第35話 魔幇vs魔幇(Ⅱ)

 一方地下世界、俺はハカセと対峙していた。

「何故俺達を処分しなければいけない。不良品だからなのか?」


「うーん少し違うね。君達役者アクターは一見自由意志を持っているようで実は持っていない。聖典シナリオに沿って行動するようあらかじめ命令プログラムされているだけなんだよね。RPGゲーム内では、NPCノンプレーヤーキャラの役割や台詞ってあらかじめ決まっているのと同じさ。命令通り、忠実に働いているのは何も戦闘員である君達ばかりではないのだよ」


「奴等も、エヴォレンジャーも同じって事か?」

正解ピンポン。でも彼らは準主役。聖典シナリオを破綻させるような行為を行わない限り、自由意思での行動が許容されている、良い役者にはアドリブって重要だと思わない? まぁ周囲の役者アクターもきちんとフォローしてくれるしね」


 ハカセはゆっくりと俺を見つめた。

「この「神聖戦隊セイクリッドフォースエヴォレンジャー」。


 ハカセは真実を告げニヤリと笑った。不気味な笑顔が俺の顔に迫る。

「そう、この聖典世界は唯一「ソウル」を……いのち在る者、


 何の為に?

「ぷぷぷ、君は何故? と考えているようだね。そうだねぇエヴォレッドは主役。聖典シナリオの最終話、当然ラスボスと戦う事になるよね。所謂クライマックスだね」


「ラスボス? 魔幇の総帥(CEO)……?」

「ブブーッ。ラスボスは魔幇総帥じゃないよ、現在地球の支配者、『虚神イマジナリーデウス』強敵だよ」


虚神イマジナリーデウス?」

虚神イマジナリーデウスとは「コムニス」の一部が制御不能になり暴走、いわば癌細胞化する事で発生するとても厄介な存在。そして虚神の能力は絶大だ」


 ハカセは天を見つめる。星空のホログラムが浮かび上がった。

「僕達が「月」と呼んでいるあの青い星。実はあれが「地球」さ」


 俺達が夜、見上げている月が地球? じゃあ俺達は一体どこに住んでいるんだ?

「かつて数多の生命で溢れていた地球は「虚神イマジナリーデウス」に支配され、細菌すら生存できない死の星と化してしまった。現在のこの太陽系には純粋な生命体は存在していない」

「……俺達は?」


 俺達は一体何なのだ?

「この聖典世界で生命体と言われる存在は全て偽物フェイク、遺伝子工学と生体工学によって生みだされたタンパク質等の生体物質の塊にすぎない、人工物だ。生命体ではない。その境界は肉体に「ソウル」が宿っているかどうかだ」


ソウル?」

「君達の一部は『影』とか呼んでいるようだね」

「……!」

「やっぱり、思い当たる節があるようだね」


 包帯グルグル巻きのハカセは再び笑った。血走っている目が大きく見開いている。

「そうだよ、「ホモ・エレクトロニクス」は魂を失いし存在。人格をデータベース化する際、ソウルが抜け落ちてしまったのさ。彼等は生命体では無くなってしまった。彼等が「ソウル」の存在を確信した時には既に手遅れだった」


 ハカセは舞台役者のように大仰な身体の動き。車椅子が良い演技をしてくれる。

「ホモ・エレクトロニクスが……彼等が進化の限界点を突破できない理由ワケ。生命体では無い彼等はもう進化することが出来ないのさ。魂を持たぬホモ・エレクトロニクスはあらゆる環境に「適応」する事は可能でも「進化」する事は、不可能になってしまったんだ。「ソウル」こそが進化するための鍵でありパワー、正に神聖力セイクリッドパワーだ。進化する事で限界を突破し、新たな段階ステージとなる。創造神……神をも越えた究極の存在となる事が彼等「ホモ・エレクトロニクス」いや「コムニス」の悲願、統一意思なのだよ」


「これほどの力を持つ「コムニス」が何故「虚神」を倒せない?」


 ハカセの大仰な演技がピタリと止まる。俺に背を向いたまま。


「「虚神」と「コムニス」はいわば一心同体。彼等が新たな技術や新兵器を開発すれば虚神はそれら全て複製する事が可能となる。コムニスは決して虚神に勝利する事は出来ない。しかも虚神は「コムニス」や我々のように「人格」や「肉体」を必要としない。虚神イマジナリーデウスは物質化したマイナスのソウルを有する「神」、いや「いつわりの神」だ。虚神は世界の全てを模倣し、逆に世界を侵食していく。彼等「コムニス」の勢力圏も徐々に浸食され、滅びの時を迎えようとしている、コムニス側は劣勢だ」


