第21話 ゴブリンが店員募集してきた件

(職業差別がなくなった社会は、ちょっと混沌としている)


王都の掲示板前。

レイがふと手に取ったのは、やや皺くちゃの一枚の紙だった。


【レイ】「……求人票?」


【トト】「“スタッフ急募!未経験歓迎!”……って、あれ? 店主、ゴブリンじゃん」


【レイ】「いやいやいや、未経験よりもまず“種族不問”の表記必要じゃない?」


【トト】「大丈夫、最近の求人って“多様性重視”って書いておけばだいたい通る」


【レイ】「異世界の雇用もだいぶ現代社会に追いついてきたな……」


 



というわけで、気になって現地へ。

案内された雑貨屋は、驚くほど“ふつう”だった。


棚は整ってる。清掃も完璧。客層は広め。

ただひとつ違うのは――店主が完全に、ゴブリン。


【ゴブリン店長】「いらっしゃいませ〜。求人票、ご覧になったんですね?」


【レイ】「……その発音の丁寧さ、だいぶギャップすごいですね」


【トト】「“いらっしゃいませ”が“威嚇”に聞こえないゴブリン、初めて見た」


 


【ゴブリン店長】「最近、仲間も皆“第二の人生”に興味持ち始めましてね」


【レイ】「第二の人生、っていうか……第一が強奪だった場合、もはや転職じゃなくて転生では?」


【トト】「やり直しの幅が広すぎるのよ」


【ゴブリン店長】「ちなみに今の採用条件は“怒鳴らない、殴らない、最低限の敬語が使える”です」


【レイ】「ブラック企業の改善基準みたいになってる……」


【トト】「“普通に働けるやつ募集中”って一番ハードル高いやつ」


 



【レイ】「ちなみに、どうして雑貨屋を?」


【ゴブリン店長】「最初は“村を襲うのが面倒になった”のがきっかけでして」


【トト】「スタートが怠惰」


【ゴブリン店長】「でも“交渉って楽しい”って気づいたら、気づけばレジに立ってました」


【レイ】「それはたぶん“正しい変化”だけど、経路に問題がある」


【トト】「あとで密着取材きそう。“元・盗賊がレジ打ちしてみた”」


 



半日だけ働いてみると、意外と快適。

先輩ゴブリンは面倒見がよく、まかない付き。レジの音も心地よい。


ただ、休憩中の話題が少しだけズレていた。


【先輩ゴブリン】「昨日のお客、返品対応でゴネてたんスよ〜。“返せないって言ったら、店燃やすぞ”って」


【レイ】「えっ、それ普通のクレームじゃないよね!?」


【トト】「“客の質”まで元盗賊かよ……!」


 


【先輩ゴブリン】「でもまぁ、昔よりはマシっス。

前なんて“商品持って帰ってそのまま家まで燃やす”ってのが通常営業だったんで」


【レイ】「なにそれ、火事と返品がセットなの?」


【トト】「Amazonより業務改善の余地ありすぎる」


 



【レイ】「……でも、なんかいいな。“変わりたい”って言えるのって、勇気いるし」


【トト】「てかゴブリンの再就職のほうが、わたしより安定してる説ある」


【レイ】「精霊が言っちゃいけないことランキング1位来たな」


 


帰り際、ゴブリン店長が笑顔で言った。


【ゴブリン店長】「またいつでもどうぞ。働き方は自由です。

……たまに“昔の血”が騒いで商品に罠仕掛けちゃうことありますけど」


【レイ】「それは働き方の自由じゃなくて、もはや職場環境の不備ですからね!?」


 


今日のまとめ:

“誰かに見限られた人生”も、働くことでまた回り始める。

たとえ、元・強盗団でも。


【トト】「わたしも再出発しようかな。“うるさい精霊やめて、沈黙系キャラ目指す”」


【レイ】「いや絶対一日も持たない」


次回 、第22話「不死鳥よりニワトリが売れる理由」

伝説より朝の目覚ましが求められる時代。鳴かぬ不死鳥、営業の壁にぶつかる!

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旅する商人は今日も世界を救わない 影楽 @NanashiK4gura

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