二十世学園案内図!
帆高更咲
第1話 大胆な告白は委員長の特権
「じゃあ、これ置いとくね」
放課後の会議室に、
同時に、数枚に束ねられた紙が、ほんのり冷たい机に置かれた。
「ありがと。…もう帰るの?」
同じ学級委員として気になり、
普段はギリギリまで仕事を詰めている青空が帰るには珍しい時間だからだ。
「うん。今日は用事あるから」
「了解。じゃあ私は…」
「『これに目を通してから』でしょ?」
夏良の言葉を遮り、青空がニッと笑う。
「全く…お見通しって訳ね」
「そーゆーこと!じゃ、なよも程々にね!」
青空はそう言うと、会議室を後にした。
なよ、って言うなしと内心思うもすぐにその気は消え去る。
夏良がふと机を見ると、150mlのペットボトルを置いてあった。
「本当に…全部見通されてるのね」
夏良はそう呟くと、鞄からペンを取り出し椅子を引いた。
少し鼓動が速くなっていることは、気にしないようにした。
「ふぅ…あと1枚ね」
そして、最後の1枚を
コンコンッと、ノックの音がした。
「青空?あのさ、ちょっとヤバいものが教室に…って夏良ちゃん1人?」
「あら
気まずそうに何かを隠しながら入ってきたのは、クラスメイトの
「……」
蒼は伏目がちに夏良を見つめ、意を決したように口を開いた。
「…あのさ…見間違いだって、違うって、信じたいんだけどさ…」
「何よ、勿体ぶって。どうしたの?」
「実は…」
そう弱々しく言うと、ずっと隠していたビニール袋を取り出した。
カサっと袋が擦れる音の中に、何かカランという音を2人はハッキリ聞いた。
「さっき帰ろうとしたら教室にあって…って夏良ちゃん⁈」
夏良は蒼の言葉を最後まで聞かず、袋を引ったくった。
そして、そのまま机にひっくり返した。
カランカラン…パサッ
中から出てきたものを見て、2人は絶句した。
「…これ、絶対ヤバいよね?」
「…これはヤバいわね」
机の上には、怪しい白い粉が入った袋と空のビール缶が散らかっていた。
「…教室にあったのよね?」
「うん…僕たちのクラスに」
しばらくの間、室内は沈黙が流れていた。
「どっかに捨てられていたの?」
少し冷静さを取り戻したのか、夏良はスマホで写真を撮った。
「いや、空きロッカーに…」
「おい待て、何で空きロッカー覗いた?」
夏良はついツッコんだ。
「扉が少し開いていたんだ。それで、興味本位で覗いたら…」
「これが出てきたって訳ね」
蒼は首を縦に振った。
「どうしよう…」
夏良は小さく呟いた。
同時に、ここに青空が居れば、とも思った。
「…って!そんなこと思ってないし!」
いつまでもアイツに頼ってはいけない、と夏良は激しく首を振った。
そして、この感情がそういうものではない、と頬を叩いた。
「夏良ちゃん⁈と、取り敢えず
蒼は困惑しながら言った。
「現場って…言い方」
「あ、いつもの夏良ちゃんだ」
そして、廊下を歩きながら2人はあれら正体についてあれこれ探っていた。
「百歩譲って、粉は良いわ。…小麦粉とかかもしれないし」
「夏良ちゃん、申し訳ないけどその可能性はゼロに等しいと思うよ」
「ていうか蒼はどうなの?」
「僕としては空き缶の方が気になるな」
「そうよね、どっちも気になる」
そんな風に話していると、いつの間にかもうすぐ教室だった。
「あれ、どこやったのかなぁ…マズいよー…ってわぁ!!」
「えっ⁈」
危うく、曲がり角でぶつかりそうだったところを、夏良はなんとか交わした。
「ごめんね!大丈夫…って
「あれ、なっちゃん!…と帆高じゃん。どうしたの、この時間に」
「私は委員会の仕事で…そういう怜花こそ、どうしたの?」
「え、私⁈私はー…」
相手は、クラスメイトにして友人・
「ちょっと、教室に忘れ物しちゃって…」
まるで隠し事でもするように、怜花はちらちら目を泳がせながら答えた。
「そうだったんだ。あ、片坂さん、ちょっと…」
「ん?どうしたの?」
