第40話 諦めかけた出版――怒る霊女たち
【たくさん詰めかけた女霊たち】
――書き上げては見たものの、なかなか出版にはこぎ着けず、とうとう嫌気が差して、違う作品のための資料となる本を書店に注文した――その晩のことだった。
その日はなかなか寝付けず――五時を過ぎようやく眠気が差してきて――夢幻の境地へと入っていた。
――三次元世界の俺は消え、四次元世界の俺がいた――
――暗やみのかなり大きな部屋の中にたくさんの女たちがいる。
そして、いきなり襲いかかってきた。
だが、それは幽霊ではなかった。
――霊界の女たちだった。
彼女らに悪意はまったく感じられない。
そして――仕切りに俺の体を叩き、何度も何度も叫ぶのだった。
「バカ!バカ!バカ!」
「馬鹿!馬鹿!馬鹿!」
「ばか!ばか!ばか!」
――悲痛な叫びだった。
みんな泣いていた。
――泣きながら俺をぶっているのだ。
何人もの女が俺の体に乗っかり――裸身を擦りつけ、両手で俺の体をだだっ子のようにひたすらぶっていた。
その様に俺の心も揺さぶられ――突き崩されていった。
俺の小さな体にはそんなに乗っかりきらないので――ほかの女は壁を背にして勢揃いしていた。
数十体――もしかしたら四〇体――はいるであろう。
――みなしんみりとした表情で成り行きを見守っている。
表情は暗く――うつむき加減で悲しそうだった。
女たちの心情はまことに真に迫っていて――哀愁が霧のようにあたりをおおっていた。
しかし俺を攻める勢いは凄まじく――俺はなにが何だか理由が解らなかった。
〈一体どうしたって言うんだ――!〉
はじめは――じつは幽霊だと思っていたので――何とかなだめて口説き落とそうと躍起になっていたが――しかし、とてもそんな状況ではなかった。
なだめすかしたり――キスをして性的な和解に持ち込もうとしたのだが、まるでとりつく島がなかった。
すると急に舞台が変わった。
――先ほどまでの暗い部屋は消え――女たちも消えていた。
あれほど多くいたのに――ここはソファーが置いてある個室のようだった。
カラオケルームくらいの大きさだろうか。
――裸身の女がいた。
ソファーから落ちかかり――この世の終わりを告げられたような顔つきで――ただジッと天井を見つめ、まるで抜け殻のようなだれたかっこうで寝ている。
――もう……終わりにしようかな……――
――女は寂しそうに呟いた。
俺はその美しい横顔を見てハッと思った。
――姫だ!――
最初に現れたあの日の面影にそっくりだった。
最初の日の――丸顔だが、キリリと締まった凛々しい眼差し――あの時のままだった。
俺は彼女の唇をふさいでしまおうと――懐かしさに誘われるままその唇に迫っていった……のだが――女はしだいに暗やみの彼方へと消えていった。
ポツリと言った彼女の言辞に――ただならぬ哀愁が漂っていた。
たくさんの裸体の女たちは――みなこのプロジェクトに関わってきた霊たちだったのだ。
――ここに一同に会して、泣きながらに訴えたのである。
姫と、そして彼女たちの気持ちを思うと、やはりこのプロジェクトを放棄するわけには行かなかった。
俺はまた憑かれたように作業に取りかかった。
彼女たちの涙が――俺を奮い立たせる原動力となったのである。
【亡くなってしまった近親者】
読者の中で近親者や友人が亡くなられた方はおられるだろうか。
それらは――夢のなかで会いに来てくれることがある。
それを――ふつう夢だとおもうが――じつは違うのである。
浮かばれていない――成仏していない――霊は頻繁に現れる。
成仏すると――現れなくなるが――そのぶん、近くにいてあなたを護っているのである。
――それが極めて近いところにいる――そうわかったのは最近のことである。
それは姫との関係性だ。
――sここにサクとのエピソードいれるs――
実は――夢の世界こそが霊と会うことが出来る空間なのである。
異次元世界である。
俺は夢の世界で――最初からいうと――おじいちゃん――おばあちゃん――おやじ――おかあさん――死んだ順番に会った。
その夢は――どれも明晰夢でもなく――ごくふつうの暗い夢だった。
あの世界が(基本)暗いところなので――それがふつうである。
祖父が死んだ時――通夜の晩にさっそく現れ――俺はおかしな幽霊が来たなと勘違いし追っ払ってしまった。
祖母は――俺がエアコンが欲しいと悩んでいた時――夢のなかのエアコンと一緒に出てきた。
父は――たまに俺の夢のなかに来て一緒に遊んでくれる。
母は一度だけやってきた。
顔は見えなかったが――ぐう然、足にしがみついたかっこうの俺の目に――生前愛用していた丈長のスカートが映った。
顔を見なくてもそれだけでわかった。
それらはすべて夢だったのだが――すべて俺に会いに来てくれたのだと理解したのである。
いろんな人に聞いてみても――みなどうように親族や知人と会っているらしい。
ただ――夢だとしか思わないが……。
しかし、夢の世界では――現実意識というものがない。
夢の中で現実世界を意識することが出来れば――三次元世界とは全く異なった世界にいる自分を――認識することが出来るのだが、まず、そんな人はいないだろう。
俺の場合――現実世界から意識を持ったまま――異次元世界へ入りこんでいるので――現実の記憶の一部として、四次元世界の記憶を持ちかえることが出来る。
だから――その世界で自分の行動したいままに、さまざまなことを実行できるのである。
ここまで書き上げた現在――まだ俺の異次元体験は続いている。
まるで終わりなきエンドレスゲームだ。
これ以上一冊に納まりきらないので、次の原稿にまわすことにした。
また、べつに調整したわけではないのだが――奇しくも出版社向け原稿を印刷し終え、発送したのは俺の誕生日であった。
そして、注文していたワープロソフト――忘れられたのかと思うほどまったく音沙汰がなかった――が届いたのもこの日であった。
〈新しいソフトを使ってこれからも頑張れ!〉と言うのだろうか?
これも霊魂の心にくい演出のように思えるのである。
【ドリームラッシュの始まり――】
――じつはこの――書き上げた瞬間か?――原稿を出版社に送った瞬間?――からつぎのプロジェクトが始まったのである。
――それは〈夢世界〉である――
当初――俺は――その趣旨がわからず――書くのが滞〈とどこお〉った。
あまりにも荒唐無稽であり――夢――であることに間違いはない。
夢――をただひたすら書け――というのか?
しかし――俺のみた夢は――ただならぬ夢だった。
鮮明で――明晰夢――白日夢――まさにそれだった。
それがまさに――怒涛の如く押し寄せたのである。
どうやって書いたら良いのかわからず――どんどん原稿がたまっていき――それでも書けずに――その膨大なデータを無視する形となってしまった。
当初――なぜこんな夢を――大量に見るのか?――見させられるのか?――それがわからなかった。
――こんなものは馬鹿馬鹿しい――ただの夢ではないか?――
俺はそう思い――無視し続けた。
――そのうち潮が引くかのように、だんだんと夢をみることはなくなっていった。
そしてその〈ドリームラッシュ〉が終わって十年以上経過したある日――その答えがなんとなくわかったのである。
――それは霊界とはちがう――まったく別の〈夢世界〉とでもいうべきか――そんな異次元空間が存在するのである――
『異次元の扉』
『霊界鉄道』
『霊界エクスプレス』
と、たびたび名を変えたが――、これらの第二弾は〈夢世界〉の探索と立証なのである。
――乞うご期待!――
霊界エクスプレス @shigeru000furuse
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