わたしが見守ってる勇者くんが全然ステータスオープンしないんだけど?
朝食付き
私はシステムの精霊ですよ
さあ、今回の担当はどんな子でしょうね。見てみますかね。
12歳の男の子ですね。適性は、と。ふむふむ、これは勇者見習いでしょう。身体能力は上々、魔力もそこそこあるなら決まりですね。それに、転生理由が子猫を助けるためなんて泣けますね。これはきっといい勇者になるでしょう。ショートソードと皮の胸当て、皮のブーツ。それとシステムの開き方覚書。この装備はサービスですよー!
おやおや、さっそく剣と装備に気づいてはしゃいでますね。うんうん、素直でよろしい!
異世界転生なんですから、起きたらまずやることがありますよね? ほらほら、今君がはしゃいだせいで足元に落ちた一枚の覚書を読めば、この先全部順調ですよ? あっという間にステータス見れちゃいますよ? 登録ボーナスだって有馬明日! たった一言、ステータスオープン!それだけ唱えればね!
……まあ、聞こえてませんよね。私、転生システムの精霊なので、初めにシステムにアクセスしてもらわないと何にもできないんですよね。
あらあら、初期配布の剣を嬉しそうに振り回しちゃって。言っておきますけど、スキルだってステータスから振るんですからね?
ああ……。覚書に気づかないで歩き出しちゃいましたよ、この子……そんなことある??
いやぁ、手に汗握る激戦でしたね! まさかいきなりコボルトとは! 今回の勇者くんは運がいいのか悪いのか。にしてもあんなに動ける子だとは思いませんでしたよ! しかもしっかり頭を使っての勝利! ビクトリー! 確かに勇者くんはまだレベル1ですから、攻撃力は全然です。だからきっちり傷をつけて体力を奪う作戦はバッチリでしたね。最後の一撃も、思いっきり勢いをつけての飛びかかり斬りってのがヨシです! 不足しているのは他で補う。うん、私好みの戦い方ですね。
そうそう、これは格上相手の勝利ですから、経験点がっぽしですよ! しかもボーナススキルチャンス付き! これはおいしい! 金スキルから一つ抽選出来るんですよ? ほらほら、経験値2倍に危機回避、魔力回復力3倍なんて誰がとっても役に立つスキルですからね。……まあ、ステータスすら開かないんじゃ、意味はないんですけど。
ようやく街を見つけましたね! 頑張りましたね、勇者くん! 正直あんなにわかりやすい街への案内板を華麗にスルーした時はどうしようかと思いましたが、これで無事にミッション1クリアです。クリア報酬は街で使える金貨に銀貨ですよ。初期装備をアップグレードするのもよし、回復薬や解毒薬で身の安全を図るもよし、ギルドで冒険者講習を受けるのだって選択肢としてはアリです!
ま、宝の持ち腐れですけどね。はぁ……。転生者システムなので現地の人たちはステータスなんて概念ありませんし、他の転生者がいるとしても、教えてくれるかどうか……。本当なら勇者くんにシステム説明して、時々ミッションクリアのアナウンスするくらいの筈だったんですが……。本当に、この子、大丈夫かしら?
