第5話 上位精霊を超える者
「タツミ君、基本的には私が戦うから出来るだけ力は温存してね?」
「分かってる。相性的に余程の事が無ければヒジリで大丈夫だろ。」
ヒジリは銃を懐から出すと自分のこめかみに向けて引き金に力を入れる。
「おいで! ティルレート=アルセイン!」
銃声と共にヒジリの髪は薄紅色に染まっていくのが見えた。
「また呼ばれたと思ったら……相手は雑魚しか居ないの?」
「相変わらずだな……お前の技は火力が高すぎるから今回は術の使用禁止な。」
「え? わざわざ呼んだのにストレス発散させないなんて酷過ぎない? あ、これって使う前のお約束よね?」
「近所迷惑だから絶対使うなよ!? いいかティル? これはフリじゃ無いからな!?」
念押しする様にタツミはティルの眉間に指を当てる。
「わ、分ったわよ……ちぇ~詰まんないの。」
拗ねた様子のティルを横目にタツミのイヤホンにナギからの声が届いた。
「タツミ君、ティルが出たわね? それに反応したのか解らないけど上位精霊が近づいて来てるわよ。警戒してね?」
「やっほー、ナギ。聞こえてるよ~まぁ任せておきない。上位精霊程度じゃ私の相手にもならないでしょうからね。」
ティルも聞こえていたのか緊張感の無い返事をする。すると同時に目の前に火柱が上がる。
「おっと、お出ましの様ね。」
「アルセイン、本当に精霊術使わないでね?」
好戦的に構えるティルをヒジリが内側から制止する様に声を掛けている。やり取りをしている間に火柱は収束していくと、そこには炎に包まれた人の様な物が見えた。
「貴様は精霊か? 何と言う名だ? 何故に人間と一緒に居る?」
「あら、普通に話せる知能が有るって事はヤッパリ上位精霊ね。それと、人に名前を聞くなら名乗りなさいよ。」
言い返された精霊は不服そうにしながらも返事を返した。
「我は『フツダマ』、長きに渡りこの地に封印されていた。」
「つまり、この火トカゲ共を召喚してたのは無意識って事かしら? 何か見た感じ寝ぼけている様だしね。」
「このトカゲは勝手に寄って来た居るだけだ……ただ人間が憎い……その感情だけ残っているのは覚えている。」
フツダマは自分の両手を見ながら何かを思い出そうとしているが、心の奥底の感情しか思い出せない様子だった。
「だったら、危険だから精霊界に帰ってもらいたいんだけど? 今なら片道切符をお安くお買い上げできますけど?」
ティルの軽口にフツダマは不服そうな表情をする。少し悩む様子も見られたが、しばらくして首を横に振った。
「精霊界……懐かしい響きの気がするが……我は人への復讐と言う感情が優先しておる。邪魔をするなら同胞とて排除する!」
フツダマは言い切ると同時に手をティルの方へと向けて大きな火球を撃ち出した。
「あ~、やっぱりこうなるのよね……面倒ね。」
ティルは呆れた声を出すと同時に火球を手で受け止めると、そのまま火は体の中に吸い込まれるように消えていくのだった。
「何!? 我が精霊術を吸収しただと?」
「アンタね……同じ火の精霊なんだから、上位者の私の方が強いに決まってるでしょ? 精霊力のコントロールを奪う位できるでしょ。」
フツダマの纏う精霊力はサラマンダーの数倍だったが、それでもティルは平然と自分よりも格下と言い放った。
「そうだな、人間界に迷い込んでしまった上位精霊は封印されると土地神として祀られたりしてるが……ティルはさらに上、自然を象徴する龍として祀られるレベルの精霊だ。」
タツミが気の毒そうにフツダマに説明をすると、その表情は驚愕に変わっていくのが見えた。
「まさか……上位精霊のさらに上、龍位精霊だと?」
「正確には。『火龍将』それが私の称号よ。」
「火龍将……? バカな! そんなモノが存在する訳が無い!」
フツダマは大声を上げながら精霊力を強くしていく。それに呼応するように付近に居たサラマンダー達はフツダマにへばり付くと吸収されて行くのが見えた。
「あ~、サラマンダーはアイツのエネルギー源だったのか……だから何かを探すような行動をしていたって事か。」
その様子を見たタツミは今回の騒動の原因がフツダマだけだったと妙に納得したのだった。
「焼き尽くしてやる! 爆炎弾!」
付近のサラマンダーを吸収しきったフツダマは巨大な火球を作り上げるとティル目掛けて撃ち出した。
「仕方ないわね……タツミ。延焼しないように宜しくね。」
「流石にコレはどうしようもないな……お前は火力を調整しろよ。」
短りやり取りをした後、タツミは銃を取り出してこめかみに押し当てる。
「来い! 雷帝刀・鳳雷!」
銃声が響くと同時にタツミの左手に一本の雷を纏った日本刀が具現化されたのだった。それを見たティルは迫り来る火球へ向けて構えた。
