第5話:カオスミッション(Ⅲ)

 そして舞台は軽くジャンプしただけでいつの間にか特撮の聖地、「採石場」へ。本格バトルシーンは火薬類も多く使用する、安全第一、モノレール内では危険だ。


 逃げ惑うイバラニア様と俺等。そして車掌魔人。


 採石場、小高い崖の上、沈み行く夕日を背景バック、奴等が整列している。

「待て! イバラニア」


 ババーンと効果音SEを響かせる。神聖戦隊セイクリッドフォースエヴォレンジャー見参!! 


 エヴォレッドが叫ぶ。

「貴様達の悪事もそこまでだ!」

「ああん、しつこいぃ~、そんなに激しく攻めないでぇ」


 涙目になっているイバラニア様。俺達もう撤退中なんだけど。しつこいよ。だが、エヴォレンジャーには絶対やらねばならぬ事があった…………それは!?


「炎の聖戦士! エヴォレッド!」

 バーン! 主人公らしいカッコいい決めポーズ。そして名乗り。


「清水の聖戦士! エヴォブルーーッ」

 キュート♡ クールビューティーな決めポーズ。そして名乗り。


いかずちの聖戦士……え~エヴォいえろう~」

 ダラァ~ いい加減な決めポーズ。ダルそーうに名乗り。


「微風の聖戦士! エヴォ……ピンクッ」

 プリン♡♡ 女の子らしくカッコ可愛い決めポーズ。そして名乗り。


「密林の聖戦士! エヴォ……」

 以下略……電車内でも地味に戦っていたのに……


「輝く魂、我等セイクリッドフォース、エヴォレンジャー!!」


 ババーン! BGM、背後でド派手な爆発、昔ながらの五色の煙&最新のCG演出。ちなみに、奴等が名乗りを上げている最中は攻撃禁止である。理由? 知る訳ねえだろう。

「トウ!」「トウ」「トー」「トゥ」「トーッ」


 五人全員が揃い、ジャンプ、着地と同時にカッコ良くポーズを決める。ハイ、今回も無事終了。ようやく戦闘開始だ。ダルい。


「ああん、もう来ないでぇ。残業になっちゃうじゃない、まだ積ゲー残ってるのにぃ!」


 ジャージ姿のイバラニア様。地面にへたり込んでる。ヘタレ可愛い。ターンA髭の執事、溜息をつきながら。「キイ」と話しかける。


 戦闘員と幹部は一応意思疎通可能だ。


「僭越ながらイバラニア様……このままでは「ポンコツアイドル」とか「お色気担当」との誹りは……」


 体育座りとして落ち込んでいたイバラニア様。ふて腐れながらも気合いを入れ直す。

「むぅ! 頑張りますぅ。わたくしだってやれば出来る子なんですぅ。もう!」


 イバラニア様は立ち上がって。

「あ~あ~、飛んで火に入る夏の虫とはお前達の事だぁ~、返り討ちにしてくれるわ。戦闘員の皆さ~~~~ん。やっておしまい」


 イバラニア様、圧倒的棒読み口調で命令を下した。

「キイーーーーッ!」


 俺達は魔幇式敬礼で命令を受諾。反撃開……一方的にやられまくる。

「キィ!」

「キィ!」

「キィ!」

「キキイ!」


 一撃、また一撃で倒されていく。

「キイ!」


 筋肉質、パワーのありそうなT154号、エヴォレッドの斬撃を受け、もんどり打って倒れる。大先輩、A106号、エヴォブルーの弓矢にでっぷりした腹を貫かれる、戦闘せず逃げ回っていたT117号、背後、エヴォイエローから肩をトントンと叩かれ、振り返った瞬間パンチ一発でノックアウトされた。


 ほんの数分と持たず俺達は予定通り(?)全滅状態。Aパート終了(?)まであと僅か。

「イバラニア! 覚悟」


 エヴォレッドがイバラニア様に迫る。お守りせねばっ!

「キキイ!」

「いやぁ!」


 やはりお色気担当? 美巨乳を揺らしながら、逃げ惑うジャージ姿のイバラニア様。いやいや、奴等よりイバラニア様の方が強いでしょう。「Evolution:02」で奴等を単身で奴等圧倒していたのは、一体何だったんですか!?

「バーニング……ザン!」

「イヤァァァもう来ないでぇ~~~~」


 転倒しながらもギリギリで躱したイバラニア様、M字開脚状態。エロい。ジャージがいい感じに破けブロークン、下着がチラリチラリ、悪の女幹部らしい色香フェロモンがドバッと溢れ出した。


 そしてジャージも俺達同様ボロボロに。そうか、ジャージに転生しても毎回ズタボロになるのか……だがイバラニア様のピンチだ。

「オノレ、エヴォレッド!」


 俺は怒りのオーラを覚醒させる。今、俺は金色に輝いているはずだ。多分。

「キイイイイイ!」


 俺は超空間転送装置で「魔幇正式刀」を召喚。プラスチック刀みたいなチープな刀、それでも鋼鉄すら真っ二つに出来る超強力な刀だ。レッド、バラバラに斬り刻んでやるぜ!


