二十世学園案内図!
帆高更咲
第1話 プール掃除は連帯責任
「罰として!!」
教師のこの一言は、お騒がせな者全てを固まらせる程の威力がある。
現に、掃除を言い渡された6人もさっきまでの記憶を一瞬にして忘れ、掃除に取り組んでいる最中である。
「…なあ、なんで俺等プールの掃除してるんだ?」
ガシガシとブラシを擦りながら
「なんでだっけな」
無表情のままタイルを磨き続ける
「てか有都さっきから同じところしかやってないじゃん!」
二人の会話に気付いた
途端に、全員の視線が集中する。
何を言われるか察したのか、誰かの口が開く前に有都は言った。
「違ぇよ。一周して来たんだよ」
そう言いながら、再びタイルを磨き続ける。
「え、嘘だろ。まだ15分も経ってないのに」
捲った袖から細い腕を覗かせ、雑巾を絞る
「まあ子供ん時から掃除は身近だったしな」
「お前が言うとなんか怖くなる」
見学用の椅子を片付けながら
なぜなら有都の実家は、かつて街の裏を纏め上げた伝説の
「ちょっとみんな、掃除しよ⁈」
周りを見渡し、ほとんど進展していないことに驚いた
因みに、彼は至って真面目に掃除をしている。
「あー疲れたー!ちょっと休憩ー!!」
非力な青空に乾拭きは堪えたのか、その場に座り込んだ。
「じゃー俺もー」
青空につられ、皆次々と掃除の手を止める。
「はぁー…」
深く息をつき、仰向けに寝転がりながら有都はこれまでの経緯を思い出していた。
事の発端は、放課後の掃除であった。
「よー、掃除進んでるか…」
監督として教室に来た有都は、一足踏み入れて言葉を失った。
全く掃除が進んでいないのである。
そればかりか、片や箒でバトルを繰り広げ、片や掃除道具を手に持ったまま言い争っていた。
正直に言うと、見なかったふりをして帰りたかった。
しかし、それは効率を重視する有都にとって選び難い選択肢であった。
「何やってんだ…」
出てきた言葉は、これであった。
「あ、有都!ちょっと聞いてよ!!京がさ、たけのこよりきのこだって言うんだ!」
「…ハ?」
「そういうお前もきのこよりたけのこだとか言ってただろ!」
「向こうの二人はアテにならないからさ、有都、ハッキリ言ってくれ!たけのこだって!!」
「いーやきのこだ!」
「たけのこだ!」
「ちょっと!ボク達がアテにならないって聞こえたんだけど!?」
「だってそうだろ?お前等きのこもたけのこも美味しいじゃんとか曖昧なこと言うだろ?」
「え、それで争ってたの?子供だね」
「何だと青空!もう一回言ってみろ!」
「だから、こどm…」
「これ以上言わない!!!」
きのこかたけのこか争いは終わるどころか徐々にヒートアップし、廊下にいた踊香も巻き込んで大討論がされた。
「だから、きのこはザ・きのこな見た目をしているのが良いんだ!しかもクッキー部分はサクサクで、おまけに手で持ちやすい!たけのこに比べてチョコの量も多いぞ!!」
京はそう言い、どこから出したのか、きのこの形をしたチョコレート菓子を摘み、サクッと音を立てて口に放り込んだ。
「フン!俺はそのきのこに絶望されられたんだ!食べようと思って袋から摘んだらクッキーだけ出て来たんだ!その時の悲しさはとても言葉では表せねぇ!対してたけのこは見た目からコンパクトでしっかり筍で崩れることが無い!クッキー生地もしっとりしててチョコとの相性抜群!」
伊織は京に向かって、どこから出したのか、たけのこの形のチョコレートを見せつけ食べた。
「ねえ有都。この争い、もしかして戻れない所まで来ちゃった?」
京たちが睨み合う中、一己が囁いた。
「気づくの遅すぎるよ。だって掃除始まる前から始まっていたんだもん」
青空が今更?と言いたげな顔で言う。
「何で止めなかったんだ…⁈」
青空の発言に、有都は少し驚きを交えながら反応した。
「だって、どうせいつもの軽い言い争いかと思ってたし」
「たし?」
「二人の会話聞いてると面白かったから」
「ハァー…」
「なんか、ごめんな…」
有都の溜め息に、踊香が反省したような表情で謝った。
「いや、良いんだ。それよりもアイツ等止めねぇと…」
「あ、そうじゃん…」
4人が目をやった先には、それはもう一触即発なバチバツとした空気が流れていた。