「あのさ…」
そう言って蒼が怜花に何か尋ねようとした時
「ううん!何でもないの!もう解決したから!」
突然、蒼の前に立って首を振った。
「え、夏良ちゃん⁈」
「何怜花に話そうとしてんの。他の人を巻き込まない!」
コソッと素早く夏良は話した。
「あ、あぁそうだったね!ごめん、片坂さん」
「え、えぇーと…良かったね?」
「ごめんね、私たちもう行くね!」
そう早口で言うと、蒼の手を引っ張り、早足で歩いて行った。
そして、素早く教室へ入って行った。
「どうしよう…あれ失くしたなんて言ったら
と1人焦る怜花の言葉は、気付かずに。
「ふぅ…じゃ、改めて確認しましょう」
「う、うん」
ホッと一息つき、蒼は例のものが入っていたロッカーに近付いた。
「ここにあれが…ん?」
蒼はスッとしゃがんだ。
「蒼?」
続いて夏良もしゃがみ、蒼の視線を追った。
「何だろう、これ…」
よく見ると、ロッカーとロッカーの間に紙が1枚挟まっていた。
シュッと抜き取り、表に返すと
「園芸部のお知らせ…?」
それは、園芸部員に渡されたらしきプリントだった。
「ねえ蒼!ここ!」
夏良は蒼が持っていたプリントの1番下を指差した。
『次回持ってくるもの:空き缶、肥料』
「これって、もしかして…!」
「うん、きっと園芸部で使うものだったんだ!」
蒼と夏良は互いに頷いた。
「…!もしかして、怜花が探してたのって!」
「うん、きっとこれだ!…って、僕、余計なことしちゃったってこと⁈」
「そう、でしょうね…ていうかあの粉肥料だったんだ」
2人が少し項垂れ、黙った直後…
バーン!!
「「⁈」」
突如として、教室の扉が開いた。
「だから、ちゃんと入れたって!」
「とにかく周りを探すしかないだろ…って蒼⁈」
「うわぁ⁈⁈って茶枝園…!」
驚きのあまり尻もちをついてしまった蒼が拍子抜けしたような顔をした。
「そんなに驚いてどうした…?何かしていたのか?」
目が点になった蒼に対し、園芸部部長・
「え⁈…それになっちゃんも⁈どうしてここに⁈」
「れ、怜花…⁈」
さっきすれ違った怜花が現れ、夏良は驚いた。
「…!茶枝園がいるってことは、もしかして園芸関係か?」
蒼がハッとしたように、プリントを見せる。
「あぁそれ、園芸部のプリント。怜花が探してたやつだ」
「え、本当⁈」
怜花がひょこっと蒼の前に現れ、プリントを受け取った。
しかし、その顔は晴れていなかった。
「…あのさなっちゃん、言いにくいんだけど…」
少し目を逸らしながら、怜花は気まずそうに尋ねた。
「もしかして、空きロッカーに入っていた袋?」
「!な、なっちゃーーん!!!」
夏良が答えると怜花は飛びついて来、夏良は一歩引いた。
「そう、それ!!流石なっちゃん!!今日使うものだったの!!」
「やっぱり、そうだったのね…」
「やっぱり?」
怜花が首を傾げ、言い訳は出来ないと悟った夏良は全てを打ち明けた。
「そういうことだったんだー」
「怜花、本当にごめんね!!!」
夏良がパンッと手を合わせると、怜花は良いんだよ〜と笑った。
「あと帆高!余計なお世話!」
「はい、本当にすみませんでした…」
ピッと怜花に指を指され、蒼は項垂れた。
「まあ、怜花も自分のものは自分で管理しよう?」
「そう、よね…分かったわ。…ごめん、キツく言い過ぎた」
馨に諭され、怜花は謝った。
「そう言えば、今どこにあるの?」
「あ、会議室!!」
夏良が思い出したように叫ぶと、全員、一斉に教室を飛び出した。
「ありがとー!」
「ごめんね、勝手に持って行って」
「ううん!良いの!」
そうして怜花たちは会議室を後にした。
「そうだ、夏良ちゃんはもう帰る?」
不意に蒼が尋ねた。
「そうねぇ…あと10分くらいしたら帰っろかな」
「なら、僕はお先に…」
「了解。じゃあ、また明日!」
「うん、また明日」
蒼が会議室の扉を閉めるのを見届け、夏良はひと伸びした。
