第13話 夏休みの終わり
あっという間に夏休みが終わり、おじいちゃんの家の片付けは半分も終わらないまま帰ることになってしまった。
「お世話になりました」
少ない荷物を持って玄関先で諒のお父さんに挨拶をする。
諒のお父さんとはあまり会話できなかったけれど、その目が赤くうるんでいることに気がついてこっちまで泣きそうになってしまう。
「またいつでも来いよ」
諒に言われて私は頷く。
「もちろん。ハルもいるしね」
諒の隣に立つハルに視線を向ける。
ハルはここに残る決断をした。
ハルはここで生まれ、そしてここでずっと守ってきたからだ。
その約束は果たされたけれど、今度は諒のためにタイムマシンの設計図を表示するという役目ができた。
諒があの地下室を使うことは私が両親から許可をもらうつもりだ。
「真子ちゃん、元気でね」
ハルが軽快に手を振るので思わず笑ってしまった。
ハルを前にすると切ない気持ちは吹き飛んでしまう。
少し遠くても国内だ。
何度でも、後悔しないようにここへ来ればいい。
「ハルも元気でね」
「次来るのは正月か?」
「そうだね。片付けもまだ残ってるし、そのくらいに来ると思う」
視線を諒へ戻して返事をする。
諒ともしばらくお別れか。
そう思うとやっぱり切ない。
諒が右手を差し出してきたのでそっと握り返した。
手の中になにかゴツゴツしたものが触れる。
「それじゃ、また会おうな」
「うん」
そろそろ行かないと汽車の時間に間に合わなくなる。
これを逃せば次は1時間後だ。
私は後ろ髪引かれる気持ちで柴田さんが待つ車へと向かったのだった。
車の助手席で揺られながら手のひらを開いてみると、そこには黒い小さな塊があった。
それがタイムマシンの残骸であることに気がつくまで少し時間が必要だった。
これは私達のひと夏の重要な思い出になる。
私は手の平サイズのタイムマシンを大切に握りしめたのだった。
☆☆☆
帰宅後、相変わらず両親の過保護っぷりは激しかったけれど以前より気にならなくなった。
これも愛情表現のひとつなのだと思うとなんだか可愛くさえ感じられる。
事件についてももちろん知らせていたけれど、ふたりとも仕事で身動きがとれない状況だったらしい。
こうして見れば基本的には仕事を優先しているからこそ、罪悪感から一緒にいられるときにだけ過保護になっているのかもしれないと思う。
そして久しぶりの学校。
私は緊張しながら2年A組の教室の戸を開けた。
まだ時間が早いせいか数人のクラスメートしか登校して来ていない。
そこに愛の姿がなくて落胆していると、後方からもうひとり教室に入っていた。
ふりむいて「愛!」と、思わず声を上げていた。
右手に包帯を巻いた愛がぎこちなく笑っている。
「学校来たんだね」
「うん、一応ね」
愛の父親はあの後自宅で見つかり、そして部下と共に逮捕された。
そのニュースは夏休み中の世間を騒がせ、そしてすぐに鎮火していった。
けれど学校ではそう簡単に鎮火しないことはわかっていた。
愛はこの先犯罪者の娘という厳しいレッテルと共に生きていくことになる。
「怪我、大丈夫?」
「平気だよ。お父さん射撃は下手みたいだね」
包帯を巻いた自分の手を見つめて愛は肩をすくめてみせた。
拳銃の弾は愛の手を掠めて壁に穴を開けただけで済んでいた。
でも私は前川さんが真の悪人ではなかったから、本気で私を殺すつもりではなかったのだと思いたい。
だってあの人はおじいちゃんの相棒だった人だから。
そんな考え方はまだまだ私が甘いからだろうか?
「愛、今度は私と一緒にタイムマシンを作ってみない?」
「やめてよその冗談。冗談にならないから」
途端に引きつった笑みを浮かべる愛に大笑いする。
「ごめんごめん。じゃあ、ハルみたいなロボットを作るのは?」
「それいいかも! 私も一応お父さんの子だし、作れるんじゃないかな?」
「じゃあ決まり!」
私達は肩を並べて歩き出す。
次にハルと諒に会える日を夢見ながら……。
END
ハル 西羽咲 花月 @katsuki03
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます