第4話 本物も偽物も苦労している

「…お前、なんだその魔力は…。掌に集中させろ。そして魔力を分離させろ。今のままファイヤ系統の魔法を撃ってみろ、お前自体が火だるまになるぞ」

アルベラに従い手に乗った魔力を調整していく。

「…そして魔力を込め、魔法を叫ぶ。ファイヤ」

「…ファイヤ」

手に火の灯火が点火する。

「うぉっ!!オーナー!!見…痛ッ!!!」

勇者が自分でつけた火をアルベラに見せようとした途端に火が大きくなり指を火傷してしまう。

その後すぐさまアルベラのチョップが飛んでくる。このチョップが痛いのなんの…目にも止まらぬ速さで穿たれる一撃ときたら…。魔力を使って無くてもあの威力。これがレベル差か…。

俺は他者になり、他者の姿や会得していた能力はコピーできても、記憶やスキルや才能など、会得できないものの方が圧倒的に多い。

現在。俺はアルベラに基礎魔法や戦闘技術など、いわゆる修行中だ。

「火をよそ見するとは言い度胸じゃないか」

「…くっ…」

「火傷!回復しますよ!!」

マギドナの回復魔法。束の間の休憩である。

ネムラは座りながら何やら足踏みを繰り返している。彼女は魔法使いだ、俺のぎこちない動きや修行に苛立ちを覚えているのではないのだろうか?

ワーメラは…寝ている。

一方で…ネムラ視点。

「…何やってんのよ!あの盗賊!!勇者を傷つけるなんて…何様よ!!」

彼女は感覚派で魔法を教えるのが苦手らしい。

「ふわぁ…主様は今日も修行か…」

「一体いつになったら旅に出れるのだ?」

夜通し練習し、宿に戻り、風呂に入り、飯を食べ、死人のようなにベッドに寝る。

また次の日の事だ。

「ファイヤ!」

手からは青い色の炎を出し、以前よりも火力やコントロールが着実に上がっている。

「どうですか?これ!!」

「…ふん、基礎だからな、初級魔法の一つで喜ばれても困る。しかし…良い成長速度だ。このままいけば1週間で無事に終われそうだな…」

「…初級…。なら次は中級ですよね…」

俺はさらなる高みを目指したくなった。あの時。無力だった俺とは違う事を証明したかったのだ。

中級魔法ファイヤボール。

以前の、戦いで魔力やマナは足りている。後は…技術とレベル…。しかし、この刑罰のようなアルベラとの修行で俺は、格段とレベルや技術を学んでいる。

「…やれる…」

「…?」

「ファイヤボール!!」

手に、魔力を集め魔力の力が炎へと変化する。

「…」

アルベラは少し驚いた様だが何も言わずに見守っていた。

「…ッアアアッツッ゙!!」

手に纏った巨大な炎は俺の技術のキャパを超えていた。調子に乗った俺に罰を与えるように片腕のほとんどが焼けてしまう。

「勇者様!!」

しかし、アルベラはマギドナを掴み引き留め、ネムラも慌てて立ち上がり、ワーメラは今にも走り出しそうな勢いだ。

「ゥ゙ア゙ア゙!!」

勇者は唸りながらも火を払おうと頑張るが、火は容赦なく燃え続け勇者の右腕をあっという間に包みこんだ。

「主様!!」

「アルベラ!どけ!」

「アルベラさん!!」

必死に勇者を心配する一行を一人で制止し、ただひたすらに勇者を見つめる。

熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!失敗した失敗した失敗した!!!!誰か!!誰か!助けて!!