「お前、これ以上きのこの悪口言ったらタダじゃおかねぇからな…」
「そっちこそ。これ以上たけのこの悪口やめてもらえませんか?」
「ちょっと、アレもうやばいよ!」
有都の後ろに隠れながら、一己が
「ヤベぇよ、いつ殴り合いが起きてもおかしくねぇ…」
いつ止めるべきか、タイミングを窺っているように踊香が言った。
「ねえ、割と真面目にどうする?」
段々顔が引きつってきた青空が有都に尋ねる。
「アー…踊香、お前は京を抑えろ」
「了解。じゃ321で行くぞ」
「おう。3、2、い…」
「何しているんだ!!!」
「「?!」」
「掃除中だろう?!何サボっているんだ!」
飛び出したと同時に、廊下を巡回していたらしき教師が入ってき、一同はさっきまでの争いが嘘のように静かに固まった。
「監督!」
教師がそう言い、有都は咄嗟に謝ろうとした。
「あー、まだ来てないです」
いつの間にか、青空が教師の斜め前に、有都を隠すように立っていた。
「ハァ…よし、君達は罰としてプールの清掃を行うように!ここの掃除が終わったらすぐだ!」
教師のその言葉に、有都と踊香を除く4人はすぐに反応した。
「はあああああああ?!?!」
そんな叫びを聞きながら、すんなりと現実を受け入れた有都は、ふと教室外がザワついているのを感じた。
「花瀬たち、プール清掃するんだって」
「まああれだけ大きい声出してたらね…」
「こっちにまで聞こえてたもんね」
「てかプールってあそこの⁈」
「そうでしょきっと。大変そ〜」
そんな言葉も聞き流し、有都は踊香に向かって言った。
「なあ、お前はプールやんなくていいぞ。もとは青空たちが勝手に巻き込んだんだから、お前は関係ない」
勝手に巻き込まれた踊香まで罰を受けるのは違う、と有都は思ったのだ。
「いや、結果として争いを助長させてしまった俺にも責任がある。それに、人手は多い方が良いだろう?」
有都は友の優しさを有難く思うのと同時に、必ずやあの4人を止めなければいけないと思った。
「まったく、何やってるんだ…」
有都たちがプールに向かって歩いている所を見た1人の生徒は、しばし考えた後、別の生徒に声を掛けた。
「あのさ…」
そして現在へ戻る…
「あーそうだったな」
「何が?」
さっきまでの記憶が全て消えたかのような口調で伊織が言ったその言葉に、有都は何か言おうとしたが、先程の伊織の表情を思い出し、何でもないと濁した。
そして掃除を再開すると、なぜか揃って急に真面目になって取り組んでいる様だった。
安堵すると共に、有都は何か嫌な予感を感じていた。
「あーあ!やっと終わったあー!」
全てを片付け、青空は空っぽのプールに大の字になった。
「1番遅かったな。もっと肉つけろ」
「クゥ〜〜〜!!いつか見返してやる〜〜!!」
そう悔しそうに叫びながら、いつの間にか有都たちが座っている見学用の椅子の目の前で胡座をかいた。
「まあ、これで一件落着か…」
「踊香…すまない、本当に」
踊香の呟きに、有都は謝罪した。
「良いんだよ。ちょっと楽しかったし。あ、じゃあ俺は先に」
「また明日」
そして、踊香の姿が見えなくなったと同時に、有都の真隣に伊織が座った。
「でさ、さっき出来なかった…」
ポケットの中に手を入れる姿を見て、有都は察し、断ろうとした。
「あー!お前ズルいぞ!」
いつから見ていたのか、京が近くへ寄ってきて隣に座った。
そして、ほぼ同時に2人の手から先程の言い争いの原因となった菓子を取り出し、有都の手に乗せた。
「これ、食べてみて!」
「お前ならきのこって言ってくれること信じてるから!」
「何⁈有都はたけのこに決まってるだろ⁈」
「いやまだ食べてねぇし」
実は、有都はあまり甘い物を好まない。
しかし、目を燃やす2人の視線に負け、まずはきのこの方から食べることにした。
「な、美味いだろ⁈」
「まあ…甘いな」
「いやそりゃチョコだし…」
今度はたけのこの方を口に入れた。
「きのこじゃないならたけのこでしょ!」
「甘いな」
「何で⁈何で永遠に決着がつかないと言われているきのこたけのこ戦争でどっちも『甘いな』ってなる⁈」
有都の素っ気なさすぎる感想に、京が叫んだ。