「さて、ラスト1枚!」
ペンを取り、最後の1枚を捲った。
「…付箋?」
最後の1枚には、綺麗な空色の付箋しか貼られていなかった。
『至急!屋上まで来て!』
「何これ…てかこの字、青空!」
何か意図があるのかは分からなかったが、至急!とあった為、夏良は屋上へ急いだ。
ガチャリと扉を開けると、夏らしい風が入って来た。
「うわ、意外と暑い…ってわ⁈」
突然、誰かに目を覆われ視界が真っ暗になった。
「遅かったねー、なよ」
夏良の背後から良く知っている声が聞こえた。
「青空、ちょっと手離…」
「やだ。このまま前に6歩進んで」
「はぁ⁈」
とは言いつつも、青空の言われた通り6歩前へ歩いた。
「はいじゃーん!」
急に視界がバッと開け、夏良は少し眩しさを感じた。
「…!」
目の前には、橙色の夕陽に彩られた薄雲が広がっていた。
「綺麗でしょ?」
「そうね…凄く綺麗」
パチっと指を鳴らす青空に、夏良は深く頷いた。
「…ボクさ、夏良にずっと言いたかったことがあるんだ」
明るい光に濡羽色の髪を照らしながら、青空がふと夏良を見つめた。
「何…」
夏良は体温が上がるのを感じ、温かくなった耳元を咄嗟に髪で隠した。
「ねぇ夏良…」
「……」
胸の辺りをギュッと抑えながら、夏良は続く言葉を待った。
「ストレス溜めてない?」
「…は?」
夏良は斜め上を突かれたような気分になり、この返答しかすぐに思いつかなかった。
「ほら、最近ずっと学校残ってるじゃん」
「いやそれはそうだけど…」
「なんかピリピリしてるのかなーって」
青空の言葉は、夏良への気遣いそのものだ。
しかし青空は、乙女心をまるで分かっていなさそうな表情をしている。
「確かにここ数日気負いすぎてたかもしれないけど…」
「ここの景色、凄いでしょ?」
「そうね、屋上からこんなに綺麗な景色が見られただなんて、思っていなかった」
「うん、ボクのお気に入りだからね!」
青空は誇らしげに言うと、軽くウインクした。
「ボクはさ、何か背負いすぎてキツくなった時ここに来るんだ」
傾いた陽に黄昏れ、青空は遠くを見つめた。
「そうだったの」
途端に、夏良の中でここへ呼んだ理由が分かった気がした。
「うん。だから、なよにもこの景色を見て欲しかったんだ」
「青空…」
夏良は青空の笑顔を信じ、さっき感じた落胆のような感情に蓋をした。
「ありがとね、青空」
「どういたしまして〜。あ、明日も一緒に見る?」
「そ、それはいい…」
フッと顔を背け、夏良は再び空に目を移した。
さっきまでの明るさはもう半分以上沈み、代わりに頭上には1つの星が瞬いていた。
「ところでさーなよー」
青空の声に夏良は顔を向けたが、青空はそっぽを向いたままだった。
「…裏、見た?」
「え、裏…?何の…」
「付箋」
青空が後ろで腕を組み、若干ぶっきらぼうに答えた。
「何、『屋上来て』以外にもなんか書いてたの?」
「まあ、書いてたよ」
「青空、怒ってる…?」
「別に」
段々と返答が短くなり、声も低くなっていることは青空も分かっていた。
しかし、青空は今までで1番焦りと迷いを感じていたのだ。
「気付かなかったのは、アタシが悪…」
「別に夏良は悪くない」
「…何書いてたのか、教えてくれない?」
「!!」
裏に書いた理由を聞かれることを、今青空は1番不安になっていたのである。
今の青空の心中は、察するまでもない。
「……ッ」
「青空…?」
片手で頭を抑える青空を、夏良は心配し触れようとした。
「ッ!し、資料は…」
夏良の手をギリギリで避け、青空は続けた。
「裏まで見るものでしょ⁈」
「はい⁈」
夏良が止める間もなく、青空は走って行ってしまった。
「何…どういうこと…?」
1人残された夏良は困惑でいっぱいだった。
「はぁ…結局、何がしたかったんだ…?」
モヤモヤとした気分のまま、もう帰ろうと机の資料を手に取った。
『資料は裏まで見るものでしょ⁈』
