でしっぺ返しが来るのはゴルフでも仕事でも同じです。でもいつかはウッドで打てるように練習はしているのですよ」
なるほど、沙奈枝さんは“やれることを精一杯やる、無理なことは最初からしない”という主義なのか。それはそれで正解だと思った。
俺は約束通り、沙奈枝さんには指一本触れなかった。一緒に暮らしていると、ときどきドキッとする姿を見せるときもあったが、俺は約束を破るつもりはなかった。
半年が過ぎたころ、俺は切り出した。
「結婚して半年経ちましたね。そろそろ離婚して、彼氏のところへ行きませんか?」
沙奈枝さんは少し寂しそうな顔をしてから、おもむろに口を開いた。
「やっぱり、離婚した方がいいですよね?」
「え?どういうことですか?彼氏のところへ行くのではなかったのですか?」
「彼とは結婚式を挙げる前に話したんです。こういう事情だから、半年待ってと。そして冬樹さんと暮らすようになってからも何度か電話で話しました。すると、彼はその都度会おうと言うのです。会ってホテルへ行こうと。冬樹さんは一緒に暮らしても指一本触れないと約束してくれて、その約束は守ってくださいました。それなのに私がそういうことを彼とするわけにはいかないと言ったのです。それでも彼は何かごちゃごちゃ言ってきて、あげくの果てに離婚して俺と結婚したら、堂島家はうちの会社に援助してくれるかな?と聞いてきて、何か、もうこの人とはやっていけないなと思ってしまったのです」
「そうだったのですか」
「でも以前の私なら、その程度のことでそんなふうに思うことはなかったと思います。私にそう思わせたのは、冬樹さんとの生活がとても楽しかったからだと思います。でも、冬樹さんは私より舞香と結婚したかったのですよね?そのためには、やっぱり離婚するしかないのですよね」
沙奈枝さんはそう言って、自分の寝室へ行ってしまった。
俺は少し考えてから沙奈枝さんの寝室のドアをノックした。
「入りますよ」
俺は断ってから寝室に入った。沙奈枝さんはベッドにもぐりこんで布団を被っていた。
「さっきの話ですけど、沙奈枝さんはもう彼氏のところへは行かないということでいいのですよね?」
布団の中で沙奈枝さんが頷くのがわかった。
「だったら、私は彼氏に気兼ねする必要はないわけですから、約束はもう破っていいですか?」
沙奈枝さんが布団から顔を出し、俺を見た。
「さっき、そろそろ彼氏のところへ行きませんかと言ったのは、これ以上一緒に暮らしたら、約束を破ってしまいそうだったからです」
沙奈枝さんが不思議そうに俺を見た。
「どうやら私は、沙奈枝さんのことが好きになってしまったようです。こんな気持ちになったのは、生まれて初めてです」
沙奈枝さんは何も言わず俺を見つめている。俺はそっと顔を近づけ、唇を重ねた。
「舞香でなくて、私でいいのですか?」
「ひょっとしたら、私は結婚式を挙げた時から、こうなったらいいなと思っていたのかもしれません。だから、約束を破っていいですね?」
「良いも悪いも、私たちは、夫婦じゃないですか」
俺はゆっくりと沙奈枝さんのベッドに入っていった。
沙奈枝さんは俺を迎え入れるように抱きしめてきた。
ふと、堂島の家の風呂で舞香さんに抱きつかれた時のことを思い出した。あのとき俺が言った“今はそんなことできない。待っていてくれ”という言葉を舞香さんは覚えているだろうか?忘れていてくれたら良いのだが。
美人姉妹のどちらと結婚するか俺が選ぶことになった 春風秋雄 @hk76617661
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