第二十八話 白金色に輝く双子龍

 ブラックにレッドのラインが入った、スポーティーなメッシュジャケット姿の青年。

 一見するとツーリングがてらに立ち寄ったような印象だった。「綺麗な色ですね〜」と声を掛けると、一瞬戸惑ったような表情を向けるも「そうですね」と爽やかな返事を返してきてくれる愛嬌のいい好印象の青年だった。

 だが、爽やかな笑顔を浮かべながらも、目の奥に闇を抱えているようなそんな印象も受けた。



「え……!そ、それは……ご愁傷様です」


 何度か言葉をやりとりした後、青年は込み上げるものをグッと堪えるような仕草をしてから言葉を発した。

 つい先日、双子の兄がバイクで事故を起こしてしまい、お亡くなりになられてしまったのだとか。


 ダァ〜〜、フュ、フュ、ヒュ〜〜♪


 ここで僕の頭の中には、とある刑事ドラマのテーマ曲が駆け巡るのだった。

 そして、そのドラマの名シーンがフラッシュバックされる……。


 そのシーンとは自暴自棄になって全てを投げ出したくなった人間が街中でナイフを振り回し、幸せそうにしている人達を次々と切りつけて回った犯人を担当刑事が説教する回だった。


『お前が幸せそうだと思って切りつけた人は3年間不妊治療を続けたが、結果うまくいかず落ち込んでしまった気分を晴らすためにショッピングを楽しんでいた女性と、親の病院を継ぐために5年間も予備校に通い続けている浪人生だったんだぞ。お前だけ不幸を背負い込んで生きているなんて考え、ふざけすぎている』と説教しているシーンだ。



 痴漢冤罪という悲劇が起こってしまった時、僕自身もこのシーンを何度も思い浮かべ「なんで自分だけ不幸なんだ」という考えに至らないようにしていた。


 青年の話を聞いた時、気丈に振る舞っていてもやはり、皆さん多くのことを抱えて生きているんだなーっと思った。


 白フワちゃんに目を向けると興奮した様子でピョンピョン跳ね回っていた。


 ちょっと、不謹慎ではないですか、と冷たい視線を送ると……

「何を言う。その人に神秘現象を見せてあげれば、その人は救われるんだぞ。それに私もエネルギーを吸えて大きく成長することができる。win-winの関係ではないか!」


 そう言われると確かに、そうかも。

 まあ、今回は相手は男だし、ハイタッチするような感じで手を出せはきっと乗ってきてくれるだろう。


「俺の兄貴はずっごい真面目でスポーツも万能で、頭も良くて女の子にも人気で、全てが俺の憧れだったんです」


 その青年は、井上湊斗みなとと名乗った。体格はがっしりしていて高身長だが、顔にはあどけなさが残っている感じで10代か、もしくは二十歳になったばかりとかそれくらいの年齢だろう。


 兄の死後、部屋の片付けをしていた時に兄が書いていた日記を見つけ、そこに書かれていた内容に驚愕してしまったのだとか。


「俺は何をやっても兄貴に勝てなかったんです。なんでもできる兄貴は俺の誇りであり憧れでした。でも、兄貴はずっと自分のことを追いかけてきている、俺のことを脅威に感じていたみたいなんです」


「・・・・。」


 その日記には、お兄さんは湊斗くんの見えないところで努力し、湊斗くんに追いつかれないように必死で頑張っているみたいなことが書いてあったのだとか。


 なるほどねー、兄が弟に負けないように無理しているって話、聞いたことあるかも。


「俺の存在って、兄にとったらどんな感じだったんですかね……」

 湊斗くんの表情からは生気が消え、視点がどこに合っているのかわからないような目をしていた。


 今回の事故も湊斗くんが免許を取ったものだから、バイクの技術を磨こうと思って、ちょっと無理な運転をした結果なのではないのかと思っているらしい。


「俺がいなかったら、兄貴はもっと穏やかな人生を送れていたんじゃないかと思ったら、やりきれなくて……」


 双子って色々大変なんだなー。僕は「元気出せよ」との意味も込め、手を取り、手の甲をポンポンと叩き、口を一文字に結び力強い表情を向ける。


「ありがとうございます」


 よしよし、これくらいのスキンシップなら問題なくできるようだ。



「で?湊斗くんはなんでここに来たの?」


「……それは……変なヤツだと思わないでくださいね」


 その言葉を聞いた瞬間、知っている人なんだろうなって思った。オカルトめいた事を信じていると思われると、変な人と思われる風潮があるのはどこの世界でも変わらないらしい。


「青い池には白金に輝く双頭龍が見れるなんて伝説がありまして、双頭龍なんて双子をイメージさせるものだなーっと思ったので、それ見れたら人生観変わるかなーっと思いまして……」


 気付くと周りにいる人達がざわつき始めていた。競うようにして遮光板を目に当て見上げ始める。


 どうやら始まったみたいだ。


 僕も慌てて遮光板を取り出し、目の上に掲げて太陽を見る。


 !?

