エピローグ
最近は近所にある喫茶店でコーヒーを飲むのにハマっています。このコラムの原稿も、実はその喫茶店で書いています。コーヒーも美味しいし、何より店内が落ち着けるのが◎。より良い未来を手繰り寄せるには、まずは周囲の環境が大事。読者のみなさんも、近所の喫茶店に足を運んでみては?(文と占い・ムーンフォレスト
(『月刊NEXUS』9月号「十二星座別・今月の運勢」より抜粋)
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☆☆☆☆☆
子供でも入りやすいのでオススメです。クリームソーダが美味しかったです。店員さんも優しくて、まさに愉快適悦です。十年後も絶対通います!(レビュアー:極東のジョン・タイター さん)
(口コミサイトに寄せられた
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このたび主演を務める舞台『宇宙人町内会』のフライヤーを〈夏目珈琲店〉さんに貼らせていただきました。料理もとても美味しいお店なので、お近くに来た時は是非。舞台は十二月からです。今日も稽古頑張ります!
(俳優・
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土曜の昼、夏目珈琲店は貸切状態だった。カウンター席には夏目博士が一人で座っている。もちろん本当に貸切にしているわけではなく、たまたま他に客がいないというだけだったが。
俺は博士の前にそっとコーヒーカップを置いた。カップの持ち手を、博士の右手の側に向くようにする。カップの中に注がれた黒い液体から、湯気と共に香ばしい匂いが漂う。
博士はカップを手に持ち、そっと一口飲んだ。俺はその様子を固唾を飲んで見守る。カップをソーサーに置き直し、博士は腕を組んで俺を見上げた。
「美味い。全世界に存在するコーヒーの中でも上位五パーセントには入る味だろう。とはいえ
「そこまで言います……?」
「
「確かに言いましたけど」
「冷静に考えると月とスッポンという喩えもこの場合正しいかどうか。月は食べられないがスッポンは食べるからな。こと食用ということに関して言えばスッポンの方が月より上回っているということになる。つまり飲用物であるコーヒーについて話す時にこの喩えは適切ではないのかもしれない。藤花も最初から美味いコーヒーを淹れられたわけじゃない。この調子なら近いうちに藤花を超えるだろう。一番多く藤花のコーヒーを飲んできた私が言うのだから間違いない」
話しながら、いつの間にか夏目博士はコーヒーを飲み干していた。とにかく残さず飲んでくれたことにホッとする。試飲だから代金はいらないと言ったのだが、結局博士はきっちり一杯分の小銭をカウンターの上に置いた。
「姉さん、もう帰るの?」厨房の奥から店長が顔を出す。
「ああ。仕事もあるし、夫も研究所で待っていることだしね。今度、
そう、と短く答えて店長は再び厨房へと戻る。夜の営業に向けて、色々と仕込むものがあるのだろう。
博士は立ち上がった。薄手のチェックコートを羽織り、ポケットに財布を突っ込む。
「七瀬くん」博士は言った。「この街とこの家には慣れたかい?」
「そうですね、だいぶ慣れてきたと思います。知り合いもそれなりに出来ましたし」
「私は君に忠告した。この町では、異常が正常になると。その中でも特に、君の周囲には摩訶不思議なものが集まりやすい傾向にあるらしい。
「それでも構いません。そのおかげで出来た縁もたくさんありますから」
「そうか」夏目博士は言った。「君のその性質が、恵梨に良い影響を与えることを願っているよ」
そう言い残し、博士は去った。入り口のベルがカランコロンと鳴り、自動車のエンジン音が遠ざかった。
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ある日、学校からの帰り道。商店街にある洋菓子店でケーキを買い込み、恵梨さんと二人で家を目指す。今日の夜は雪さんの歓迎会だ。なし崩し的に同居人になったから、改めてそういった会を催すべきではないか……と、店長が言ったのだ。店長は意外とそういったところに拘る。ケーキを買ったところで、どうせ食べるのは俺と店長だけなのだけれど。こういうのは雰囲気作りが大切だ。
スラックスとブレザーの制服に身を包んだ恵梨さんは、小麦粉や砂糖の入ったエコバッグを軽々と持ち上げながら、意気揚々とした足取りで歩いている。楽しそうだな、と思った。楽しいとか、楽しくないとか、彼女が思っているのかは分からないけれど。
「楽しそうだね」と、声をかけてみる。
恵梨さんはエコバッグを両手に持って振り返った。「楽しいよ」と、彼女は答える。
また進行方向へと体を向けて、歩みを進めながら彼女は話を続ける。
「私は生まれてから十五年、ずっと夏目博士の研究所のコンピューターの中にしか存在してなかった。だから話せる人って言ったら研究所の人ばっかりでさ。まあ、ネットに繋げばSNSとか掲示板とかはあったけど、生身の人間ってわけじゃないし」
「それはちょっと寂しそうかも」
「実際はそうでもなかったよ。研究所のみんなはよく構ってくれたし。でも、ずっとそういう生活してたから、今の状況って何だか信じられないって言うか。藤花と一緒に暮らして、学校にも通うようになって、そしたら今度は七瀬くんが来て、いつの間にか雪ちゃんも一緒に暮らすようになって……。こんな賑やかな世界で自分が生きていくなんて、想像もしてなかった。だからね、今の私はとっても楽しい」
屈託なく笑う恵梨さんに、やっぱり色は浮かんでいない。無色透明のまま、ただ笑顔だけが見えている。
「早く帰ろ。藤花も雪ちゃんも待ってる」
恵梨さんは足取りを早める。きっと彼女が本気で走れば、俺なんてあっという間に置き去りにされてしまう。「待ってよ」と言いながら、俺は彼女について行く。
その時、恵梨さんの顔に、一瞬だけ色が重なったような気がした。未来に対して、何かを期待する、そんな感情の色だった。少し冷たい秋の風が吹いて、俺は思わず目を瞑った。次に目を開いた時は、もうその色は見えなくなっている。それはもしかすると、単に俺の網膜に焼きついた太陽光か何かの残像だったのかもしれず、結局俺はそれを見間違いだと結論づけた。
〈おわり〉
不思議の町の珈琲店 佐々奈オルトス @scarlet0508
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