その時、脳裏にハートチャッカーの台詞がよぎる。

水の呼び声(ドロップ・コール)ドロップコール!!」

水魔法を唱え、左手から右腕の炎を消火する。

慌てた上の咄嗟の行動であったがアルベラは満足したような顔でマギドナたちを離した。

「勇者様!!」

マギドナは俺の焼けただれた腕に回復魔法をかけてくれた。赤黒く焦げた傷も少しずつ消えていく。

「…今日の修行はここまでだ」

「…ッ」

「修行最終日は少し試験をする。それに合格したらこの街から好きに出ていけ」

アルベラは失望したのだろうか?だが彼女が、他人に期待するようなたちとは思えない。

次の日。

「修行も残り1日だな。今回はお前が失敗したバリアだ。作ってみろ」

…個人的なものだが、防御魔法。バリアには自信がある。確かにあの時、割られたがあれは急な対応だったため、マナによるバリアの形成が弱かったのではないかと考察している。

「バリア!」

緑色のモヤが円形に広がり、やがて勇者の目の前に薄い円状の膜が出来上がる。バリアの強度はだんだんと強まり、硬くなっていった。

「…」

アルベラは裏拳で軽くノックした後、つまらなそうにこちらを向いた。

「お前、これが本気か?」

「…?まぁ…はい」

マギドナもネムラも首を傾げている。俺だってそうだ。バリアの発動は成功したんだから。

「お前、このバリアにマナを注ぐのを辞めろ」

…?