先程の会話が頭をよぎり、最後の紙に貼られた付箋を剥がした。
お遊びや悪戯では無く、本気で何かをしようとしていた。
それだけは、夏良にも分かった。
ペリッと水色のそれを剥がし、裏に書かれたものを見て、夏良は言葉が出なかった。
「……は…?」
全身を巡る血の速度の上昇を感じ、すぐに付箋を表に戻した。
「…何…なんで…どうして…!」
鞄に入れてもなお、鼓動は収まるどころかどんどん速くなって行った。
一方その頃ー
「あーーー!!!!!」
「急に騒ぐな」
「まあ察してあげようよ」
「変な気遣いは要らない」
「何だと⁈」
只今、帰って来るなり発狂した青空に驚いた
因みに、当の青空はずっとベッドにうずくまっている。
「青空ぁ…元気出せよー。ほら、お菓子あるから」
なんとか場の雰囲気を良くしようと、一己が青空に声をかける。
「驚いた。意外と
対照的に、結絆は思ったことをそのまま言った。
「結絆…多分今ので青空もっと口きかなくなったぞ」
間に挟まれ、暦が気まずそうに言った。
因みに、青空・一己と〈片思い同盟〉を組んでいる。
「君たち何しに来たの?」
ずっと不貞腐れている青空が気怠そうに友人たちを見た。
「青空を慰めに来た」
「とても慰めに来たとは思えないんだけど?」
普段より不機嫌なこともあり、青空の当たりは強くなっている。
「大体お前分かりにくいんだよ。普通人が見ないようなとこにメッセージ書くとか」
「んー…ちょっと同意。もうちょっと素直になれば…」
「「未だ
一己を途中で遮り、青空と結絆は言った。
「ウッ…!ってか何で結絆まで⁈」
「事実だからだろ」
暦にもハッキリ言われ、一己は撃沈した。
「もうさ、1人にしてくんない?」
不機嫌度がMAXになったのか、青空は壁に向かって言った。
「…そう、だよな。ごめん」
一己はそう言うと、帰るかーと他2人を扉へ促した。
「青空」
「何」
最後に部屋を出ようとした結絆が青空を呼び止めた。
「夏良ちゃんなら、分かってくれると思う。だって…」
「もう良いよ。自分で何とかする」
「そぅ…じゃ、頑張れよ」
結絆はそれだけ言い、部屋を後にした。
1人残った青空は、ベッドを降り窓を開けた。
静かな紺青の瞳は、涼やかな風を受けた後天上に瞬くひとつの星を見つめた。
そして同じ時間…
「はぁ…」
付箋を握り、夏良は明日何を話せば良いのか、1人悩んでいた。
「はぁ…あ」
顔を上げ、ふと窓の方を見ると、明るいひとつの星が目に留まった。
花色の純粋な瞳は、その星に何か勇気を貰えたような気がした。
そして、2人は同じ決意をした。
ジリリリリッ!
いつもより早くセットした目覚まし時計が鳴る。
夢現な意識が段々とクリアになって行く。
不安を抱えながら、制服に袖を通す。
根拠のない、でも確かな期待を胸に靴を履く。
門を潜り、より気持ちが昂って来る。
急いで廊下を走り、鼓動が速くなる。
仄かに暖かい扉を開き、晴れやかな明るい空へ飛び出す。
音の先に、彼がいた。
瞳の先に、彼女がいた。
「青空…遅かったじゃない」
「夏良…やっぱり居たんだ」
「あら、アタシがいたら邪魔だった…⁈」
平静を装っていたが、急に青空の顔が近づき、夏良は言葉を続ける余裕を失った。
「ううん…居てくれて良かった」
そう言って、夏良の髪を軽く梳く青空の声は優しかった。
「なんか言うことないの…」
暫くお互い黙っていたが、ふいに夏良が口を開いた。
「…昨日はごめん、言葉足らずで」
「…良いのよ」
口では許したものの、付箋の裏のメッセージが頭から離れなかった。
「あ、それ…」
こっそり手に握っていたそれは、目敏い青空にすぐ見つかった。
「…読んだ?」
「読んだからここに来たんだけど」
「ま、そっか」
そして再び、沈黙が流れた。
夏良はもう一度手の中を見、真っ直ぐ青空を見つめた。
青空は眩しい快晴の空を見、真っ直ぐ夏良を見つめた。
