列車は初夏の涼やかな風を受け、線路に
迫る竹藪の隧道を抜けて征く。
車窓からの景色は、新緑の青々とした
ものから、其処彼処に蔓を絡ませた藤紫の
花房を幾重にも枝垂れさせる藤色へ。
山入端が藤色に染まりゆく景色の中、彼は
独り思いに耽る。
行李ひとつで。
葉書にあった、その言葉を彼は藤色に染め
抜かれた風呂敷へと大切に包む。
爽やかな初夏の、美しい自然の中に、
いつの間にか入り込む 不穏 さ。
酔生夢死、夢の胡蝶の翅は藤紫に染まり
連なる花房が覆い隠す。
そこで見たものは。
果たして夢か、それとも 現か。