手から送っていた魔力やマナを辞めると、バリアは空気中で分散し消えてしまった。

「お前に、バリアの強度ってのを教えてやる。そして使い方もな……。木偶の坊」

「…ッ!なんだよ!!」

「私に、魔法を撃て、中級の…」

するとネムラは、魔法陣を展開し、アルベラに向かって杖を向けた。

「…死ねや!!破砕の息吹ブラストウェース

青白く杖が光だし、周囲の空気が揺れ、周囲の植物たちは悲鳴を上げている。

突如。凄まじい光と爆発音と共に地が割れるほどの衝撃がアルベラに向かってくる。

地面は亀裂を走らせながら足元までやって来た。

「バリア」

緑光がアルベラの正面を包むようにハニカムのようなモヤが半円状で形成された。

その速度は俺のバリアとは比にならない速度で、かつ知らない形をしていた。

ネムラの放った強い衝撃が彼女に向かうも、緑光を避けるように衝撃がばらつき。アルベラはポッケに手を入れ、1ミリも動かなかった。

恐らく俺のバリアでは数秒で破壊されるか、粘っても後ろに引くだけで、結果は同じだろう。

「…な…なんてバリア」

アルベラは傷がつくどころか、アルベラの正面側の地面すら、えぐれること無く守りきったのだ。

「…バリアは鍛え上げられ、結果が簡単に分かる。お前はバリアを形成したが、あのスピードで、あの強度で誰を守れるんだ?」

決して遅いってことはないんだ、だがアルベラの言う通り、あの速度で形成したところで、攻撃を受けてしまうだろうし、守れないものも多いだろう。

「…教えてくれ、どうやったらそこまで強度をあげれる?」

「…速くバリアを作ってみろ」

「…」言われた通り、バリアを、今度はできるだけ速くバリアを作っている最中だ。

「ふん!」

アルベラはせっかく形成し始めていたバリアをやすやすとチョップで破壊してしまった。

「なっ!!ちょっと!何してるんだ」

「バリアの強度を上げるにはバリアをできるだけ速く形成し、壊す。それを繰り返す。そしたら、バリアはより強度が増し、作るスピードも上がる。やってみろ」

バリアは消費する魔力やマナは少ないんだ。だがポンポン作って破壊っていうのは、体力的にもきついものがあった。

「ぐぬぬッ!!」

再びパンチが飛んできてバリアが容易く壊れる。

「…おい、亜人。手伝ってくれ、バリアを破壊する作業」

「ふん!だ。これは、主様のためだからお前の命令に従ったわけじゃないわ!」

ワーメラは立ち上がり、鱗に覆われた巨大な尻尾を出して、手足や尻尾を巧みに使い、作ったばかりのバリアを破壊してし続けた。

何故バリアがハニカムの形をしていて円状になっているか?その問いに対しての答えは衝撃に強く、極めて硬くなるからと教えてもらった。

どれくらい時間がたったのだろうか?定期的なマナを補充する三級マジックアイテム『マナストーン』のおかげで長時間の練習をこなせているが、流石に休憩がほしい。

マナストーンは、天然のマナが生成される、いわゆる精霊憑きの石なのだが、ポケットに入れておくだけで、微弱な魔力を支給してくれる。

長時間のダンジョン探索や他のマジックアイテムに加工されている。

それから再び数時間後のことだった。

ワーメラやネムラ。アルベラの交代交代で、作ったバリアを破壊される続けてきたその時だった。

「ハァ…ハァ…バリア!!」

その時放たれた緑光は速く広がりハニカム状の汚ない円を作り出した。

そのバリアはワーメラの尻尾撃ちを受け止め、跳ね返したのだ。

「わわっ!!」

「なっ!!」

バリアには多少のヒビは入っていても形成時間は今までより速くなっていた。

何より、攻撃を防げだ。。

アルベラに言われた通り、バリアは繰り返し破壊し、形成することによって、作るスピードや強度が増す。

その後も、何回も攻撃を防ぐことに成功し、アルベラの「今日の修行はここまで」をいただいた。

「ぐあ…疲れたぁ…」

「お疲れ様です。勇者様」

「おー…主様、一段と強くなったな!」

「ったく…アルベラの野郎、今度会ったらボコボコに…」

ゆっくりとドアが開閉し、アルベラが部屋に入ってくる。

「げっ…」

「……いよいよ残る修行も明日で終わりか…明日は実力テストだ。精々死ぬんじゃないよ」

アルベラは近くのベンチに座り、机の上の巻物を投げてきた。…

「…え?」

「…ペットの説明書。まだ読んでないだろ?ここで読め。私も内容を把握したい」

「…えぇ…良いですけど…」

ワーキメラは少し睨むような形でアルベラを見つめ、勇者が読むのすら何処か警戒しているようだ。

以下説明にて。


名前 無


種族 亜人・ワーキメラ

大きさ 130〜165cm

スキル 変化自在プロテウスチェンジ

プロテウスチェンジは、ワーメラの固有スキルで体をイメージ通り、自分通りに変化させる事が出来て、尻尾や角以外にも、翼や鉤爪を生やしたりと様々な身体の変体が可能。

種族を細かく求めるならワーキメラだが、大きな分類上だと人口精霊と言ったほうが正しい。

ここでは一括りにワーキメラと呼ぶ。

人口精霊だが、生み親は不明。人が作ったのかすらも怪しいが、魔法で(恐らく情報防衛魔法の類)名前があえて伏せられていることが判明。このことから他者からの影響があり、何らかの監視下または管理下に置かれいた可能性が高い。


これはどうやらレトルトが巻物に纏めていたものらしい。

「…ワーメラ」

「なるほどねぇ…少しお前に興味が湧いたよ」

アルベラはワーメラの頬をつけるように引っ張り、いつものように『クカカッ』と笑った。

「むー…なんか恥ずかしです///」

ワーメラのほっぺたは伸びるとこまで伸びた後、アルベラに放されゴムが縮小するように戻った。

「…可愛いじゃねぇかよ!!」

ワーメラのほっぺがプルプルと揺れるのを見てネムラは思わず声を上げた。

「なんか、少しでもお仲間を知れるって感動的ですね!」

「嗚呼…そうだな…。ワーメラ、お前に一つ聞きたいことがあるんだ」

「な…なんだ?」

「…お前は、何で俺にあそこまでの忠義があるんだ?数十日間、一緒にいたがどうして奴隷を買ったやつなんか…」

「…それは……。ワーメラはレトルトを心の底から信用しているからだよ…レトルトは良い人なんだよ。ワーメラたちを奴隷扱いなんてしないし、寝床や仕事をくれるんだよ!!」

レトルトはこの世界各地を回り様々な身寄りのない子供たちを引き取り、表面上は奴隷として、裏側では孤児院のような。住処や仕事を与え奴隷として売っては居ても、確かに相手は選んでいたのだ。

