財閥令嬢専属執事〜荒川刄執の弟子〜

呉根 詩門

久菱更紗を崇める者たち!?

 久遠琢磨は人見知りだ。


 特に好きな人を目の前にすると顔が真っ赤になり、頭から蒸気が上がるんじゃないかと思うくらい興奮する。


 そんな、彼には想い人がいる!


 その人こそ! 久菱財閥令嬢 久菱更紗!


 彼女を一目見た久遠青年は、それまでとこれからの世界がガラッと変わってしまった。


 今までの彼は、普通にネトゲーをしたりライトノベル……特に猫地ねぢのぶっ飛んだ作品を読むことが好きなごくごく普通の男子高校生だった。


 その様な彼は毎朝更紗の屋敷の前に隠れては、学校に登校する彼女の御尊顔をスマホの写真に収める事が日課になってしまった。


 何故、彼はこの様なストーカー紛いに変貌してしまったのか?


 これには深いワケがある。


 久遠青年は人見知りであるとも同時に隠キャ、ボッチで友達が誰もいなかった。


 毎朝、学校に登校しても誰も


「おはよう!」


 と言ってくれる人はおらず、いつも無言で教室へと向かい、黙って独り机につき、ひどい時は何も言葉を発することがない日さえもある始末だった。


 そんなジメジメした陰湿な彼に転機が訪れる。


 とある春の朝。


 久遠青年は学校の昇降口で靴を脱ごうと屈んでいると、背後から


「おはよう」


 と声が聞こえて来た。


 もちろん久遠青年は自分の事ではないと思うが、一応周りを見渡すが……


 誰もいない!?


 久遠青年は驚きを隠さず声の主を見ると、彼は人生最大の衝撃を受けた!


 まさに絶世の美女がいる!


 軽くウェーブのかかった艶のある髪。


 透き通った白い肌と整った顔立ち。


 まさに猫地ねぢのライトノベルのヒロインを具現化した容姿に久遠青年は夢を見ているのかと疑ってしまった。


 久遠青年は、軽く頭を下げるとその美女は、穏やかな微笑みを浮かべながら久遠青年の前を歩いて行った。


 その彼女の残り香に久遠青年は身も心も完全に彼女の虜になってしまった!


 その後からは久遠青年は頑張った。


 頼る友達も先生のツテのない彼は、地道に情報を集めた。


 そして、幾ばくかの時を得て調べた彼は彼女が久菱財閥令嬢 久菱更紗であるとわかった時絶望した。


 あまりにも高嶺の花であるとわかったからだ。


 それでも彼の頭の中には更紗の


「おはよう」


 がしっかりと焼き付いていた。


 それはもう彼には呪いの様に彼女を追うことになった。


 久遠青年は更紗が登校する前に屋敷の前に待機をして写真を収め、誰もいなくなった教室では更紗の机や椅子に彼女の温もりの残滓を頬擦りしては悦に浸り、机の中に盗聴器などをしかけては彼女の事をもっと知ろうと努力した。


 そんな久遠青年に突然危機が訪れる。


 放課後誰もいないはずの教室で久遠青年は、更紗の椅子を舐め回していると背後から首筋にナイフを当てがわれた。


「小僧! お前の様な下賎な輩がそんな事を許されると思っているのか?!」


 久遠青年は驚いて声の主を誰かと振り向くと、毎日更紗の送り迎えをしている執事ではないか!


「ど……どうして、ここに?!」


 執事はまさに鬼の形相だった。そして、今にも久遠青年を殺す様な怒気を含めた声で


「私は久菱財閥令嬢専属執事! 貴様のような輩からお嬢様を守るために生きている!」


 久遠青年の頭の中は混乱しながらも、どもりつつ執事へ


「そ、それじゃ……さ、更紗さんとずっとそばにいて、ま、守っているんですか?」


 と、問と。


「もちろんだ! 24時間休みなくお守りしている!」


 その時! 久遠青年に天啓が降りた!


「そ、それでは! 僕を弟子にしてください!!」


 執事は久遠青年の意外な言葉に動揺を隠せない様だった。


 それも、一瞬のこと、すぐにドスの効いた声で


「私はプロフェッショナルだ! お前の様なアマチュアにはムリだ!」


 久遠青年は当てがわれたナイフを気に留める事なく執事に縋りつくと


「ぼ、僕も更紗さ……お、お嬢様を、お、お守りしたいです!」


 必死になって訴えると、執事は目を細めると


「それでは、どれだけお嬢様をお慕いしているか、証拠を出せば考える!」


 と突き放す様に言うと。久遠青年はスマホを取り出して、お嬢様の毎朝の写真を執事に見せると


「こ、これではどうですか? そ、それがダメなら、し、写真以外にもこれなんかは?」


 と久遠青年はかなり興奮してどもりまくりながら執事へ盗聴器の録音を聞かせた。


 一通り聞き終わった執事は、深く首肯して


「アマチュアにしてはかなり頑張ったな。いいだろう! お前を弟子にしてやってもいい!?」


「ほ、本当で、ですか?!」


「ただし! 条件がある!」


「じ、条件?」


「お嬢様のデータを全部私に渡しなさい! それがダメならなしだ!」


 久遠青年は顔を歪めてしばらく考えたが、まさに断腸の思いで


「わ、わかりました……執事さんに全てお譲りします……」


 その言葉を聞いた瞬間、執事は喜びでニヤついたが、すぐにただして


「いいだろう小僧、弟子にしてやる! だが私はただの執事ではない! 真のプロフェッショナル! 久菱財閥令嬢専属執事荒川刄執だ!」

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財閥令嬢専属執事〜荒川刄執の弟子〜 呉根 詩門 @emile_dead

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