「つまり、コムニスと虚神イマジナリーデウスってのは元々同じ存在って事か?」


正解ピンポン虚神イマジナリーデウスがコムニスの『影』だ、純粋なね」


「……マイナスの魂、影」


「そうそう、そしてここからが重要な話し。よく聞いてね。人の姿をした人形に過ぎない君達「超人」の中で、ごく僅か、コムニスの制御から外れ自由意志で行動する者達が現れる事がある。超人には彼等(ホモ・エレクトロニクス)が失った「魂」の、不完全な破片「偽りの魂」が宿る事があるのさ。コムニスの制御コントロールを超越し、限りなく魂を持った生命体に近い「自我」を取り戻した存在、人に近付きし者。それが君達だ」


「ならば!」


「それが大問題なのさ。危険なのだよ、その中途半端な自我が、偽りの魂は虚神イマジナリーデウス生みだす原因になってしまうのだよ」


 疑問が繋がっていく。どうやら俺達のような存在は虚神を生みだす危険因子らしい。


「だから、なのか?」


「そう、元来不安定な「偽りの魂」が何らかの理由で制御不能となり、暴走。その結果「超人」や「ホモ・エレクトロニクス」の一部が虚神化する。その為、コムニス主流派の中心的存在。最高指導部ノーメンクラトゥーラは「偽りの魂」を持った個体をこの聖典世界の「バグ」として密かに処分する決定を下しているのさ」


「やはり不良品ってワケか?」

「少し違うね、魂を取り戻しつつある君達は彼等の希望でもあるのだ」

「意味が解らん」


「「ソウル」こそが虚神イマジナリーデウスを倒し、世界を修復する鍵なんだ。言ったはずだよね」


 俺はハカセをと見つめる。

「虚神という絶対的な絶望と立ち向かえる希望、真なる神、『超神』は真の魂が存在しなければ誕生しない」


 希望と絶望が、紙一重って事か?


正解ピンポン!! だから、コムニスの主流派は「エヴォレッド」に自由意志と唯一手元に残され結晶化に成功した「ソウル」を与え、彼を「救世主」とする事にしたんだ。そしてその舞台として「神聖戦隊セイクリッドフォースエヴォレンジャー」を選んだ」


「何故だ!?」

「何でこんな子供向番組が世界を救う聖典シナリオに選ばれたかって? ぷっぷっぷっ~~~~っ。それは後のお楽しみ」


 ハカセは話を続ける。

「だからエヴォレッド以外、制御が不安定になった役者アクターには「死」の試練を与え、失敗した者は虚神イマジナリーデウス化しないよう密かに処分。「偽りの魂」を持っているであろう生き残った者達は、「コムニス」によって、エヴォレッドの「魂」を維持するためのエネルギー源として厳重に管理され、表舞台から消え去るのさ」


 ハカセの説明、この聖典世界の謎が解けていく。

「どっちにしてもこの何ちゃらセカイでは「死」、終わりって事かよ」


 ハカセは遠い目で虚空を見つめる。

「まぁね。コムニスの主流派、中心的存在。『最高指導部ノーメンクラトゥーラ』はエヴォレッドに希望を託している。でも、何度最終話までシナリオを進めても、「最終話」、ラスボスである「虚神」に勝利する事が叶わなかった。「最終話」ではもう何度もエヴォレッドは虚神ラスボスに倒されているのだよ」


 それはこの物語が……混沌作戦が永遠に繰り返し続けられていると言う事。俺達の記憶の中にこびりついている敗北の記憶が連鎖している事とも一致する。


「だからコムニスの中から主流派以外、別な方法を試そうという反主流派が生まれた」

「それがテメエ等か?」


 ハカセは大笑い。

「ぷっぷっぷっ~~~~っ。俺か? 俺等は違う、うん違う。俺は電子生命体「ホモ・エレクトロニクス」じゃない。まして「コムニス」の一員じゃない。強いて言えば……う~ん、そうだな「破壊者」とでも名乗らせてもらおうかなぁ」


 ハカセは自らを「破壊者」と名乗った。ハカセは話を続ける。

「だけど反主流派が裏で暗躍し聖典シナリオを歪めようとしているのは事実。「コムニス」も所詮は人間と同じ、技術的特異点シンギュラリティポイントを超えどんなに高度に知性が発達しても、全人類の頭脳、思考能力を超えた思考・計算能力を持つ超AIと融合していたとしても。全ての考え、意思を完全に統一することは出来なかった。、故に聖典シナリオ遂行にも様々な陰謀が渦巻いているのさ」