「……」

アルベラは何処か不服そうに話を真剣に聞いていた。

「レトルトさんって、そんなにいい人だったんですね!!」

「…(ますます惜しかったな、仲間に欲しかった)」

「明日はお前がこの先やっていけるかを見極める。努力の結果とやらを見せて欲しいものだ」

「…やってやんよ」

翌日。

広場、といってもここは戦士が実力を競うための公共の練習場だ。

「さて…始めるかい?」

「…ふぅー…一発当たれば勝ち…一発当たれば勝ち、一発当たれば勝ち」

頬を両手で叩きながらアルベラを睨む。

「じゃ…じゃあ……いざ尋常にー始めッッ!!」

マギドナは杖を下に振りかざし火蓋を切った。

ある程度距離はある、元からあるこのアドバンテージを利用しなくてはならない。

「…遠距離魔法教えられてねぇっ!!!」

「ハッ……」

鼻で笑った声とともにあっという間に距離を詰められてしまう。

「なっ!?ッグ!!」

アルベラのナイフで突き刺すような手刀を避けるも、再び体勢を変えて今度は振り下ろすように手刀を下ろしてくる。

「ック!!」

事前に渡されていた剣でアルベラの猛攻を防ぐも刃が刃毀れしてしまう。

「ハァっ!?」

鋼の剣が手刀に負けた…!?

「ぅっッッッ!!??」

拳が死角となっていた方向から殴られ、顎が揺れる。

「痛っ……グッ…掴み手の縄バインドロープ!」

手からスルスルと縄が伸び出てきてアルベラの腕に巻き付く。

「…!!」

掴み手の縄バインドロープは伸縮自在のマナの量によって長さが変わる。だからこそ、遠くのものを掴もうとするとマナを大量に消費してしまう。さらに、これはアルベラが勇者に伝授した盗賊魔法で使い方やデメリットを教えられた。だから勇者は至近距離で魔法による拘束を試したのだ。

「(やった!これで逃げれない!)」

「…」

「ッッッ!!?」

アルベラは無言でロープを力強く引っ張り、勇者の体が浮く。

「はぁぁぁぁっ!?そんなの!ありかよぉぉぉ!!」

アルベラはそのまま縦横無尽にロープ(勇者付き)を宙で振り回し硬い地面へと叩きつけた。

「ハッつっっつ!!?」

痛い!あまりの衝撃に息が詰まり、肺が一瞬動きを止めた。

「……ぐっっ…」

「クカカッ…次はどうする?」

「…くらえっ!!ファイア!」

勇者は手に握った小さな石や砂粒を燃やし、アルベラに投げつける。

「っ!?…!っ…」

投げれた焼き石を軽々と避けつつも顔を引き攣らせている。これは流石のアルベラでも予想外の一撃か!?

「……なっ!!」

アルベラが全ての焼き石を避け終わると目にも留まらぬ速さで勇者の前へと出た。

「グッ!!バリア!」

バリアを展開しながら、アルベラの右腕に繋がっているロープを引っ張り上げる。

「…」

ズレたとはいえ、アルベラの拳によりバリアにはヒビが入った。しかし耐えれたのだ。あのアルベラの攻撃を!