しかし有都としては、ただ自分の感想を述べただけである。
「いやだって甘ぇし」
「有都、もしかして…」
一部始終を見守っていた青空が不安そうな目で見て来た。
有都は、この自称寛大な学級委員長が理解を示してくれることを願った。
「食レポ下手?」
そう言えばコイツ、ナチュラルに毒舌だったな…と有都は思い、視線を一己に移した。
「因みに一己はどっちなんだ?」
「え、オレ⁈」
聞かれると思っていなかったのか一己の驚きの声は室内に木霊した。
「えーオレはー…」
少し悩むような仕草は、全員の興味をより引き立てた。
「ア◯フォートの方が好きかなー…」
突如として出て来た回答に、全員がズッコケたのは言うまでも無い。
「で、出たな…!第三の勢力ゥ!!」
「クッ…確かに◯ルフォートも美味い…!」
「…よし、こうなったらクラス全員にアンケートを取るしか無い!」
気付いたら青空も悔しがっていたが、有都は気にしないようにした。
「…だがその前に決着をつけなければ次なる戦いへは挑めない!」
「そうだな…だが俺のたけのこが圧倒的に勝つだろう。きのこよりも、アルフ◯ートよりも、このたけのこが1番美味いってお前意外全員言っている!!」
「いや言ってねーし」
有都はツッコんだが、再び争おうと燃える2人には届かない。
そして、そろそろ本気で止めないといけないと思い、2人の間に手を割った瞬間ー
「おーい!」
帰ったはずの踊香が戻って来た。
「あれ、帰ったんじゃなかったの?」
「いや帰り道に会ってさ…」
踊香が言い終わる前に、1人の女子生徒がパタパタと室内に入ってき
「お疲れ様でーす。わぁ、凄く綺麗!!」
と感激し、艶やかな黒髪を靡かせながら小走りに来た。
「え、
「一己くんやっほー!差し入れ持って来たよー!」
そう笑顔でバスケットを掲げるクラスメイト・
他にも聞きたいことは色々あったが、少し頬を
「え、マジ⁈ありが…」
「でも、どうして愛ちゃんが?」
伊織の感謝を遮り、青空が尋ねる。
「
「そうだったんだ。
結絆は愛の双子の兄であり、青空の幼馴染みである。
愛の話によると、教師がプール清掃を命じたことや言い争いの原因を聞き、気を遣ったのだろうと。
「あのー因みに何があるんですか…?」
すっかりバスケットの中身に気を取られている京に、愛は笑って包みを開けた。
「うおぉ…これは」
「もしかしなくとも、ヨッ◯モックのドゥー◯ル?」
冷静そうに見えるが、瞳を輝かせながら青空が尋ねた。
「ご名答〜!」
さすが青空くん〜、と愛はにこやかに手をたたいた。
「え、待ってこんな高そうなもの頂いちゃっていいの⁈」
若干引いている一己がおずおずと聞いた。
「うん!ちゃんと人数分あるから、安心して!」
恐らく、危惧しているのは数では無いことを、ここにいるほとんどが分かっていたが、安心して!と可憐な花のように笑う愛に断れる者など、最早1人もいなかった。
「では、有難く頂きます」
「どうぞ〜」
袋を開いて、伊織と京はハッとし、しばらく見つめ一口齧った。
「「美味しい…」」
「本当⁈喜んでもらえて良かった〜!」
パァと綻ぶ愛に、2人は照れくさそうに目を逸らした。
「いや、何か今日初めて伊織と意見があったなーって…」
「俺も…反発するだけじゃなくて、もっときのこの良いとこ受け入れれば良かったな」
「きのこ?」
「「ううん!何でも無い(よ)!」」
首を傾げる愛に、伊織たちは誤魔化そうとした。
「愛ちゃん聞いてよ〜。この2人きのこの◯かたけのこの◯かで争ってたんだよ」
「しかもヒートアップしてプール清掃させられる羽目になったし」
「今赤糸さんが来なかったらn回戦目始まるところだったし」
青空たちに淡々と述べられた事実に、当事者2人は反論する力を奪われた。
そして2人が撃沈した時、有都は、言い争いが無くても一己と青空が箒で遊んでいるところを見つかってプール清掃ルートだって有り得たことを言うべきか考えていた。
「まあ、青空だってオレと箒で遊んで掃除サボってたから、人のこと言えないんだけどね」
「「!!!」」
「ちょっと一己!」
「え、青空たちも論争に巻き込まれたんじゃなかったのか…⁈」