「……」

「そんな思惑利用し、俺等「破壊者」はある計画を実行しようと考えた」


 球体に包まれていたエネルギー体が光に包まれていく。

「彼らには、虚神起動の為の触媒、生贄になってもらう」


 ハカセ、不気味な笑顔。

「何だって!」

「エヴォレッドには序盤も序盤、第六の混沌作戦カオスミッションの段階で虚神イマジナリーデウスと対峙してもらう。虚神を生みだす為の起動鍵キーとして、処分される予定の彼らの「命」を使おうって計画さ」


「貴様が、オヤっさん達の命……「ソウル」を利用しようとするのか!?」

「まぁね」


「もし、この混沌作戦カオスミッションでもしエヴォレッドが死亡したら、今回の聖典シナリオは破綻、一旦全てリセットされもう一度、神聖戦隊エヴォレンジャーを第一話から始め直すことになる。このゴミ山を見れば解るとおり、物語をもう何度も繰り返せる余裕は無いのだけれどね」


このゴミ山は失敗と敗北の歴史。

「俺達は何度も何度も「神聖戦隊エヴォレンジャー」という物語を演じていたって事か?」


「そうだよ、君らはずっと戦闘員として戦い続けていたのさ。不憫だね。だから早速試験しよう、エヴォレッドが虚神に勝利できるがあるのかどうか?」


 ハカセはゲーム機を操作する。

「俺達が生み出せる虚神は所詮紛い物の下級神アークエンジェル級、それでもマイナスの魂を宿した本物の神様だ、紛い物の弱神に今のエヴォレッドが勝利出来ないのであれば、俺等は……もう一つの計画(プラン)を実行しなければならない」


 ハカセ話しを聞いた俺は。

「オヤッさん達を離せ! まだ死んでないんだろう!」


 俺はハカセに飛びかかろうとするが。

「キィキィ五月蠅いねぇ、ちょっと待ってなさい」

「!!」


 ハカセが携帯ゲーム機を操作すると俺の身体は硬直し、動けなくなる。

「一体!」

「操作を止めただけさ、ゲームキャラって操作されないと動けないでしょう」

「何……だって」

「言ったでしょう。この聖典世界はいわばゲームのようなもの、「ホモ・エレクトロニクス」いや「コムニス」の意思によって創られた架空世界バーチャルだって。最も「コムニス」はネット世界バーチャルの住人で、こっちは物質世界リアル。本来はあべこべなんだけどね、ぷっぷっぷっ~~~~っ」


 ハカセはまた大笑い。

「君達はあくまでもゲーム内のキャラみたいなものさ。コムニスによって制御されている。二次元人が三次元人を認識できないように。ゲーム世界の住人達は自分が誰かに操作されていると思っているのかな?」


 俺達は、誰かに操作されているだけの只の「キャラ」だったのか……

「言ったでしょう、この聖典世界で完全に自由意志を持ったプレーヤーキャラはエヴォレッドだけだって。しかも君達はNPCノンプレーヤーキャラいわば「背景エキストラ」。本来誰からも操作せず、決められた命令プログラム通り行動するだけ、でもソコに俺等が介入する余地があった訳なんだけどね」


 俺は動けない、ハカセはゲーム機を操作し俺の身体を勝手に動かす。俺は車椅子の目の前で這いつくばり動けなくなった。ハカセは超空間転送で魔幇正式刀(ソード)を召喚した。車椅子、機械の手が刀を握る。


「うん、ちょっとネタバレするとね。エヴォレンジャー第六話、爆弾魔人みずからの自爆によって地底に落ちたエヴォレッドは、ソウルの導きで父の幻影と再会。神聖合身のヒントを得て、初めて合身に成功する。そういう筋書きなのさ」


 俺を見つめるハカセ。

「第六話こそ、エヴォレンジャーロボが初めて神聖合身に成功。本格的に混沌魔神ロボと対峙する、序盤の見せ場なんだよね」


 そして、機械の手が俺を斬りつけた。

「この聖典世界で本来、決して死ぬ事の無い君達「超人」。でも俺等は殺害できる……何故なら、コムニスの超人に対する干渉権限をハッキングしているからね」


 俺の大量の血飛沫が宙に舞った。

「グワッ!」

「君も、生贄の仲間入りかな。ぷっぷっぷっ~~~~っ」


 全身に今まで感じたことの無い、これが死の痛みなのか? 俺はゴミ山から転げ落ちていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る