そう喜んだのも束の間、彼女の拳がもう一度飛んできてバリアは呆気なく壊れ、その正拳は見事、勇者の腹部に強い衝撃を与えた。

「ゴフっっっ!!」

「…どうだい?終わりかい?」

「…まだだっ!掴み手の縄バインドロープ!!」彼女に巻き付いた縄をさらに伸ばし、腕へ巻き付けた。

「…!!」

アルベラは咄嗟に距離を置こうとするも縄に引っ張られ、距離が制限されてしまう。

「グア゙アアァァァ゙ァ゙!!!?」

アルベラはものすごい速度で走り、勢いを落とさぬまま勇者に飛び蹴りを決めた。

「……!?」

「ぐ…」

勇者はアルベラの足を掴みそのまま、二人で地面に倒れ込んだ。

「へぇ……忍耐力と耐久力はついたようだね…」

「言っちゃぁあれだが…元からこの体が丈夫過ぎる」

「…」

アルベラは捕まれた足とは真逆の左足で勇者の顔を蹴り続ける。

「…掴み手の縄バインドロープ。そして…ファイア!」

彼女の片足をロープで縛りつけ、手から出た炎はロープを導火線のように辿り彼女の足を炎は包み込もうと目論んでいた。

「…チッ…一時の万能インスタントオールパーパス

アルベラの拘束が緩くなり、炎もかなり弱くなる。そして、燃やした為かロープはボロボロになり、ちぎれてしまった。

「え!?お前魔法使って良いのかよ!!」

「防御と状態異常無効程度は許せ、身体能力強化や攻撃魔法は使わん、勿論絡めての多い盗賊魔法も。どうだ?これ以上文句があるか?」

「(くっ…じゃあ素でこの強さかよ)」

「……次の一撃。覚悟しておいとけよ、アルベラ!!」

「…クカカッ……やってみろ!!」

「…ファイア!!」

ファイアは、古来から伝わる魔法の一つで、魔法の起源の一つとも呼ばれている。基本的に誰でも簡単に習得できる魔法である。

ファイアは自分の手から炎を出すだけの初級魔法で、ファイアを投げようとすると、魔力やマナによる手への防火耐性がなくなり、上手くコントロールできないまま、自分の手に引火する恐れがある。

だからこそ、ファイアからのファイアーボールへの昇格は他の魔法とは難易度が格別である。

「…(さっきみたいにうまくやれば……)」

勇者は手に石を握りしめた。

「…」

アルベラはただただ無言で立ち尽くしていた。

「穿て!ファイアーボール!!」

手に握った石に炎を纏わせ、力いっぱいに投げつけた。

「…ふっ…」

勇者は難しい炎の操作を、石に頼った。石を軸や重心にすることで比較的簡易でお粗末なファイアーボールが完成したのだ。

「…ファイアを石に纏わせた事からインスパイアされたか、良い観察眼だねぇ…」

アルベラは俺の傑作ファイアーボールを軽々と受け止め走り出した。

「ゴガッ…!?」

顔を殴られ、よろめくもしっかりとアルベラの腕を掴んだ。

「…ゴッ!!?」

もう一発、顔面に貰った。正直容赦ねぇ。

でも…!!

