第14話 自由を得るために

 年月が経つのは早い。

 国の実情を見て回り、改正に必要な情報を集めているうちに時は過ぎ、気付けばアクトは9歳になっていた。


 部屋の中から外を眺めながら、アクトは悩む。

 

「まだ9歳。だが、残された時間もあと9年……」

 

 早く、自由に外へ出られるようになりたい。

 今のままでは大々的に行動する事ができない。

 助けられる人は沢山居るのに動く事のできないもどかしさが焦燥感を深めていた。

 

「どうするべきか……」

 

 マティスやセルジュは茶会などで外に行く機会が有るようだが、自由に外へ行く時間なんて無さそうだ。

 アクトも、城で開かれるパーティや茶会に出る事こそ増えたが外に行く機会なんてものは無い。

 

 悩んでいると、扉が勢い良く開かれた。

 

「アクト! アクトアクトアクト! 大変だよぉ! 早く早く着いてきて!」

 

 扉を開けたのはイデアル。

 普段の余裕に満ちた様子は無く、焦った様子である。

 

 ――連れていかれた場所は城の神事にまつわる部屋だ。

 儀式の間とは少し違う。

 

 神の声を聞くことを目的とした部屋だ。

 

 ヴァルンドールはアクトに時々話しかけるが、それは基本的にありえない事。

 転生という有り得ない事を経験した直後だったために思わず受け入れてしまったが……。

 

 閑話休題。

 

 部屋に入ると顔を真っ青にした司祭が立ちすくんでいた。


「これは……なんという……」

 

 わなわなと唇を震わせ、アクトを見やる。

 

「あぁ……やはりそうでございます」

 

 話が見えてこない。

 アクトに関する何か、予言でも聞いただろうか。

 

「やっぱり僕が聞いたのと同じなんだぁ?」

「えぇ……えぇ」

 

 二人で何やら話しているが、何が何だか、だ。

 

「あ……アクト様。あなたは……18のお歳までに皇帝にならなければ――」

 

 司祭が何を言おうとしているのか、理解した。

 既に知っていた事。

 受け入れていた事だが、そうか。彼らは今まで知らなかった。

 今知ったならこんな反応になってもおかしくない。

 

「死ぬのだろう?」

「っ……! その、通りでございます」

 

 言葉を紡ぎ出せずに居る司祭に代わって答えを言う。

 司祭は膝から崩れ落ち、項垂れた。

 

「アクト、知ってたの?」

 

 イデアルが驚いたようにアクトを見ている。

 アクトはただゆっくりと頷いた。

 

「今よりずっと幼い頃から、自然と悟っていました」

「……」

 

 もし、今ここでイデアルがいずれ皇位を譲ると言えば。

 嘘でもそうやって言える人であれば、きっとこの国は今のように悲惨な状況にはなっていないだろう。

 

「……アクト、えっと……やりたい事は? なんでもさせてあげる! パパがなんでも叶えてあげる! あと9年、楽しく生きられるように何でもしてあげるから、言ってごらん」

 

 イデアルは既に、アクトが9年後に死ぬものとして考え始めている。

 それが当たり前だと。

 

 チラりと司祭を見る。

 

 恐らく司祭は予言の意味を理解している。

 今の皇帝に任せてはおけないから、別の者に皇位を譲れ。神の意思はそこにあるのだと理解している。

 

 だが、イデアルに、現皇帝に、そんな事を言う勇気は無い。

 間違いなく首が飛ぶからだ。

 

 彼を責める気は無い。

 

 イデアルの選択がなんであれ、アクトがとるべき行動はただ一つ。

 

「私は、城の外を自由に見て回りたいです」

「えっ」

 

 意外だっただろう。

 イデアルにとって、城の外なんて価値の無い場所だろうから。

 

「民と触れ合い、国を見て、私の生きた世界がどのような場所なのか、知りたいと思います」

「ほ、他には?」

「見て学んで、それから考えさせてください」

 

 真っ直ぐに、イデアルの目を見つめる。

 

「っ……分かったよ、いつでも自由に外に出られるようにする。どこにでも行けるようにする。護衛は着けるけど、目立たないように遠くから見張ってもらう。これで良い?」

「えぇ。ありがとうございます」

 

 アクトが頷く。

 

 運命は、変わり始めている。

 

 最初に向かう場所は決めてある。

 

 イーザリル鉱山。

 

 交易の要である鉱山の、そこで働く人々の暮らしを改善する事。

 

 国を良くするための最初の一歩はここからだ。

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救国の魔王〜処刑された勇者が魔王と呼ばれるに至るまで〜 空花 星潔-くらげ せいけつ- @soutomesizuku

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