第4話 水と風の精霊

「あのおっさん! あの言い方だと順番に出現したと思うわよ! ちゃんと説明しなさいよね!」

「ボヤいてるんじゃない! 今は目の前に集中しろ!」

「集中してるわよ! レンと違って私は索敵能力が高いから大丈夫だわよ! 自分の心配しなさい!」


 レンとナギが言い合いをしながら目の前に現れた2匹のサラマンダーと向かい合っていた。


「ギギ、オマエタチ、ジャマスル?」


 サラマンダーは二人が自分達に気が付いている事を確認する様に睨みながら移動する。そしてレンとナギがそれを目で追いかけている事から自分たちが視認されていると判断した。


「そうだな、何をするつもりか教えてくれると助かるんだが?」


 レンが話しかけるとサラマンダーはチロチロと舌を出しながら威嚇する様な声を上げた。


「ニンゲン、オシエナイ。ジャマ、スル。」


 サラマンダーはそこまで言うと2匹とも大きく口を開けて火を吐き出した。


「「うわ……弱そう。」」


 二人がつぶやくと同時に炎が直撃するが、炎はすぐに消えて無傷の二人がサラマンダーへと近づく。


「キイテナイ? ニンゲン? セイレイ?」


 不思議そうに2匹とも首をかしげている。


「俺達は精霊使いだ、精霊術には耐性が有るからこの程度は効かないぜ。」

「と言うか……火遊びにもならない程度だわね。こんなの相手に銃を使うのが勿体無いわね。」


 二人はカーディガンとジャンバーの内側からそれぞれ銃を取り出して片手で構えた。


「そう言うなよ、気持ちは分かるが耐性は有っても攻撃手段である精霊術は今の俺達じゃ使えないからな。こればっかりは仕方ない。」

「はぁ、おっさんから弾薬は節約しろと言われてるけど、今回は私の索敵能力も必要そうね、いくわよ。」


 レンが残念そうな表情で使う気満々のナギの方を見てため息をついている。


「今回もあの二人を同時にか……やかましくなるんだよなぁ……」

「諦めなさい。どうせ主導権は私達に有るんだから。」


 二人はそれぞれに銃をこめかみに当てると引き金を躊躇いなく引く。


「来い! ガラント=イクディテンス!」

「来なさい! パティス=ミュート!」


 銃声と共に二人の頭が大きく揺れると同時に髪の色がレンは青色、ナギは薄緑色へと変化していく。


「ひっさしぶりに出て来たぜ~! さて、今日の要件は何だ! モチロン可愛い子も居るんだよな?」

「ガラント……アンタ私が居るのにそう言う事を目の前で言うんだ? 精霊界から一歩出ればすぐに他の女に目移りしやがって! アンタがそんなんだと私がとばっちりでナギに怒られるんだから!」


 ガラントと呼ばれたレンと同じ姿をした精霊はナギそっくりな精霊に耳を引っ張られて怒声を浴びせられていた。


「パティス……少しうるさいから声のトーンを下げるわよ……後ガラント、いい加減にそのナンパ癖を治しなさい。」


 ナギの精霊、パティスと呼ばれた精霊から再び髪色が戻ると更にガラントを引っ張って地面へと投げ飛ばしたのだ。


「い、いやぁ……ナギさん。ホラ、俺はこうしないと俺らしくないって言うかさ? 俺のアイデンティティってヤツだから……大目に見てくれません……ぎゃ!」


 言い訳をしているガラントをナギは足で踏みつけると踵をグリグリを背中にねじ込み始めた。


「それでレンがナンパしたとか私に迷惑がかかるのよ? ついでにレンもね? そのせいで私が重すぎてレンが逃げる様にナンパしているとか言われているの分かってるわよね!?」

「スミマセン! でも性分なんです……ギィィィヤァァァァァ!」


 二人のやり取りを呆れた様にサラマンダーは眺めていたが、今のうちに移動しようと思ったのか二匹は顔を見合わせて移動を開始しようとした。


「勝手に居なくなるな! この元凶どもめ!」


 銃声が響くと同時に二匹の前の地面が風によってえぐられる。サラマンダーを驚いた様な表情で足を止めて振り返ると、そこには薄緑色の髪をしたパティスが切り替わって立っていた。


風の軌跡ウィンド・バレル。空気を弾丸の様に撃ち出す風の銃身を作るのが私の精霊術。背中を見せると撃ち抜いちゃうぞ。」


 両手に銃を構える様な仕草をすると風の弾丸が次々と打ち出されて行く。


「ギィィヤァァァ!」


 サラマンダー達は弾丸に撃ち抜かれると霧散した。そしてこれで終わったかと思った時だった。


「レン! 後方に3匹居るわよ!」

「了解!」


 黒髪に戻っているレンは水で出来た刀を持って後方から迫って来ていたサラマンダーを次々と斬り伏せていった。


 一瞬で終わったのだが二人の警戒は解けていなかった。


「数が多すぎる。不自然過ぎるな。」

「ちょっと待って、私の『風の知らせウィンド・ウィスパー』で周囲を索敵するわ。」


 周囲の風が集まる様にナギへとゆっくりと流れる。


「20……いや……30,増えてる?」

「は!? いくら一匹一匹は雑魚でも数が多すぎるぞ? どう言う事だ?」


 予想外の数字を言われたレンは驚いた様に確認すると、ナギは何か原因になる物を感じた。


「コレは……上位精霊が居るわね。そいつの影響で下位精霊が自然発生している様だわよ。」

「今回の原因はサラマンダーじゃ無くて別の上位精霊って事かよ……面倒だな。」


 ボヤいているレンは水の刀『流水刀るすいとう』を振り回していつの間にか近寄っていたサラマンダー達を斬り払う。


「位置は……タツミ君とヒジリちゃんが近いわね。聞こえてる?」

「聞こえてるよ。私達が上位精霊に対処すればいいんだね?」


 イヤホンからヒジリの声が聞こえると同時にナギが位置をナビゲーションする。


「今の位置から北へ300m程の所に居るわ。急に活発化したのか下位精霊が急に湧き出しているわよ。私達も駆除しながらそちらに向かわよ。」

「了解、付近に沸いた下位精霊は任せたぞ。」


 タツミの返事と共にナギもパティスと入れ替わって戦闘を開始する。レンとユキに指示を出しながら発生した下位精霊の駆除を的確に指示しながら目的地へと近づいて行くのだった。

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