勇者はアルベラの腕を掴んだまま、彼女の腰めがけて足を勢いよく振るった。

「…バリア」

五角形の綺麗なバリアが彼女を包み込む。

「ハァ…ハァ…そんなぁ……」

アルベラは強固なバリアで身を守ると両手を上へ上げた。

「…見事だよ」

「ハァ…ハァ…??」

「褒めてやったぞ。喜べ、合格だよ」

「…えっ…でも防がれて…」

「いやぁ…私が当たりたくなくてやったバリアだし…及第点だけど。いいよ、行ってきな。私が教えられるのは終わりだ」

アルベラは始めて笑顔を見せた。

目のクマと口角が無理やり上がるような、素敵な笑顔だった。

「主様ー!!見てたぞ〜!!」

アルベラは小さな足をテクテクと動かしながら

飛びかかってきた。

「あちき!心配したんだからな!!」

何処か嬉しそうなそうでもないような顔をしたネムラは帽子で目元を隠しながら近づいてきた。

「直ちに治癒魔法をおかけします!!」

マギドナは杖を持って傷口に呪文を唱える。

「ふわぁー…私は宿に戻る…。ある程度治ったら出発しな、宿泊者希望が詰まってんだ。あんた達の大部屋なんて本来勿体ないんだよ、分かったらさっさと出ていきやがれ」

彼女はそういうと大きな欠伸をしながら宿へと背を向けた。

「アルベラ。ありがとう」

「………何も聞こえなかった。それは明日に言いな」

俺は偽物の勇者として、一歩。軸や芯を持てた。


次の日。


「じゃあな、アルベラ。ドーテム・バラエに行ってくるよ。なんか色々ありがとうな」

「…スゥ~…はぁ~~………なんだい。まだいたのかい?じゃまだからさっさと消えてほしいねぇ…」

アルベラは煙管を吹かせ、何処か淋しい目で見つめた後、鼻で笑った。

「…私が鍛えたんだ。死んだら殺すぞ」

「……ハッ、死んでも死ぬのかよ。わかったよ行ってくる」


勇者たち一行はドーテム・バラエ行きの馬車に乗り、地平線をなぞりそのまま小さくなっていく馬車をただただ見つめる。

「……クカカッ……。はぁ…」



ドーテム・バラエ。異名、不落の遺跡都市。ジャングルの奥深くにある街で、かつては大きな国であったらしいが近辺の国との激しい紛争や内乱により壊滅的に追い込まれ。やがて戦争で負けたことにより今は我々の国に吸収されている。

しかし異名にあった通りで国を囲むように大きな大きな川が広がっている。これが不落の正体だ。迷いやすい広いジャングルに、何本も枝分かれした運河。今でも未開な土地が多いと言われているほど異名に劣らずの立地をしている。

「はい。勇者様ここからは小舟での川渡りをお願いします」

俺たちは小舟に乗った。ちょうど大人四人。子ども一人入りそうなスペースだ。

「うい、よろしく〜」

フードを深くかぶった船漕ぎが船を押し、陸から離した。

「わーはー…凄い…」

ワーメラは広大なジャングルと川に目移りし、マギドナはニコニコと嬉しそうに座っている。

「うっ…オロロロロ…」

どうやらネムラは船酔いをするらしい。ドーテム・バラエという名を聞いただけで嫌がっていたが、そういう事情だったのか…。

「ネムラ…大丈夫か?」

「うっへぇ…あちきに今…話しかけ…オロロロ…」再び船外へ顔を向けた。

「すいません…私の力不足で…」

「良いんだよ…船酔いは、状態異常でも何でもないから……うっぷ…」

「……」

なんだか少し、ウトウトしてきた。アルベラの戦いが響いたのか瞼が異常に重く、そのまま目を閉じ、眠ってしまった。


舟に揺られ、完全に睡魔に負けていた中、一つの違和感が頭をよぎった。

違和感。

舟にあたる水の音。謎の無数で多種多様な生き物達の鳴き声。そんな当たり前の中でも、違和感は大きく膨れ上がった。

あまりにも静かすぎだ!静寂に驚き、目を見開いた。

「…!?ネムラ…!?マギドナ…!?ワーメラ!?」

目を覚ますと、辺りは霧で包まれていて何が何だかよく分からない状況になっていた。

「…なんだよ…なんで誰も」

舟はただ一人を乗せ、川の流れに任せたまま流れている。

「……」

耳を澄ますと微かに何かが聞こえる。動物か何かが川の周辺辺りを走り回っているのだ。

「……」

獣道を突き進む様な植物の揺れと、枝が折れる音…。

「……」

にゃ~お。

猫…の声?

後ろから突如として聞こえた声に驚き後ろを振り向くも誰もいない。

「……!?」

「こっちだニャ」

そこには猫耳で長髪で…とても…可愛らしいお姉さんが舟の船頭へ立っている。

……首もとに強い衝撃。何か流れている?生温かい…。

「にゃ~お…」

首元にはタガーが刺されていて。そこから血が滲み出ていた。

「ペロッ…」

抜いたナイフを軽く舐め、彼女は顔をしかめた。

「……ぅ゙グア゙ア゙アアア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ぁァ゙ァ゙ァ゙ああああああぁぁぁあ!!!!!??」

ナイフを抜かれた瞬間。傷口が大きく広がり、赤黒い、朱殷の色に近い色をした血が広場の噴水のように飛んでいる。



第4話 本物も偽物も苦労している




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『異世界を救うはずの転生勇者は2行で死にました…!?〜』 蔑まれたこの日常は偽物であるっ!! TATAさんだっよ @tata3dayo

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