「よ~し、行くぞ。被害を抑えるならこれね!」
火球へと走り出すと同時に拳に青色の炎が発生し、急速に炎が圧縮されて行くのが見えた。
「いっけぇぇぇぇ! エクスブロー」
青い炎を纏った拳が火球を粉々に破壊してそのままフツダマへと突進して行く。そのあまりの速さにフツダマも反応が遅れると腹部へと拳が撃ち込まれる。
「ジョン!」
技名を言い切ると同時に拳の炎が爆発してフツダマは上空へと放り投げられるように宙に浮いたのだった。
そのフツダマが地面に落ちると同時にタツミが刀を構えて駆けて行く。
「無効領域展開、開けゲート!」
何かが広がる様にタツミを中心に延焼していた火が消えていく。そしてその空間にフツダマを捉えると居合斬りで目の前の何も無い空間を斬り裂く。
すると剣閃をなぞる様に奇妙な空間が顔を出すと、勢いよくそのままフツダマを吸い込んだのだった。
「相変わらず終わる時は一瞬ね。」
「むしろ一瞬で終わらせないと被害が拡大するだろうが。」
呆気なさ過ぎる終わりにティルが詰まらなさそうにしているが、タツミは被害拡大を抑えるが大変だと言いたそうにしている。
「さて、これ以上は危ないからアルセインは下がっていてね。」
「え? ホラ、まだ火トカゲ達が残って……」
ティルが暴れ足り無さそうにしているが、無視する様にヒジリが表に出る。するとほぼ間を置かずにレン達が合流したのだった。
「相変わらずティルが出ると……ボヤレベルでは燃えてるわね。」
「そうね、まぁ後始末は稲葉さんの仕事だから良いけど……怒られるのが面倒なのよね~。」
付近の状況を見てナギとユキが呆れた表情をしている。後始末は大人の仕事なのだが小言を受けるのは自分達の仕事と分っている様だった。
「まぁ、今回は爆発させて無いだけマシだろ。普段はガス爆発だとかと勘違いされるから毎回ガス局の人に迷惑掛かってるしな。」
「レン君、そうやってアルセインを甘やかすとダメだからね? 今日はブローの方だったけどプロ―ジョンで撃たれると被害が違うんだから!」
レンが今回はマシだったと言うとヒジリは厳しく注意したのだった。普段から後始末が大変なのが伺えた。
「さて、サラマンダー達は上位精霊が居なくなって消えた様だわよ。今回もおしまい! さぁ、稲葉さんのツケで打ち上げに行くわよ!」
ナギが探知で目標が居なくなったことを確認すると打ち上げに行くと宣言する。各自が何を食べるか等を相談しながら帰路についたのだった。
―――――――――――――――――――――
「稲葉指令、今回の被害は……ボヤ14件、家屋半焼3件です。全部ティルレート=アルセインによる被害……」
稲葉は指令室から報告官からの情報を聞いている。
「違うぞ、今回は火の上位精霊『フツダマ』による被害だ。普段からティル君が被害を出しているからとて、思い込んではいかんぞ?」
「は、はぁ……了解しました。報告書を直して来ます!」
「それと……我が国の
稲葉は歯切れが悪そうに言うと、報告官も察した様だった。
「そうですね、Sランク以上の精霊使いは国家間のパワーバランスに左右しますからね。下手に問題児扱いすると外交問題にもなりかねませんよね。」
「そうだ、特にSSSランクのティル君は重要だ。一人居るだけで国家の発言力が変わるのだからな。」
二人は大きくため息をつきながら報告書に再び目を通していた。
『六波羅 凪 パティス=ミュート Sランク』
『鳴海 蓮 ガラント=イクディテンス Sランク』
『三上 悠輝 アラスティア=サルファ SSランク』
『火神 聖 ティルレート=アルセイン SSSランク』
『リィム ハッキネン SSSランク』
『工藤 辰巳 雷帝刀・鳳雷 ExTended』
『クリューエル=ノバンス ??? ExTended』
「この国家でも立ち上げれそうな戦力が一つの高校に通ってるんですから……長官も管理が大変ですよね。SSSのさらに上の
「武器で制限しているとは言え、完全武装した場合は大都市一つは軽く制圧出来るだろうな。幸いな事に彼らは好戦的じゃないのが救いだが。」
同情の眼差しのまま報告官は稲葉の部屋から出て言った。
(まぁ、リストに載って無いSSランク2名とExTended2名が更に居るなんて言えないよな……それこそレピさん達の事は隠さないと過剰戦力で世界から攻撃される可能性が有るんだよなぁ。ExTended自体が大陸に一人居れば良い方なのに5人ってバレたら……考えたくない。)
稲葉は胃を抱えながら被害処理の書類と、タツミ達から送られて来た飲食の請求書にハンコを押すのだった。
精霊使い達の学園生活 @texiru
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