「夏良…本当のこと、言って良い?」
「…良いけど」
両者の瞳が、それぞれ紺青と花色に写った時
「アタシは、ずっと前から青空のことが好きだった…!」
「⁈」
青空が何か話そうとする前に、夏良は自分の気持ちを言葉にした。
「な、夏良…⁈⁈」
「嘘じゃない、アタシは今も青空が好きだ!!」
今自分がどう見られているかだなんて気にしない、とばかりに夏良は叫んだ。
「これからも、ずっと!!!」
全てを吐き出し、ふぅと一息ついて夏良は青空を見つめた。
「ッ…!」
対して青空は、右手で咄嗟に顔を隠した。
しかし、髪の間から見えた耳は真紅に染まっていた。
その姿を見ると、夏良も頬が火照るのを感じた。
「だから…返事、聞かせて欲しい」
それでもジッと青空を見つめ、尋ねた。
暫く静かだったが、爽やかな風がスゥと靡くと同時に、青空が手を下げた。
「これじゃ、ボクの立場ないじゃん…」
そう小さな呟きが聞こえたと思った次の瞬間
「ボクの覚悟、返してよ」
耳元でそんな囁きが聞こえ、夏良は心臓が跳ね上がるのを感じた。
気がつくと目の前には青空の顔があり、紺青の両目には夏良の顔が映っていた。
少しして、自分の背中が締められているような感覚を覚えた。
「せ…青空?何して…」
「ボクの折角の覚悟を取った夏良へのお仕置き兼ご褒美」
「何それ…」
「嫌?」
「んな訳ない」
「ま、分かってたけど」
青空がより夏良を強く抱き締め、夏良も青空の背中に手を回す。
「敵わないな…」
夏良はそう小さく呟いた。
夏良の手の中には、まだあの付箋が貼られていた。
それはしっかり青空の背に当てられ、少しの風に揺れることも無かった。
そして、暫くはこの温もりに包まれていたいと思った。
雲ひとつない青天に照らされ、2人は静かに抱き合った。
今日の空のように、澄み切った想いに結ばれてー
後日談
「それじゃー!青空の告白成功を祝って!」
「乾杯!!」
青空が告白を成功させたことは、瞬く間に友人たちに広まった。
「成功したんだな」
「良かったな!!」
結絆や一己はその夜、部屋に待ち構えて祝った。
「じゃあこの同盟からは脱退するね」
いつもの調子に戻った青空は、しれっと脱退宣言をかました。
「おいそれは待ってくれ」
手に持ったコップを落としそうになりながら、暦が止めた。
「お願いします青空様、元片思い同盟仲間として、告白の必勝方を教えて下さい!」
恋愛に対して消極的で未だ片思い中の一己がパンと手を合わせた。
「人に頼ってる時点でアウト」
「身も蓋もない!!!」
笑顔であっさり否定され、一己はそこを何とか〜と縋った。
「んーじゃあ、もっと身長伸ばす!」
「…頑張れ、一己」
「ガンバ」
「ウゥ…オレ、明日から筋トレでもして頑張るわ」
暦や結絆に励まされつつも、一己はいつもの調子に戻った。
「明日からは絶対やんないな」
「うるせー!」
飄々とする青空に一己はとっかかろうとした。
「そう言う青空はずっとそのままで良いのか?」
ふと、高身長の結絆がそんなことを聞いた。
「そう言えば確かに。青空、164cm…」
「うんちょっと黙れ」
「痛ッッッ!」
ピーンッとデコピンを喰らわされた暦はその場に縮こまった。
「で、本当にそのままで良いのか?」
「うん、このままで良いかな」
予想外の回答だったのか、結絆は心底驚いた。
「え、意外」
「青空、『170超えたい!』とか普通に言いそうだし」
結絆に連られ、一己も驚いたような表情をした。
「前はそう思ってたけどね」
「あ、やっぱそうなんだ」
「マジで言わせてもらうけど、青空、本気出せば目指せると思う」
「それはどーも」
青空は特に
「でもボク、このままがいいな」
それでも意思は変わらない、と言ったような固い瞳で結絆たちを見つめた。
「だって、この身長だと夏良と視線同じだから…」
そこまで言って急に恥ずかしくなったのか、頬を腕に埋めた。
「…ひゅー」