「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ……!」

「トウ!」


 俺はエヴォレッドに斬りかかった。俺とエヴォレッド、一瞬の交錯……

「キイーーーーッ」


 金色に覚醒しても、所詮雑魚は雑魚。俺はエヴォレッドに一刀両断され、後方へ吹き飛ばされた。炎に焼かれ、黒焦げになり、そのままイバラニア様足下に無残に転がっていた。

「だ、大丈夫ですかぁ……」


 お優しいイバラニア様……否! ジャージが破れとてもエッチなイバラニア様は俺を介抱しようとするが……ゴホンキイ。ターンA髭の執事が咳払い。「悪の女幹部らしくしなさい」との演技指導が入る。


 渋々従うイバラニア様。無能な部下は……

「この役立たず! ゴメンなさい」

「キイ!」

「この役立たず! ゴメンなさい、ゴメンなさい」

「……キイ」

「この役立たず! もうヤダァ~」


 涙目状態、ズタボロジャージ姿が超可愛い。

「キィ」


 俺はイバラニア様に何度も踏まれる。イバラニア様は冷酷非情な悪の女幹部という。でも痛くないように配慮してくれている。本当に優しい人だ。でも、俺は何かの性癖に目覚めてしまいそう♡。


 今俺は、心優しきイバラニア様の為に何もしてあげる事が出来なかった! ……盾にすらなれず。一撃で殴り倒され地ベタに這いつくばり地面を掻きむしる。


 俺は! チクショウ……俺等は弱者だ! あまりにも無力だ! あまりにも惨めだ! あまりにも……理不尽だ……俺……俺等はどんなピンチに陥ってもヒーローみたい都合良く覚醒なんて出来やしない! 封印されていた能力とか金色の超パワー……秘密のアイテムや秘められた血統。そんなのヒーローにだけに許された超特権だ。


 奴等スーパーヒーローは這いつくばる俺達の目の前で何時もキラキラと輝いてきた。自身の無力さを噛みしめる。仲間達はあらかた倒された。毎回これが続くのだろうか。

「ピンポンパンポーン。攻撃シマース。ご注意下さい」


 車掌魔人の攻撃、だが戦友達があらかたやられ、魔人だけとなれば、奴等の必勝パターンだ。五対一。エヴォレンジャー達の必殺技を次々と受け、ヨレヨレになる車掌魔人。

「決めるぞ!」

「オオ!」

「聖霊獣、全召喚」


 五人の聖霊獣を全員召喚、合体させる。混沌魔人を唯一破壊する事が可能と言われる必殺武装『神聖セイクリッド審判ジャッジメントキャノン』が完成する。


「セイクリッドパワー! チャージ」

 エヴォレッドが常に首からぶら下げているペンダント。『神聖結晶セイクリッドクリスタル』が装着されたキーアイテムだ。


 ペンダントをセイクリッドキャノンに装着、神聖結晶からエネルギーが注入される。

「聖なる審判! セイクリッド、ファースト……ジャッジメント!」


 五人の神聖力セイクリッドパワーを集中した必殺技。五人の聖戦士の全アイテムを揃えなければ完成しない。


 全国のお父さんお母さん達のお財布にも大ダメージを与える破壊力満点、必殺の一撃。

「キイ?」


 なんと車掌魔人、俺の影に隠れている。オイ君、何やってるの?

「ピンポンパンポーン。またのご乗車おまちしておりまぁ~~す。ピンポンパンポ~~~~ン。グワァァァ……ッ」


 大爆発、車掌魔人は見事に爆散、その役目を終えた。そして爆風に巻き込まれ吹き飛ばされた俺、キラリと輝き星となった。



 戦いを終えたエヴォレンジャー。レッドが周囲を見渡す。

「イバラニアは?」

「逃げたみたい」

「ほ~んと、逃げ足だけはオレっちより早い」


 イバラニア様とお付きの執事&メイドはいつの間にか戦場ステージから消え去っていた。ちなみに(Aパート)エヴォグリーンの台詞はこれだけ。


「神聖力、セイクリッドパワーも限界か。一旦帰投する」

了解ラジャー


 戦闘終了、エヴォレンジャーは夕日をバックにカッコいいポーズをビシッと決めてから、聖地、採石場を後にした。



 ……なぁ~、ホント勝つ気あるのかな? 俺達。




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