第6話:戦闘員(Ⅰ)

■■「Evolution:04「Missile Attack! 狙われた起動エレベーター」より 秘話(Unknown Episode:02)「戦闘員ソルジャー」■■


 悪の秘密結社「M・I・C 魔幇」の野望は一旦潰えたかに見えた。


 日が沈みきった聖地「採石場」。周囲は昼間の激戦が嘘だったかのような静けさ。断末魔の姿のまま、物言わぬ死体が採石場内の至る所に放置されていた。


 死体の手が僅かに動いている、足が、動き始めた。

「キキイ……」

「キキ……キキイ」


 ポツポツと雨粒、やがて土砂降りの雨となった。今回も「正義の味方ヒーロー」は俺達を容赦無く叩きのめすだけ叩きのめし、颯爽と立ち去って行った。奴等は戦闘が終了し、観客ギャラリー不在となった戦場ステージに用は無い。


 だが、取り残された俺達は……

「キキキキ」

「キイキイ」


 土砂降りの雨の中、ゾンビの如くヨロヨロと立ち上がる複数の人影。スーパーヒーローの煌びやかな戦闘服バトルスーツや悪の大幹部が纏う禍々しい鎧姿とは異なり、チープ&無個性。そう、俺達は……



 そうだ! 俺達は『戦闘員』だ。




『解説(Explanation)』

 魔幇戦闘員は、禁断の超魔技術ロストテクノロジーによって大量生産された人造生体兵器。


 混沌作戦カオスミッションの準備、遂行、そして神聖戦隊エヴォレンジャーと真っ先に対峙する尖兵として戦場に駆り出される使い捨ての万能戦闘マシンである。


 だが、それ以外、詳細な記録は何処にも残っていない。



 俺達「戦闘員」は、幹部の命令を受け「正義の味方」と戦い、大抵は一撃で倒され、死体すら残せず、何時の間にか画面上から消えていく。


 俺達戦闘員の姿形を覚えている者は、一体どれ程いるのだろうか……? 諸君等の印象にかろうじて残っているのは、スターウォーズの「ストームトルーパー」や俺達の原型アーキタイプと言われる「ショッカー戦闘員」位だろう。


 星の数ほど煌めく、数多の「正義の味方」に対し俺達は無謀過ぎる戦いを挑み、儚く散っていく。最弱の兵卒ソルジャー


 特撮の聖地、「採石場」には俺達の、否、俺達の以前、歴代ヒーローと対決し続けた先達の汗と涙と血反吐が染みついていた。

「キイ……」

「キキイ」


 戦闘は終わった。だが俺達は再び立ち上がり。命令されるままに次回の混沌作戦の準備をまでには終了しなければならないのだ。混沌作戦の準備、戦闘、そして後始末。それらは全て下っ端、戦闘員の任務だ。


 まずは片付け、清掃から。爆散した車掌魔人の破片を片付け始める。次回奴等がカッコ良く活躍する為の下準備、発煙用の爆薬を仕掛けたり入念に殺陣たて戦闘バトルシーンの打ち合わせをしたり。深夜近くまで暗黒ブラックな準備作業が続く。


 何故俺達が、宿敵であるエヴォレンジャーがカッコ良く活躍する為の下準備をしなければならないのか? 理由は知らされていない。。それが、俺達戦闘員にあらかじめインプットされている指令コマンドだった。


 雨上がり、作業は続く。皆疲れ切っていた。「キィ」の叫びも弱々しい。

「なあ、あいつ(R079号)見なかったか?」

「そう言えば、見かけないッスね」


 大先輩や仲間が俺(R079号)を心配している。A106号とT154号が周囲を見渡した。黙々と作業を続けている戦友達の中に、俺の姿は無かった。

「どうせ、仕事が嫌になって逃げ出したんだろう」


 T117号が嫌味。『イヤミ戦闘員』だ。何故なら俺達戦闘員には「逃亡」は実装インプリメントされていない。


 自身戦闘員であるT117号が一番良く解っている事だった。

「いや、アイツは簡単に逃げ出すような奴じゃねえ。今日だってリニアモノレールで動けなくなった仲間を担いで脱出したような男だ。多分どっかで仕事してるさ。もしかしたらリニアモノレールの現場かもな。あちらも修復にはかなり時間がかかりそうだし」


 オヤッさんは俺の事を信じていた。

「フーン、もしかしたら消滅……消えちまったのかもな」

「…………」

「…………」


 二人はしばらく沈黙した。混沌作戦で敗北したとしても派手に爆散し、その使命を終えるのは混沌魔人のみ。


 俺達は再利用リサイクルされまた次の混沌作戦に投入される。


 だがしかし、その際文字通り「消滅」する戦闘員が発生すると言う噂が絶えなかった。投入された時より帰還時の人数が少なくなっている事があると言われている。


 おそらくは奴等の強力な必殺技を受け、肉片も残さず消滅したのだろう、と噂されていた。一言で説明すれば「戦死」だ。


 故に「消えた」や「消滅」という表現は、俺達にとって「戦死」を意味していた。だが、そのような公式記録は何処にも存在しない。それでも「消滅」は俺達戦闘員の間で一種の都市伝説のように語り継がれていた。

「アイツは、大丈夫ッス」


 ずっと俯きながら。T154号は小さく呟いた。

「どうだか」


 T117号はまた嫌味を言った。嫌味なT117号の肩をオヤッさんがポンと叩く。

「俺も、アイツは「消滅」していないと思うぜ」

「フン、何故そう思う?」


 オヤッっさんことA106号は空を見上げた。雨上がり、雲間に月、満月だった。

「あの新入りは、「命令されていないのに行動する事が出来る」変な奴だからな。そういう奴はかなりしぶとい……だろう?」


 T117号にも思い当たる節があった。

「哨戒位置……か」

「今日だって命令されていないのに、イバラニア様の所にやって来たぜ」

「アイツはただの「不良品」って事だろう」

「そうかも知れない。まぁ、新入りを心配している俺達も大概不良品だな。カッカッカッ」


 オヤッさん、戦闘員A106号はでっぷりとしたお腹を揺らし、豪快に笑っていた。







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