そう口笛を吹いた一己がデコピンを喰らわされるまで、あと2秒も無かった。
「ところでさ、あの付箋に何書いていたの?」
床にうつ伏せになる一己を摩りながら結絆が尋ねた。
「そう言えば、結絆の案だったね。その節はありがとうございました」
青空は軽く会釈をし、ちょいちょいと手招きした。
「……って」
「…そうか」
「何だって…⁈」
結絆の耳元で青空が囁くところを見た暦は興味津々に尋ねた。
余談だが、暦も告白へ踏み出せていない。
「えーひ・み・つ!」
そう言う青空の耳が仄かに赤く染まり掛けているのを結絆は見た。
「そりゃ、大きな声じゃ言えないな…」
質問攻めにする暦とはぐらかそうとする青空を見つめ、結絆は呟いた。
そして、頭の中で先程青空が教えてくれた言葉が再生された。
後日談その2
「なっちゃん良かったねぇー!!!」
「もう怜花、くっつきすぎよ。でも、ありがとう」
夏良の部屋でも同じように、怜花や愛、
「良いね〜青春だ〜!」
はわぁ〜と目をキラキラさせて愛が手を合わせた。
「ほんっと。昨日あんなに照れてたのに」
夏良から相談を受けた真理恵が染み染みと言った。
「ちょっと真理恵!それは言わないでって…!」
「それを言っちゃうのは人間のお約束でしょ?」
怜花が悪戯っぽく囁いた。
「じゃ、そういうことにして置きますか」
夏良はそう言い、怜花に向けてフッと笑った。
「にしても屋上で告白だなんて、青空くんもロマンチックなことするね〜」
愛が手を合わせたまま微笑んだ。
「うんうん。まさかアイツがそんな乙女なこと考えてるだなんて」
怜花も青空の意外な考えに驚いていた。
因みに怜花は青空と同じ小学校に通っていた為、アイツ呼びしている。
「怜花。それ以上言わない」
「はぁーい」
真理恵がそう止めると、怜花は青空のことを口にしなくなった。
「ねぇねぇ夏良ちゃん。青空くんになんて言われたの?」
遂には頬を薄桃色に染めて、愛が興味津々に尋ねた。
因みに、一己に好意を抱かれていることを知らない。
「そ、それは…」
スゥーっと視線を外し、夏良は目を背けた。
「飛乃くん、本当になんてこと言ったのかしら」
「なっちゃんがあんな風になるなんて…!」
「罪な男…ね?」
「愛、それはちょっと色々違うかも」
ヒソヒソと囁き合った女子たちは、1つの案を思いついた。
「じゃ、夏良」
真理恵が夏良の側に行き、爽やかな声でその提案をした。
「ちょっと…口に出すだけでも恥ずい…かも」
「あら」
耳元でこっそり教えて貰う作戦が破綻し、真理恵がうーんと悩んでいると
「ねぇなっちゃん、これ何…」
怜花が机の上に置いていたクリアファイルを指し、尋ねた。
「そ、それは…!」
それには、青空の言葉が書かれた付箋が挟まれてあった。
夏良の少しの焦りを、友人たちは見逃さなかった。
「夏良ちゃん、見ても大丈夫?」
愛が若干不安そうに尋ねたが、夏良はすぐ首を縦に振った。
そして、3人は机を囲み、暫くそれを見つめていた。
「飛乃くん…大胆ね」
「紙に書いてるけどこれ殆ど告白じゃん」
「青空くん、ロマンチスト…」
「うん」
「うわ、夏ちゃん!」
「そんな驚かなくても。でも青空、結構可愛いとこあるんだなって…」
いつの間にか3人の間に入って見つめていた夏良がそう言った。
「何度見ても心弾む…と」
「…」
怜花に真意を突かれ、夏良は閉口した。
そして、ファイル越しに付箋をそっと触った。
「大事にしなさいね」
「うんうん」
真理恵と愛がジッと夏良を見つめた。
「当たり前よ」
真剣な瞳を少しも揺らさず即答した。
光に照らせれた付箋は、いつまでもずっと光っているように見えていた。
『夏良が良ければ、好きって言わせて』
二十世学園案内図! 帆高更咲 @hotaka-sarasa
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