この科学技術、魔法を超える。――異端のダンジョン攻略者
ルクシオン
第1話 落ちこぼれと戦術AI
ダンジョンが世界に現れて、もうすぐ二十年になる。
突如として各地に現れた異空間は、当初こそ軍隊によって対処されていたが、人類はやがて“魔法”という力を手に入れた。
それからの時代、人々は剣と魔法でダンジョンを攻略する“探索者”という新たな職業を確立していく。
――そんな中、俺はというと。
「おい篠宮、また魔法発動できなかったんだって? マジでお前、どんなクズスキル引いたんだよ」
廊下の陰から聞こえてくる嘲笑を、俺は聞こえないフリでやり過ごす。
名前は篠宮レイ。高校二年。探索者育成コースに籍を置く、れっきとした訓練生だ。
――魔法適性、ゼロ。
魔力測定器に手を当てても、数値はずっと“1”のまま。剣の腕も並以下。火球を自在に操る奴も、チームの支柱になる回復役もいる中で、俺はまるで「何も持たない者」として日々を過ごしていた。
だが、俺には“魔法以外”の力がある。
「……起動確認。戦闘AI《OZ》、オンライン」
向かったのは、誰も使わなくなった理科準備室。棚の奥に隠された古びたノートPCに電源を入れる。
《おかえりなさい、レイ。今日も嘲笑されてきましたね》
「……言わなくていいよ」
柔らかな女性の声が響くモニターの先にあるのは、祖父が遺した超高性能戦術AI、《OZ(オズ)》。
宇宙開発時代、NASAに籍を置いていた祖父は、ダンジョン出現以前に数々の宇宙兵器を設計していた。そして彼は死の間際、OZと設計データを、俺にだけ託してくれた。
「放課後ダンジョンに入る。ターゲットはFランク、【翠蛇の洞】」
《了解。ドローン一号機から四号機、スタンバイ完了。ナノバリア展開率98%、衛星リンク正常。最適ルート検索を開始します》
魔法が使えないなら、俺は科学で戦う。それがどれだけ笑われようと、結果さえ出せば――いつか、誰も文句は言えなくなる。
ポケットから古いイヤホン型通信機を取り出し、耳に装着する。
そして、ドアを開けた。
そこはもう、“日常”じゃない。
命がけの戦場だ。
◇
放課後の駅前、探索者ゲート前。
一般人の立ち入りは禁止されているが、俺のように登録された探索者であれば、学生でも単独でダンジョンに入ることができる。
IDカードをスキャナーにかざし、電子音と共に次元ゲートが開いた。
――今日の目的地は、比較的安全とされるFランクダンジョン、【翠蛇の洞(すいじゃのほら)】。
《地形スキャン完了。熱源反応4体、距離30メートル。種別:毒蛇型》
「了解。ドローン、上空展開。熱制御弾、レベル2で」
リュックから浮かび上がる球体ドローンが無音飛行で天井に張り付き、敵の真上に移動する。
「――撃て」
空気を切る音の直後、熱線が敵の群れを貫いた。
《目標4体、全滅を確認》
「……よし」
魔法もスキルもない俺が、敵を一掃する。
その瞬間、胸の奥がじんわりと満たされる。
だが、その余韻を断ち切るように。
《警告:後方より高速接近反応。対象:人間》
「……え?」
振り向いた瞬間。
「そこ、邪魔よっ!」
空気を切るような声と共に、白い斬撃が通り過ぎる。壁に張り付いていた魔物が一瞬で両断された。
――現れたのは、銀髪の少女。
鋭い目つき。細身の体に戦闘用コート。まるで風のような動きだった。
「アンタ、個人でここに入ったの? Fランクでドローン使うとか……センスなさすぎ」
「誰……?」
「氷室セナ。クラスは違うけど、探索者ランクは“C”。アンタの“F”とは格が違うわ」
《彼女の剣技、学生レベルを大きく超えています。警戒を》
「センスで戦ってる魔法剣士に、科学を語られてもな」
「はあ? 言ったわね……!」
ピリピリと火花が散るような空気。
だがその瞬間、OZの声が響く。
《警告:ダンジョン最奥に異常反応。ボス級個体、確認》
空気が一変する。
セナが刀を抜き直す。
「ここでやられる気はない。アンタ、私の邪魔だけはしないでよね」
「それは、こっちの台詞だ」
魔法と剣、科学とAI。
二つの異なる戦術が、未知の敵へと立ち向かう。
――そして、物語が動き出す。
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基本的に毎朝6時に投稿します。ストックが貯まれば複数話投稿することもあります。
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