「エエトデスネソレハ…」
最大のブーメランが返って来、青空はカタコトになってしまった。
「ほう…言ってみろよ…」
そして、京が問い詰めようとした時
「ふふ…みんな仲が良いのね」
クスリと笑いながら、愛が全員を見つめた。
「結くんが凄く心配そうな顔をしていたから、何があったのかと思っていたら…そういうことだったのね」
途端に、全員全身の力が抜けていくのを感じた。
「…ボク、帰ったら結絆に謝らないとな」
寮のある方角を向いて青空が呟いた。
「俺も。なんかバカバカしくなって来た」
食べ終わったお菓子の袋を見つめながら京が言った。
「あのさ…京」
不安そうな目で、伊織が京に話しかけた。
「…なんだ」
「ゴメン、突っぱねてばっかで。京の好きなもの、受け入れようとしないで…本当にゴメン…!」
そう言うと、伊織は俯いた。
「俺のほうこそ、ゴメン。自分のことばかり押すんじゃなくて、ちゃんと受け止めるべきだった」
そう言うと、京は伊織の手を取った。
「和解成立だね!」
2人がハッと目をやると、満面の笑みをした青空が親指を突き立てていた。
そして、全員が一気に笑った。
「そういえば、結くん言ってたな〜。『美味しいものを食べるとみんな笑顔になる』って」
「…!そうだね」
「そうだな…」
「それに、反りあってた2人の意見を一致させるしな」
「「!」」
フッと笑う有都に、2人はハッとし、互いに目を合わせた。
「そうだよな…喧嘩してばっかりよりも、共通のものに笑い合える方が良いよな」
「同感。それに、喧嘩してお互いの考えを認め合えなかったのが今回の反省点だからな」
2人の言葉に、全員が大きく頷いた。
「もうすっかり仲直りしたね」
「うんうん。さっきまで言い争ってたのが嘘みたいだ」
一己や踊香が、昨日のことのように懐かしむように言った。
「これで次2人が揉めても止められるね!」
「そう言うことなのか?」
青空の発言に有都が首を傾げると
「良いのそれで!」
と、少し眉を寄せながら青空が言った。
「アハハッ!じゃあまた俺等が喧嘩しそうになった時は止めてくれよ?」
京がからかうように青空を見た。
「良いよ。『プールの誓いを思い出せー!』とでも叫んどくよ」
「グフッ…他の奴からしたらなんじゃそりゃってなるぞ」
「じゃあオレも『プールゥゥ!』って言うよ」
一己がプールゥゥと叫ぶと、全員ドドっと笑った。
「ヤバいちょっと一己のそれツボだ」
肩を震わせながら伊織が言った。
「ふふふっ…って、もうこんな時間…!」
笑っていた愛が、ふと時計を目にやった。
「待って、ウッソもう5時半過ぎてる!」
青空がそう叫ぶと、全員一斉に時計をみた。
「マジじゃん!」
「時の流れはあっという間だねー」
「そろそろ帰るか」
そして、体を伸ばしたり欠伸をしたりして、プールサイドを歩き始めた。
「なぁみんな、見て…」
伊織がそう言い、指差した方を見ると
「……綺麗…」
窓から差し込む夕陽が、辺り一面に反射し、キラキラと輝いていた。
暖かな橙色は明るくも優しく、そして言葉が止まるほど美しかった。
「…なんか、俺今日プール清掃やって良かったかも」
しばらく沈黙が続いた後、踊香がボソッと呟いた。
「ボクも。やってなかったら、この景色見られなかったと思うと…」
真っ直ぐ夕陽を見つめながら、青空が頷いて言った。
「おーい、まだ居たのかー」
「「⁈」」
突如、静かだった
「結くん!」
「結絆⁈」
「愛がなかなか帰ってこなかったから何かあったのかと思って来た」
声の主は、愛の兄にして青空の親友・赤糸結絆だった。
「さっすがお兄ちゃーん」
「うるさい」
伊織が茶化し肩を組むも、結絆は華麗にその手を払った。
「で、本当は何しに来た?」
いつの間にか隣に立っていた有都が尋ねた。
「ああ…いや、別に何も無い」
「その言い方は絶ッ対何かあるな」
「うんうん。漫画でもアニメでも現実でも、それは何かあるって決まってるんだ!」
誤魔化そうとする結絆に、京と一己は眉をひそめた。
「で、本・当・は?」
結絆の前で前屈みになり、上目遣いで青空が(あざとく)首を傾げた。
「はぁ…門限、あと5分」
「…え?」
バッと一斉に時計を見る。
