輪廻転生勇者

亥ノ一番

第1話【強くてニューゲーム】

 広大な大地、どこまでも果てしなく続く青空。風が緑の匂いを運び、青々と生い茂った草木が揺れる。深々と根を張る大木からは木漏れ日が降り注ぎ、その足元では新たな生命が芽吹き始める。

 そんな心地のいい景色──そして血の匂い。


「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!?」


 全身の筋肉が引きちぎられるような強烈な痛みを感じて自分でも驚く程大きな声と共に跳ねる様に起き上がった。


「なッ……は???ここどこ?ってうわ!?何これ血まみれじゃん」


 広大な草原でぽつんと一人、何事かと周囲を見渡す。服に血が滲んで赤黒くなっている。しかしどこか怪我をしているわけだはなさそうだ。……それにしてもこんな服持っていただろうか。


 服が血でベタついて気持ちが悪い、どこかで洗い流せないかと行くアテもなく辺りを散策してみる。

 それにしても辺りは草木が生い茂るばかりで人が生活している気配が全くしない。植物は多いが地面が平坦な事を考えると山や谷ではなくここは草原だろう。


                 【】


 瀬尾鷹臣セオタカオミは一般的なオタク大学生であった。特に目的もなく大学に通い適度に授業をこなしながら夜な夜なゲームに明け暮れる日々を送っていた。

 

彼の座右の銘は『無知の知』である。

 本来の意味は古代ギリシャの哲学者であるソクラテスが提唱した「自分の無知を自覚することが真の知に至る道であること」というものである。

 この努力した人間が更にその先に行くための矜持を、彼は「無知であることを自覚している人間はただ無知の人間よりも状況を把握できている分マシ」という下向きな独自解釈を加え、あろうことか努力をしない建て前として使っていた。

 

 そんな卑屈な彼だが、昔は徒競走でもテストでもゲームでも何でも一番になりたい負けず嫌いな少年だった。しかし歳を重ねる内に一番になれなくなった、一度肥大化した負けん気が砕けた時、彼の中の情熱は尽く抜け落ちていった。要するに『努力するのが怖くなっちゃった人』である。

 

 彼の死因は交通事故である、雨の日にスリップした車に轢かれるという不慮の事故に巻き込まれ一九年の人生に幕を下ろした。


 すでに死んでいるわけだが走馬灯のように自分の記憶を振り返り確認する。


「そうだ、僕は死んだんだった、ってことはここは天国か?……いや、まさか!これは!異世界転生だーッ!?」


 喜びと困惑といったところだろうか、自分でも能天気な受け取り方だと思う。一度は死んだわけで家族や友人のことを思うと寂しい気持ちもある。しかし散々物語にあこがれてきた身としてはこの状況にワクワクが止まらない。

 チート能力で無双して、異世界美少女にチヤホヤされて、それから……記憶にある異世界転生モノと自分を重ねて、妄想が止まらなくなり口元がフニャリと緩む。


「そうと決まればまずやるべき事は現状の把握と今後の方針といったところか」 


 そんなことを考えながら歩いていると川辺を見つけすぐさま駆け寄る。

 水面には生前の自分とは似ても似つかない顔立ちのハッキリした凛々しい少年が写っていた。チュニックの様な丈の長い黒のトップスに厚手で白いボトムス、足元はレトロなブーツという、いかにもな異世界スタイルである。この服装から見て剣や魔法のファンタジー世界なのは間違いないだろう。


「それにしてもこれは他人の身体に異世界転生したのか、まあそういうパターンもあるか」


 オタクは数多の物語を見てきたのだ、こういう事の理解は早い。

 一通り服と身体についた血を川で洗い流す。上の服は特に血まみれなので脱いで洗い草はらで天日干しにする。

 身体を洗うついでにこの身体の情報を持ち物から得られないかと確かめてみたが、見つかったのは首に下げていたペンダントのみであった。


「なんでこんな何も無い草原で持ち物がこれだけなんだよ……」


 ペンダントには青く半透明で中心部には文字のようなものが入った宝石がついている。

 特に他にやることもなく陽の光に透かして模様を見ていると、突然内側の模様が強い光を放ち始めた。     光は次第に強くなり宝石が砕け散る。

 中から光の玉が現れ、近くにいた手のひらサイズの可愛らしい純白の小鳥の中に入っていった。すると光の玉が入った小鳥の目が青く変色して突然大声で話しだした。

  

「ふはははは!俺様の封印を解くとは迂闊だったなラヴィオット!!……ってなんだこの身体はあああ!!??」


 ラヴィオットというのはこの身体の本来の持ち主の名前だろうか。それにしても「俺様」とは、やたら態度のでかいマスコットキャラが誕生してしまった。


「いや、貴様勇者ではないな?普通の人間ではわからないだろうが俺様ほどの魔力の持ち主なら確かにわかるぞ、奴の身体に別の魂が入っているな」


「よくわかったな、それで困ってるんだけど僕が誰か知らない?」


「何だか図々しいやつだな、まあいい、お前はラヴィオット・ハルト、我が宿敵勇者だ」


「やはり出てきたな勇者と魔法、ということは魔王とかいるんじゃないの?」


「魔王だあ?そんなものはどうだっていい!このウィウィ様の名前だけ覚えていろニセ勇者」


「ニセ勇者ってひどいな、あとそれと……」


質問を続けようとするとウィウィが割って入るようにその小さな嘴を開いた。


「お前に一つだけアドバイスをくれてやる──勇者だと他人には言うな」


そう言うとウィウィ様(in小鳥)はパタパタと飛び去っていった。


「え?ちょっと?人里がどこにあるか教えてよ!?ねえ!どっちに行けばいいかだけでいいから!!ちょっとおぉぉ!!」



魂/瀬尾鷹臣 肉体/ラヴィオット・ハルト 

波乱の異世界転生生活始まりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

輪廻転生勇者 亥ノ一番 @tyap

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る