 凄い!

 太陽の左下部分が欠け始めてきているところだった。


 日食が始まり40分も過ぎると太陽は三日月くらいにまで範囲を狭め、肉眼でも見ても問題ないくらいの光量になり出す。


 1時間も経つと太陽はほぼ姿を隠してしまい、僅かに輪郭が残る程度となった。辺りに暗闇が広がると暗闇の奥から猛烈なプレッシャーを感じ、全身に鳥肌が駆け巡った。


 現れた!


 肉眼でははっきり見えないが、暗闇の中をうごめいている何かがいる。


 湊斗くんにハイタッチするように手をかざすと軽いノリでハイタッチをするように返してきたので、パチンとなる瞬間に手を握る。


 すると、湊斗くんの体が硬直した。


 表情を覗き込むと目も口も大きく見開き呆然と暗闇の奥を見ているようだった。

 そして、握っている手のひらがジワッと滲んでくる感じになり、ピタッと固まってしまった。


 その表情と反応を見て確信する。

 間違いなく見えている人の反応だろう。


 暗闇の中を蠢く何かは太陽が隠れるにつれ色味を帯び出していく、徐々に輪郭が見えるようになっていくと、尾の先端部分が魚の尾ビレのようになっているようだとわかった。


 人魚のように、イルカが泳ぐ姿のように尾ビレのようなものを、上下になびかせながら空中を旋回しているようだった。


 大きい!

 青い池を遥かに超える大きさなのではないだろうか!


 長い胴体をしているように見えるので龍と言われれば龍に見えなくもない。暗闇よりやや白みを帯びている姿は、白金色だと言われれば白金色に見えるのかもしれない。


 光量が少ないのではっきりとした全体像を見ることはできないが、大きな尾ビレを靡かせ空中を旋回する何かがそこに確実に存在していた。


 太陽が隠れ、1分ほど過ぎると左下のあたりから肉眼では見ていられないほどの光が現れ出す。


 僕は見ていることができず、太陽から目を逸らし湊斗くんの手を離した。


「え?え?、い、今のは、な、なんだったんですか?」


 混乱状態になるのも無理はないだろう。常識的に考えるとあり得ない光景になっていたのだから。


 湊斗くんの両肩を優しくポンポンと叩き落ち着かせ、「今のが伝説の双頭龍だよ」と教えてあげる。と、面食らった表情になってしまった。


 バチンっ!


「痛っ!」

 なんで〜!


「山下隼人よ。何か大事なこと忘れていないか?ここはお前の住んでいた世界ではない。この世界には月は二つあるんだぞ。双頭龍になるのは次だぞ!」


 え?


「ワァァアアアア〜〜っ!」

 周りにいる人達から再び大歓声が上がり、拍手が広がった。


 僕は慌てて遮光板をかざし太陽を見上げると、右上へ黒い影が抜けていくのと同時に左下部分に新たな影が現れ出す。


「山下隼人よ。本当に皆既日食になるのは次だ!」


 え!マジ?


 太陽の影の部分が広くなっていくにつれ、周辺にまた暗闇が広がっていくと再び空中をうごめく何かが現れ出す。


 !!

 再び大きなプレッシャーを感じ全身に鳥肌が広がった。


 僕は再び湊斗くんの手を取った。


 現れたもう一つの蠢くものは、既に存在している蠢くものへと近づいていく。


 パァァアアアアアアアアーーーーー!


 次の瞬間、閃光が暗闇を覆い尽くした。


「ま、まさか、これが……!?」


 二頭の龍は身を寄せ合うと尾ビレを折りたたみ、尾ビレを胸の辺りに持ってきて羽ばたき出した。


 イルカのように尾を上下させなびかせて飛んでいた姿から。首が二つある蝶が舞っているような姿へと変わっていく。


 そして、白金色が一面に広がった。


 ドスンっ!


 !?

 僕と共にその光景を見ていた湊斗くんは腰砕けになってしまう。

 そして、上空を舞っている白金色に輝くものから、目が逸らせなくなってしまっているようだった。


 双頭龍じゃなくて、もしかして、これ、双子龍?って表現した方がいいのでは?


 一頭につき一つずつある大きな翼を、タイミングを合わせているように舞っている姿は、二頭が協力して舞っているように見えた。


 双子だった湊斗くんには僕なんかより、感じるものがきっと大きいのではないか?と思うような姿だった。




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