最終話 少し異なる日常へ

「江神せんぱぁぁぁああいいいい!!!」


 大声のする方に目線を向けると、そこには女性が一人。それはもういい笑顔で立っていた。

 一つ……いや、かなり目がいく点は、彼女が身体に布を巻きつけているところだ。


「差形隊員。無事で何よりです」

「こ、この人が……?」


 初めて会った時の木乃香さんの様子を思い出す。向こうもかなり軽装備だったが、まだあっちの方が隊員らしかったぞ……。


「はい。このマンションに唯一潜入できた隊員です」

「一般人に遅れをとるとは……一生の不覚……!」


 俺と同じように住人として登録しても中には入れなかった隊員はいたらしいが、目の前にいるこの人はそれを突破できたらしい。彼女の話では、5階の探索中に突然部屋から飛び出してきた木乃香さんに襲われ、隊員の制服と部屋の鍵を奪われて、そのまま部屋に閉じ込められてしまったらしい。


「この通り五体満足のようですので夕美木乃香さんは聴取後すぐに出てこられるでしょう」

「それなら良かった……」

「差形隊員。自室に戻って服を着てください」

「は〜い」


 彼女は胸の前に拳を出して頭を下げている。木乃香さんもやっていたが正しい敬礼らしい。定期連絡やこの敬礼などは見て模倣したということだろうか。

 

「でもおかしいなぁ〜。部屋のあちこちに罠仕掛けてたんですけど、どれにも引っ掛からなかったのかな〜」


 その言葉を聞いて、木乃香さんが最初カーテンから垂れる紐に引っかかっていたことを思い出す。あれは罠だったのか。不思議な空気を纏う彼女に視線を奪われつつも江神さんに誘導される。


「少し変人ではありますが、優秀な隊員です」

「そのようですね……」

「それでは我々もここを出ましょうか」



 外に出ると、快晴の中心地いい風が吹いていた。風に髪を撫でられながら、今までいたマンションを見上げる。長いようであっけなく、第一目的を達成し解決という形で協力要請の仕事は幕を閉じることとなった。





 そして後日。協力要請を受けたことで数日休暇があった俺は、木乃香さんの情報を得る機会をもらった。面会の相手はあの差形隊員で変わらずゆるい雰囲気で迎えられる。


「そういえば、あのマンションなくなるらしいですよ〜」

「えっ、そうなんですか?」


 木乃香さんはガーディアンと共に別のマンションに引っ越すらしい。まああれだけショッキングな事件もあったことだし、マンションがなくなることには間を置いて納得できた。木乃香さんは父親が遺したセキュリティに守られながらこれからも過ごしていく。今はシステムを保守する会社がついているらしく、前のような暴走を起こす恐れはないらしい。


「彼女は元気にしているんですね」

「はい。復讐も果たせてスッキリ〜って感じでしたね。ガーディアンの様子がおかしくて、復讐相手が近くにいるのかも〜って予想してたみたいですし」

「だから、差形さんを襲ったんですか?」

「さあ。動機はそう言ってましたけど、嘘っぽかったですよ〜」



 彼女はどうしてそんな思い切った行動に出たんだろう。結局答えはわからないまま、夕美さんが遺したプログラムについて聞いて解散になった。




 明日からまた俺はいつも通りの仕事に戻る。一度は死を覚悟したけれど、最終結果まで見ればあそこに行って良かったと思う。

 復讐に燃える遺族の煮えたぎったあの意思を見ることができたことは、俺にとってとても重要な意味を持つ気がするからだ。


 ふとした時に手が止まって、あの事件の関係者のことが自然と頭を支配する。平然とあの場にいて、人が殺されるところを見た俺を含め、俺の想像を超える考えがあのマンションには詰まっていた。


 俺だったらどうする、あの行動は正しかったのか、あの日にまつわる様々な物事を、俺は未だに考え続けている。


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防御マンションから人民を救出せよ! 芦屋 瞭銘 @o_xox9112

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