第21話 ゴブリンが店員募集してきた件
(職業差別がなくなった社会は、ちょっと混沌としている)
王都の掲示板前。
レイがふと手に取ったのは、やや皺くちゃの一枚の紙だった。
【レイ】「……求人票?」
【トト】「“スタッフ急募!未経験歓迎!”……って、あれ? 店主、ゴブリンじゃん」
【レイ】「いやいやいや、未経験よりもまず“種族不問”の表記必要じゃない?」
【トト】「大丈夫、最近の求人って“多様性重視”って書いておけばだいたい通る」
【レイ】「異世界の雇用もだいぶ現代社会に追いついてきたな……」
◆
というわけで、気になって現地へ。
案内された雑貨屋は、驚くほど“ふつう”だった。
棚は整ってる。清掃も完璧。客層は広め。
ただひとつ違うのは――店主が完全に、ゴブリン。
【ゴブリン店長】「いらっしゃいませ〜。求人票、ご覧になったんですね?」
【レイ】「……その発音の丁寧さ、だいぶギャップすごいですね」
【トト】「“いらっしゃいませ”が“威嚇”に聞こえないゴブリン、初めて見た」
【ゴブリン店長】「最近、仲間も皆“第二の人生”に興味持ち始めましてね」
【レイ】「第二の人生、っていうか……第一が強奪だった場合、もはや転職じゃなくて転生では?」
【トト】「やり直しの幅が広すぎるのよ」
【ゴブリン店長】「ちなみに今の採用条件は“怒鳴らない、殴らない、最低限の敬語が使える”です」
【レイ】「ブラック企業の改善基準みたいになってる……」
【トト】「“普通に働けるやつ募集中”って一番ハードル高いやつ」
◆
【レイ】「ちなみに、どうして雑貨屋を?」
【ゴブリン店長】「最初は“村を襲うのが面倒になった”のがきっかけでして」
【トト】「スタートが怠惰」
【ゴブリン店長】「でも“交渉って楽しい”って気づいたら、気づけばレジに立ってました」
【レイ】「それはたぶん“正しい変化”だけど、経路に問題がある」
【トト】「あとで密着取材きそう。“元・盗賊がレジ打ちしてみた”」
◆
半日だけ働いてみると、意外と快適。
先輩ゴブリンは面倒見がよく、まかない付き。レジの音も心地よい。
ただ、休憩中の話題が少しだけズレていた。
【先輩ゴブリン】「昨日のお客、返品対応でゴネてたんスよ〜。“返せないって言ったら、店燃やすぞ”って」
【レイ】「えっ、それ普通のクレームじゃないよね!?」
【トト】「“客の質”まで元盗賊かよ……!」
【先輩ゴブリン】「でもまぁ、昔よりはマシっス。
前なんて“商品持って帰ってそのまま家まで燃やす”ってのが通常営業だったんで」
【レイ】「なにそれ、火事と返品がセットなの?」
【トト】「Amazonより業務改善の余地ありすぎる」
◆
【レイ】「……でも、なんかいいな。“変わりたい”って言えるのって、勇気いるし」
【トト】「てかゴブリンの再就職のほうが、わたしより安定してる説ある」
【レイ】「精霊が言っちゃいけないことランキング1位来たな」
帰り際、ゴブリン店長が笑顔で言った。
【ゴブリン店長】「またいつでもどうぞ。働き方は自由です。
……たまに“昔の血”が騒いで商品に罠仕掛けちゃうことありますけど」
【レイ】「それは働き方の自由じゃなくて、もはや職場環境の不備ですからね!?」
◆
今日のまとめ:
“誰かに見限られた人生”も、働くことでまた回り始める。
たとえ、元・強盗団でも。
【トト】「わたしも再出発しようかな。“うるさい精霊やめて、沈黙系キャラ目指す”」
【レイ】「いや絶対一日も持たない」
次回 、第22話「不死鳥よりニワトリが売れる理由」
伝説より朝の目覚ましが求められる時代。鳴かぬ不死鳥、営業の壁にぶつかる!
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旅する商人は今日も世界を救わない 影楽 @NanashiK4gura
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