そして、何人か青ざめた。
「ヤバいヤバいヤバいよ!」
「あ、今56分になった!」
「実質あと3分じゃん!!」
「オレ前科持ちなんだよー!」
「とにかく急げええ!!」
「「「「ぬおおぉおおぉおぉおお!!!!!!!!」」」」
そして、青空・有都・結絆・愛を除く4人は猛ダッシュで扉へ向かった。
「…あのさ、これ絶対俺等も急がないとマズイやつじゃね?」
「ああ、大丈夫だよ」
有都の若干焦りが混じった疑問に、結絆は涼しげに即答した。
「寮長にもう連絡してあるからな」
「ハ?寮長って確か…」
「そう!ボクだよ!」
パッと口をVの字にして青空が言った。
「と言ってもまあ、実際はプールに向かってる時になよに連絡したけど」
なよ、とは青空と同じ学級委員の
青空が男子寮の寮長であるのに対し、夏良は女子寮の寮長を務めている。
「青空くん、今度こそ夏良ちゃんに怒られるよ?」
愛が心配そうに青空を見る。
夏良が青空に、なよ呼びされるのをウザがっていることを知っているからだ。
「だいじょーぶ!なよはボクの前だと全然怒らないから!」
「その自信はどこからくるのやら」
「本当」
笑顔で自信満々に言う青空に有都たちは呆れつつも、青空という生徒の憎めなさを実感した。
「ところでさー結絆ー」
純粋に尋ねているようにも、わざとらしく言っているようにも見える瞳で青空は言った。
「ドゥービ◯渡した意味、教えてくれなーい?」
「…はぁ、お前分かって言ってるだろ」
数秒、結絆が黙ったと思うと、小さく溜め息をついた。
「あーあ、引っ掛からなかったかー」
青空は少し悔しがった。
しかし、まるで結絆の返答を分かっていたかのような言い方である。
「お前のその手は俺には通用しないこと、良い加減覚えたら?」
「そうだぞ。その攻撃は踊香くらいにしか通じない」
「ちぇっ。釣れないなぁー」
青空はそう言うと、頭の後ろで手を組んだ。
そして、気付けば4人は学園の正門の前まで来ていた。
「あら。意外と早かったわね」
正門に寄りかかる女子生徒は、青空たちを見てそう言った。
「あれ、なよじゃん。どうして正門まで?…あ、そんなにボクに会いたかっ…」
「断じて違う。寮長の仕事」
青空の言葉を途中で遮り、夏良はピシャリと言った。
「ま、そうか」
青空はそう言うと、淡い紺色になった空を見上げた。
細められたその瞳は微かに揺れ、1つの星を捉えていた。
「……ら…空…!…青空!!」
「うおっ…⁈」
「何ボーッとしてるの。置いてくよ?」
いつの間にか、夏良たちは道路の向こうの寮へ走っていた。
「えぇー!待ってよー!」
「じゃあ早く来い」
青空が歩き出すと、4人は一斉に駆け出した。
「もぉ〜、みんな速くなーい?」
「じゃ青空も走ればいいじゃん」
「あ、言ったなぁ?」
そう言うと、青空は全力で駆けて行った。
「あ!青空くん本気だ!」
「マズい、アイツに本気出されると先に寮に着かれる!」
「何?ボクに先着されると何かマズいことがあるの?」
「「「「!!!!」」」」
いつの間にか端に並んだ青空が尋ねた。
「これまでの自分の行為を振り返ろ」
同じく端を走っていた結絆が言った。
「う〜ん、あ!じゃあボクが1番最初に着いたらビリの人と明日の掃除当番交代!」
途端に、全員の瞳に火がついた。
「良いじゃない、じゃアタシが勝たせて貰う!」
「ハッ、乗った!」
「絶対勝たせないよ!」
「仕事は全うしろ!」
全速力で走っているのにも関わらず、全員笑っていた。
もう誰も、勝ち負けなど気にしていなかった。
「残念だけどボク、もう一段階ギア上げられるよ?」
「そんな赤い顔して何言ってんだ」
「それは有都も同じでしょー!」
「あ、見えて来たぞ!」
「よぉーし、まだまだぁ!」
「抜かせるもんなら抜いてみろ!」
「おおおぉおぉおお!!」
茜色に染められた空に向かって、彼らは駆けて行った。
長く伸びたシルエットだけが、忙しなく揺れていた。
一日はまだ終わらない、とでも言いたげにー
二十世学園案内図! 帆高更咲 @hotaka-sarasa
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