神話以前-タカマガハラ創世記-

翠ノさつき

創造と想像


 遥か遠い星から、アヲと呼ばれる存在が地球を創造した。大地、海、風――すべてがアヲの手のひらの上で作り出され、生きるために必要なものが満たされた。

 さらに、アヲは人間という新たな生命体を創造し、その世界には「タカマガハラ」と呼ばれる大社があわせて築かれた。


 人間たちは無意識にその存在に従い、タカマガハラに祈りを捧げながら生きる日々を送っていた。

 だが、ある日、一人の男が目覚めた。彼は虐げられてきた痩せ細った男。

 顔色は悪く、常に疲れたような表情をしており、身体は力なく萎んでいた。

 しかし、彼の心の中には、常に何かを壊したいという強い欲望があった。それが、いつしか「想像」という形で芽生えた。


 男がひとり、静かな夜に祈りを捧げる。その祈りはいつも通り、タカマガハラに送られるはずだった。

 しかし、そのとき男の心の中で膨れ上がった「想像」は、ただの祈りでは収まらなかった。


 男の心に浮かんだのは、無数の蛇が絡み合うイメージだった。それらは次第に合わさり、八つの頭を持つ大蛇へと変わっていく。その姿は、世界を呑み込むほどの大きさで、恐ろしさを湛えていた。


 男はその「想像」を無意識にタカマガハラに送ってしまう。

 やがて、その想像が実際にアヲの創造した世界に異変を引き起こす。


 アヲはその異常を感じ取るも、すぐに対応できなかった。


 男が描いた蛇の群れはやがて一体となり、巨大な姿へと変わった。

 その蛇は無数の頭を持ち、天を覆い、地を震わせるほどの大きさに成長していく。男が祈りを捧げた瞬間、タカマガハラの大社はその巨大な蛇によって一瞬で破壊され、柱が折れ、屋根が引き裂かれる。

 まるで世界の秩序を壊すかのように、巨大な蛇はその力を誇示していった。


 その後、アヲは新たな「タカマガハラ」を送り込む。それは社ではなく四角い物体で、力を引き出す「兵器」であり、人間に力を与える装置だった。

 その新しいタカマガハラが、地面に落ちてきた。周囲の人々が驚きの声を上げる中、一人の大男がそれに手を伸ばす。

 彼は屈強な体躯を持ち、太く屈強な腕を持つ。しかし、その目はどこか穏やかで、長年の間ずっと誰かを守り続けてきたかのような優しさを湛えていた。


 彼がその四角い物体に触れると、何かが変わった。物体はまるで生き物のように彼の体を包み込み、金属的な装甲が男の体を覆っていく。

 その装甲は無機的でありながら、どこか意志を感じさせ、男の体を守り、操る力を持っていた。男はその力を受け入れるように、静かに呟いた。


 「素戔嗚スサノオ…」


 その言葉が響き渡ると共に、男の体は完全に装甲に包まれ、まるで新たな力を得たかのようにその存在が変わった。


 彼もはやただの人間ではなく、アヲが創造した新たな兵器、スサノオとしてその力を振るう準備が整った。


 その後、新たなタカマガハラから一つのメッセージが送られてきた。それは、破壊された世界に対する指示だった。


 「八岐之大蛇ヤマタノオロチを滅せよ。」


 その名を耳にした瞬間、男の体が震え、スサノオの装甲が光り輝き始める。荒れ狂う風が巻き起こり、雷鳴が轟く。すでにスサノオの力の一端が解き放たれていた。


 男の周囲にいた人々は遠くに逃げていった。

 目の前に現れるヤマタノオロチ。

 無数の頭がうねり、地を揺るがすその姿に、スサノオは無言で立ち向かう。


 風が彼の周りに渦を巻き、荒れ狂う暴風が大地を蹴散らす。


 そして、創造と想像が激しくぶつかり合う。


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神話以前-タカマガハラ創世記- 翠ノさつき @Suino_Satsuki

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