第30話 爆弾魔人(Ⅲ)

「ピンク、大丈夫か」

「え、ええ何とか」


 ダメージ大、肩で息をしている。消耗し暫く立ち上がることが出来ない。

「ハァハァハァハァ……まだ、お守りしますわ」


 パワーは残り少ない。もう、エネルギー障壁を発生させることは難しいだろう。

「フフ、チャンスデース。皆さん、一斉攻撃しましょうか」


 爆弾魔人の命令。

「キキイ」


 一斉に飛び出す、自爆戦闘員達。

「おい、待てよ!」


 俺は叫んだ。

 俺の肩をポンと叩いたおオヤッさん(A106号)。

「どうやら、俺の出番も回ってきたようだな」 

「オヤッさん!」


 オヤッさんは不思議なくらい落ち着いた様子で。

「R079号、後は頼んだぜ」

「止めて下さい!」


 俺はオヤッさんを止めようとするが。

「俺達なぁ古参戦闘員は知っているんだ。記憶の片隅にぼんやりと、過去奴等と戦った記憶が残っているんだ。最初は只の夢や幻覚、壊れただけだと思ってたんだけどな」


 オヤッさんは遺言を言い残すよう、静かに語り続けた。

「あいつ(T117号)も覚えてるのさ。まだ戦いが始まったばかりだって事に。そして……そしてこの戦いも負けるって事にな」


 負ける事が分かっていたから逃げ回っていた。でも、どのみち俺達は……だから今。

「オヤッっさん、だったら」


 仮面に隠された表情、オヤッさんはニッコリ笑った、気がした。

「だから……だから明日の勝利を、お前達に託す」

「何言ってるんですか!」


 わかっている、俺も時々感じる事がある。この戦いは永遠に続き……俺達は負け続けるという絶望的な未来。それでもオヤッさんは、勝利を信じているのか?

「なら俺達は、勝てるはずが……」


 オヤッさんは俺が言いたい事を全てわかっていた。

「良いんだ、たとえ今日敗北したとしても、明日勝利する事を信じ抗い続ける事が出来るのならば、仲間が生き延びていれば、俺達は絶対に負けない。今日勝てなくても。絶対負けない。何時か必ず勝利する事が出来る、負けなければ勝ち、生き残れば大勝利だ」


 オヤッさん特攻。

「こんなの、こんなの無駄死にじゃないですか!」

「いいさ、未来は……お前達が切り開け。だから抗い続けろ」


 大爆発が続く、その中で一際大きな爆発。

「オヤッさん!!」


 エヴォイエローの攻撃を受けた自爆戦闘員が、俺達の足下に吹き飛ばされてくる。意識を失っていた。

「……きい」


 戦闘員っ子ちゃんが自爆戦闘員の背嚢を背負い。突進する。

「先輩、だれか一人、倒す事が出来れば良いのでありますよね?」

「バカ! 止めろ!」


 戦闘員っ子ちゃんが特攻する、何であの娘が。命令されていないのに。

「キイ!」


 激戦が続く。

「ハァハァハァハァ」


 エヴォレンジャーのメンバーは全員ボロボロ。肩で息をしている。ここまで追い詰められたエヴォレンジャーを見るのは初めてだ。


 だが、全員立っている。戦う意思は健在だ。

「まだ、負けない」

「まだまだ!」

「フフ、ボロボロなのデース」


 後方、完全無傷の爆弾魔人は余裕。戦闘員を犠牲にした自爆攻撃はエヴォレンジャー達を一方的に痛めつけていた。

「だから言ったでしょう、戦いはスマートでなければいけまセーン」


 だが、まだ戦いは終わっていない。


 戦闘員っ子ちゃんがエヴォレンジャー達の中心に突進していく。勝算はない、爆風で転倒。だが再び立ち上がりエヴォレンジャーに向かう。


 俺達は何の為に戦っている? 仲間はみんな死んでいった。死体すら残っていない。

「エヴォレッド様! お覚悟」


 戦闘員っ子ちゃんが突進する。

「レッド危ない!」


 ピンクがレッドとの間に割って入り戦闘員っ子ちゃんの特攻を阻止する、連続突きをもろに喰らう。傷だらけ。

「きゃっ!」


 連続突きを受け転倒、だがダメージは思ったより小さい。先輩オレの言った通りだ。

「ならば、ならばなのです」


 今度はエヴォピンクに向かって突進する。

「ピンク!」


 今度はエヴォレッドが割って入り、戦闘員っ子ちゃんを攻撃する。銃撃。

「チッ!」


 俺が刀を盾にして銃撃を防ぐ。だが刀で防げるのは致命傷のみ、手足に命中。だが。

「先輩!」


 無理するな、チャンスはまだある。

「レッド、ピンク!」


 エヴォグリーンの大型手裏剣が俺達を襲った。

「まだまだなのです」


 何とか大手裏剣を回避した戦闘員っ子ちゃん。だが転倒してしまい、その弾みで特殊爆弾が背嚢から転がり出してしまった。


 俺は特殊爆弾を拾い、脇に抱えた。

「……さて」

「先輩!」


 何としても全滅は避けたい、少なくとも戦闘員っ子ちゃんには助かって欲しい、これ以上仲間が犠牲になるのは絶対見たくない!

「エヴォレッド」


 俺はエヴォレッドに向かい特攻。

「レッド!」


 今度はピンクが俺に向かって攻撃を仕掛ける。

「チィ面倒な」


 俺達は敵同士だ。だが……ピンクは必死になって仲間を守ろうとしている。守り、守られる、エヴォピンク……ちゃんと出来てるじゃねーか。

「何故? 反撃しない?」


 俺は今、エヴォピンクを巻き込みたくないと思っている。笑顔が脳裏にちらついている。俺は一体何と戦っているんだ? 俺は目の前のヒーローと戦っているのか? それとも。

「先輩、センパーーーイ」


 戦闘員っ子ちゃんが助太刀、銃撃する。

「二人とも。もう動くな!!」

「え?」

「き?」


 一瞬、戦闘員っ子ちゃんとエヴォピンクの動きが止まった。何故ピンクに俺の声が聞こえたのか? 今でもわからない。

「エヴォレッド、テメエだけは地獄まで付き合ってもらうぜ」 


 明日じゃねえ! 今勝たなきゃ、今守れなきゃ、今助けられなければ意味がねえ。だから、今、俺がエヴォレンジャーを倒す!

「クッ!」


 俺とエヴォレッド、は組み討ち。その瞬間、俺は自爆スイッチを押した。大爆発。地面が陥没するほどの大爆発。


「レッド!」

「レッド様(きい)。先輩(キキイ)」

 一際巨大な爆発バトルフィールドに巻き起こった。




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