おめでと〜!! 苦節3ヶ月、ようやくのギルド入りですね! いやぁ長かった! 一文無しで街暮らしを始めようって言いだした時はどうなるものかと! まさか冒険者ギルドで働くどころか、屋台のおじさんたちの小間使いで日銭を稼ぎ始めるとは私の想像外でした。あなた、コボルトとやりあえるくらいの実力なら普通に冒険者として一端ですからね? 全く、勿体無い時間でしたよ。ま、その分街の人たちと仲良くなれたようで何よりですけど。
記念すべき初めての依頼は薬草摘みですか。うん、いいですよ! いきなり大物狙いは怪我の元ですし、さすがに勇者くんもまだ厳しいですしね。ちゃんと依頼内容を確認して、どんな薬草なのかを確認するのもグッドです。根っこからきれいに採ると薬効がきちんと出るらしいですね。勉強になります。
おや、先輩冒険者に絡まれちゃってますね。同じくらいの薬草なのに、勇者くんの報酬が高いのはおかしいって。まったく、やれやれ、困ったものですね。見れば彼の集めた薬草は全て葉っぱだけ。一番大事な根っこがないじゃありませんか。ここがあるとないとでは大違いなんですよ。ね、勇者くん? って、そんな親切に教えちゃっていいんですか?! まさか教えてもらえるとは思ってなかった先輩くんもびっくりしてますよ? 生き馬の目を抜くような冒険者業界にあって、そんなお人好しで、ちゃんとやっていけるか心配です。
きたきた、きましたよ! 昇格クエストです! 地道に依頼をこなしてきた甲斐がありましたね! ほら、もっと喜んで? ギルドの受付嬢が困ってますよ? なになに、昇格するような大したことはしていないですって? 違うんだなぁ。勇者くんは勘違いしていますよ。冒険者として一番求められるのが何かってことを! 何がいるってまずは信用なんですね。辺境の魔物溢れる地域なら兎も角、ここのようなある程度大きい街のギルドじゃ、求められるのは人柄なんですよ。何せ荒くれが7割の冒険者ですから、依頼人を不安にさせないような人間は貴重なんです。それに、勇者くんは冒険者仲間ともうまくコミュニケーションを取れていますし、地域の人たちからの評判も上々ですからね。勇者くんの所属しているギルドなら、って何気にギルドの立場をよくしているという効果もあるんです。なんて、私が説明するまでもなく、受付嬢さんが話してくれてますね。いやもう、私のこの解説は誰向けなんですって話です。ま、勇者くん、冒険者ランクアップ、おめでとう!
あれ、勇者くんは何やらお悩みですか。どうしたんです? 私に話してみなさいな。なんて聞こえちゃいないでしょうけど。でもちゃんと声に出してくれてますね。宿の1人部屋ですから別に構いませんけど、独り言は場所を選ばないとダメですよ?
それで、ふむふむ。勇者くんの独り言によれば、最近自分の実力が大したことないんじゃないかと思っていると。はいはい、そういう悩みですね、承りました! そうですね、勇者くんがこれまでの冒険者活動で手に入れた、そしてレベルアップで得られた経験点はすでに4桁を超えてます。これを全部スキルに変えてやれば、あっという間に最強ですよ最強! ……それはちょっと言い過ぎましたけど、実際勇者くんが課題にしている攻撃力不足はなんとかなりますよ? 基本スキルのバッシュでもスラッシュでも、普段の攻撃の1.3倍の威力はありますから。さらにスキルを伸ばせばそこらの魔物相手なら全部一撃必殺です。ほら、スキルを取りたくなってきたでしょう? ……あーあ、私の声が届けばなぁ。こんなに潤沢にスキルポイントあるのに、勿体無い。私なりに勇者くんのスキルプランだって考えているんですよ? 勇者くんの素早さを存分に伸ばしつつ、一撃の威力を高める方針です。多分希望と一致していると思うんですけど、どうです?
どうですも何もないですね。いいですか、勇者くん。あなたはちゃんと強くなってますよ。確かに周りの冒険者さんとの差に落ち込むことはあると思いますが、それでも一日一歩、三日で3歩です。ずっとみてる私がいうんだから間違いないですよ!
……聞こえていないのが恨めしいなぁ。
ス、スキルを磨けですって!?? 一体、何者だこのおじさん……!! 伸び悩む勇者くんを心配したギルドマスターが紹介してくれたこの男、さては転生者だな? もしかして勇者くんにステータスの使い方を教えてくれる感じ?? ようやく私の出番が来るってことなんです??
……はい解散解散。なんだよ期待させやがって! 勇者くんも目を輝かせて頷くんじゃないよ全く! まさか文字通り剣を使いこなせって意味だとは思わないじゃん。スキルってのはそういうんじゃないの! 技術と技能の違いみたいなことを言いやがって。と文句を言っても聞こえないから仕方ない。本当なら、これが僕のスキル……!って感じに勇者くんが身震いしつつ、ステータスの使い方を親切に教える私に感謝する筈だったのになぁ。ま、勇者くんが嬉しそうにしてるから許すけどさぁ。
緊張感で私もどうかなりそう。
勇者くんが受けた依頼は可愛い女の子の護衛。いくら勇者くんが優秀とはいえ、他の屈強な冒険者を差し置いてなんで勇者くんかと思えば、これは騙し依頼だったのだ!
