第2話 異端と剣、交差する
《警告:ダンジョン最奥に異常反応。想定外のボス級個体を検出。》
「……チッ、こんな時に限って」
氷室セナが鋭く舌打ちをした。白銀の瞳が、即座に戦闘態勢へと切り替わる。
俺はといえば、咄嗟に腰のデバイスに触れ、ドローンの警戒態勢を最高レベルに引き上げた。
《魔力反応、急上昇。推定個体:雷蛇種・変異体。Aランク相当の危険度。》
「Aランクだと……!? こんな初級ダンジョンに、そんなのが紛れてるなんて……!」
セナも驚きを隠せないようだった。 本来、この【翠蛇の洞】はFランク、初心者でも対処できる難易度のはずだ。それが突然、想定外のボスを抱えているなど……ありえない。
「退くか?」
俺が訊ねると、セナは静かに首を振った。
「逃げたら、次に来た誰かがやられる。……それだけは避けたい」
その目に宿るのは、ただの虚勢じゃない。 彼女なりの“覚悟”が、そこにあった。
《推奨:共闘体制の構築。科学技術と魔法の連携により、被害の最小化が可能です》
「だってさ」
「ま、私も最初からそのつもりだったけどね」
二人は視線を交差させた。 火花が散りそうなその空気は、敵に向けられる刃のように鋭く、そして――揺るぎなかった。
◇
最奥部――かつての“ボス部屋”とおぼしき広間。
地響きと共に姿を現したのは、全身が金属のように輝く巨大な蛇。 体長はおそらく十メートル近く。うねるような動きと共に、全身から雷がバチバチと迸っていた。
《目標確認。名称:雷蛇種“ヴォルグ=サーペント”。体表は高電圧を帯び、物理・魔法のいずれも通しづらい。攻略難易度:A》
「まずはバリアを破る……そのために、俺のEMPを使う」
「……任せた。あたしは陽動に徹する!」
セナが先陣を切った。白銀の刀に氷の魔力をまとわせ、雷の巨蛇の懐へ飛び込む。
「こっちよ、バカ蛇っ!」
その動きは疾風のように速く、魔力で強化された斬撃が、ヴォルグの注意を完全に引きつけた。
《EMP照準完了。セナ嬢の退避を確認》
「EMP――発射!」
――パシィィィン!!
空間が歪んだかのような衝撃が走る。 ヴォルグの全身に流れていた雷が、一瞬、ぴたりと止まった。
「今だッ、セナ!」
「氷魔・裂閃――!」
一閃。セナの刀が、硬質な体表の継ぎ目を裂き、内部に凍てつく魔力を叩き込んだ。
だが、それだけでは終わらない。
《熱線、照準完了。攻撃開始》
俺のドローンが真上から射出した高温レーザーが、セナの一撃に続いて傷口を焼き広げる。 氷と熱が交錯し、ヴォルグの体内に連鎖的な破壊を引き起こしていく。
「……ッ、いける!」
「押し切るぞ!」
セナと俺、完全に呼吸が合っていた。 まるで何度も連携を取ってきたかのように、科学と魔法が融合する。
数十秒後――
《目標、反応消失。討伐成功を確認》
「……終わった」
俺が息を吐いたその隣で、セナも地面に膝をつく。
「まさか、ほんとに倒せるとはね……。あんた、やるじゃん」
「お前もな。なかなか、いい剣筋だったよ」
しばしの沈黙。
だがそれは、気まずさではなく、戦いを共にした者同士の“静かな余韻”だった。
「ま、借りは返さなきゃね。次はあたしがフォローしてもらう番。……勝手に死ぬなよ、“異端”くん」
「そっちこそ、無茶すんなよ。……“センス剣士”さん」
互いに背を向け、しかしどこか歩幅が揃った帰り道。
この日を境に、俺と氷室セナの距離は少しだけ――縮まった。
だがそれは、まだ“序章”に過ぎない。
科学と魔法が交差するダンジョン攻略の物語は、今まさに始まったばかりなのだから。
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