暴力は淑女の嗜みでして

清泪(せいな)

私の大暴力祭2025・春


 スローモーション。

 女だからどうせビンタぐらいだろうと、舐め腐った彼の頬を私の右拳が叩く。

 女だからどうせビンタぐらいだろうと、舐め腐った彼女の頬を私の右拳が叩く。

 頬肉を震わせて口元がぐにゃりと曲がっていく。

 両目を驚きにかっぴらきながら、彼の口内から折れた歯が飛び出していく。

 両目を恐怖に細めながら、彼女の唇から血が飛び散っていく。

 容赦など一切考えずに、私は右フックを振り切った。

 綺麗に顎に入ってくれれば気絶のオマケ付きだったので嬉しかったが、怒りが入射角を鈍らせてただの打撃になってしまった。


 一撃目。

 まだこれは、一撃目。


 ビンタを超えた衝撃に驚きと恐怖で身構えた相手に対して、二撃目の左ボディブロー。

 驚きから反抗へと変わろうとしていた彼の目がぐるりと動いた。

 反抗へと意識を変えようと、根本的にこの男は私の事を舐め腐っているのでそもそも二撃目が来ることも予想外なのだろう。

 恐怖のまま何が起きているのか理解できてない彼女の脇腹に、私の左拳が深く突き刺さる。

 女だから二撃目まではしてこないなんて、今さら舐めた考えでいらっしゃる。


 二撃目。

 まだまだ、二撃目。


 たった二撃で私の怒りが治まるわけがない。

 それを未だに彼も、彼女も理解していない。

 いや悪かったってぇー、という誠意を微塵も感じられない男が理解出来るわけがない。

 自分も第三、第四のカノジョかもしれないのに、男を奪ったことに愉悦の笑みを浮かべていた女に理解出来るわけがない。

 右頬、左脇腹と叩かれた身体は思い通りに動かないらしく、無様によだれを垂らしながら私のことを見ている。

 怯える彼と、睨む彼女。

 今さら私に怯えても遅いのよ、と更なる教育に右ボディーブローを叩きつける。

 今さら私を敵だと理解しても遅いのよ、と更なる教育に右ボディーブローを叩きつける。

 二連続のボディーブローに、相手の身体は弓なりに曲がる。


 ほら、頭を垂れろ。

 私を騙してきた言葉での謝罪など今さら聞きたくもない。

 さぁ、頭を垂れろ。

 誰に何をしてしまったかを理解しろ。


 そんでもって垂れた頭を私は両手で掴んで、顔面に膝蹴りをお見舞いする。

 殴るだけでもの足りるわけがないと、示す為の四撃目。

 鼻なんて粉砕骨折したら良いのよ。

 片足は地についたままなのに天高く飛び上がった気持ちよさがあった。


 膝蹴りで起き上がった相手の身体。

 彼も、彼女も体勢を整えようとするのだけど、そんなものを許す間を与えるわけがない。

 押しつけるように相手の顔面を鷲掴み。

 アイアン・クローとか言うらしいが、私の小さな手だとこめかみを押しこむのがやっとだし、身長差に押し返されてもおかしくない。

 だが、相手はまだ混乱中。

 彼は必死に私の手首を掴んで、彼女は私の手の甲を爪で引っ掻いた。

 握力でギシギシと頭蓋骨を軋ませてやりたいが、それは無理な話なので私は体重を乗せて相手を後ろに押し倒した。


 ごぉん、と響く衝撃音。

 コンクリートの壁に、彼の、彼女の、後頭部がぶつかる。

 五撃目に選ばれたのは、壁ドンでした。


 強い衝撃を後頭部に受けると、男女問わず、あがっ、と声が漏れるらしい。

 ありがとう、勉強になりました。

 今後の参考にしますね。


 コンクリートの壁に血が滲む。

 遠のきそうな意識の中で、彼は何かを伝えようと口を動かすのだけど、あがあが、と言うだけで何を言いたいのかわからない。

 わからないし、そもそももう彼の言葉を聞く気は起きないので、聞き返したりはせずに踏みつけるように右足を折ってあげた。

 遠のきそうな意識の中で、彼女は彼の名前を呼んでいたが、もうそれは届かないのだと教えてあげた。

 彼って複数カノジョを作ってる割には、マメさというものに縁が無くて連絡が中々取れないのが日常だものね。

 もう連絡できない状態だって、わかるはずもないから仕方ないね。

 大丈夫、その愛しの彼と同じようにアナタも右足折ってあげるから。


 右足を六撃目として、左足は七撃目。

 人の身体って頑丈に出来てるとは思うのだけど、角度をちゃんと考えてあげると案外脆い。


 虫も殺せなさそう。

 私を可憐でか弱い女の子ということにしたがっていた彼は、よくそう言って笑っていた。

 彼の部屋にゴキブリが出た時なんて、俺に任せろと、無駄に格好つけていたっけ。

 よく考えたらカノジョを部屋に連れ込んだ際に、ゴキブリが出てくる格好悪さったらないのだけど。

 虫も殺せなさそう。

 私の親友だと名乗っていた彼女は、彼氏の愚痴を言い合おうと始めた際に、愚痴を言わない私にそう言って笑っていた。

 あんたが怒ってるとこ見たことないかも、と三、四年程度の付き合いで全てを見てきたかのように語る彼女も、どうやら私のことを可憐でか弱い女の子にしたがっていたみたいだ。


 可憐でか弱い、言われるがままに弄ばれて、好き放題奪われる、都合のいい女の子。


 そんな都合のいい女の子なので、思うがままに痛めつけて、身体の自由を奪ってやった。


 薄まっていく意識の中、足が折れまともに立ち上がれなくなっても人は、その場から逃げようと足掻く。

 壁伝いに床を這いずり、誰かに助けを呼べないかとまだ動く手でスマートフォンを必死に探す。


 なので。

 だから。

 それはもちろん。


 両腕を折ってやる。

 八撃目は左腕、九撃目は右腕。


 肉体関係にある男女は思考も似てくるのかな、と冷たい地面にうつ伏せに倒れる相手を見て思う。

 そうなると私も同じ状況になったらこの有り様なのか。

 反吐が出る。

 十撃目を与えたいので、相手の身体をひっくり返す。


 彼も、彼女も、下半身で物事を考えるからこんな過ちを犯すんだ。


 私は思いっきり右足を振り上げた。

 十撃目、踵落とし。



ーーーー


 彼の死体処理を業者に連絡してから、私は彼女に連絡を取った。

 彼女がよく騙る”親友”としてもう一度会って話がしたいと言ったら、彼女は鼻で笑いながら了承してくれた。

 私の想定以上の謝罪があれば、許してやらなくもない。

 彼女も彼の複数いるカノジョの一人だからだ。

 同じ被害者側だと言える。

 ただ──


 死体処理の業者は、今なら二件目無料サービスと謳っていた。

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暴力は淑女の嗜みでして 清泪(せいな) @seina35

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