街から離れた森に入って、刺客が正体を表した。さすがの勇者くんなので、護衛対象の女の子を連れ出すことに無事成功! したのはいいんだけど、刺客を本気にさせたみたい。下っぱじみた取り巻きを倒したところで真打登場。まさかの魔物使いだったというわけ。
巨大なトカゲ。いわゆる亜竜種ってやつね。魔物の中でも文句なしの上位種。これをあんなモヤしっぽい術者が使えるとは思わなかったわ。どうするの、勇者くん!?
答えは剣を一振り。そう、戦うのね……。勝ち目があるかは分からない。けど、勇者くんはいつだって私の予想なんて軽く越えてくれるものね。きっとやってくれる、はず……!
あらあら、チューしたわよこの子!!みちゃったみーちゃった!!
トカゲとの戦いは本当に激戦だったわ。まさかトカゲ相手に目潰し玉があんなに効くなんて、勇者くんもよく分かったわね。いつも通り、泥臭く、でも確実な立ち回り。亜竜とはいえ、その末端であるトカゲはあまり知能が高くないから、割と攻撃がパターン化しがちなのよね。そんな相手は勇者くんのお得意様だったわ。それに、まさかあの女の子が魔物使い相手に決定打をかますとは思わなかったわ。よくよく見ると、相当な魔力持ちよ、この子。
勇者くんがトカゲを相手して、親玉が油断したところを女の子、魔法使いちゃんがやっつけると。うんうん。いいコンビネーションだわ。相性いいんじゃない? 勇者くんもそろそろパーティ組んでもいい頃だと思ってたのよ。
トカゲともども逃げていった魔物使いだけど、さすがに勇者くんはバタンキューみたい。ふらりと倒れて寝ちゃったわ。勇者くん、時々こんなふうに力尽きて寝ちゃうのよねぇ。そういう不安定さも込みで、やっぱりみてくれる仲間が欲しいわ。全く、魔法使いちゃんをびっくりさせるじゃないわよ、勇者くん? うんうん、不安になっちゃうわよね。慌てて駆け寄る魔法使いちゃんがなんだか微笑ましいわ。
ん? 膝枕をしちゃうのね。大胆ねぇ。勇者くんの髪を優しく撫でて。あれ、なんだか魔法使いちゃんの目つきが怪しいような……?? ああっ!!!
魔法使いちゃんは無事に勇者くんとパーティ結成! めでたいわねぇ。めでたいけど、勇者くん大丈夫かな? 魔法使いちゃんは女の子だからね、ちゃんと優しくするのよ? 勇者くんはちょっと、素直すぎるというか、気遣いができてるかな?ってところがあるから。まあ魔法使いちゃんは見た目以上に強かだから心配するまでもないかもしれないけど。
ちなみに魔法使いちゃんが狙われた理由は、100年前の魔導大戦での立役者が魔法使いちゃんのお爺さんだったみたいで、その血を引く魔法使いちゃんを狙ったということのよう。逆恨みね。でも、そういう人間が動き始めているってのは、かなり大事になりそうな予感がするわ。っていうか、ここからが勇者くんの真の冒険ってことかも!
……とはいえ、まだまだ勇者くんは発展途上だものね。ステータス上げたい時はいつでもって欲しいんだけど、この声が届けばなぁ。でもね、勇者くん。君はいつもいつも力が足りないって、全然成長できていないって悩んでいるけど、しっかりと成長しているのよ?
不安に思うことはないの。だって、私が一番君の成長を知ってるもの。だって、勇者くんのステータスを、私はみてるのよ。昨日よりも、今日は確実に強くなっているわ。だから、あなたは間違ってないわ。……なんて、この声も、私の自己満足でしかないんだよなぁ。
***
「あ、切れた」
「? なにが切れたのですか?」
「うーん、なんていえばいいんだろうね。俺がここにきてからさ、ずっと誰かが見守っててくれてるんだ。多分だけど。その視線がね、切れたみたい」
「……それは、大丈夫なんですか?」
「大丈夫、と思う。なんていうか、悪い気配はないし。一緒になって冒険をしてるって感じ。ずっとみてくれてるわけじゃないみたいなんだけど」
「なら、いいのですが……。その、試しに声をかけてみたりはしないのですか?」
「しないよ。だって伝わるかもわかんないし。それに──」
「それに?」
「いつか会った時にさ、その方が面白いでしょ?」
終わり
わたしが見守ってる勇者くんが全然ステータスオープンしないんだけど? 朝食付き @taxing
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