第11話 悪人、悪者、ヒール

 外に出る。

 桜がもう、散り始めていた。


 まあ、別に桜を見に来たわけではないけども。


「よく気がついたな」


 目の前には黒いフードをすっぽり被った女の子。

 顔は見えないのに、足の露出はやたらと多かった。


「来るなら、このタイミングかなって」

「まあ、あいつの能力は強力だしな」


 私はこの女の子を知っている。


「なあ、聞いていいか」

「今更、聞くことなんてある?」


 ここまでくると、もう旧知の仲……と、言っていいのかな。


「どうして、私を殺さないんだ」

「……」

「おい、黙るな。質問にはちゃんと答えてくれ……」

「…………」

「おい……頼むよ……私、死にたいんだよ」


 今にも消え入りそうな声で、女の子は天使のような音を紡ぐ。





 説明したかった。





 私は、貴女を殺したくない。


 できることなら、一緒にいたい。

 ただ、横にいてくれるだけでいい。

 本当に、本当にそれだけでいいのに。


 でも、それはできない。


 だって……そういう決まりだから。





「もう……ヒールの役目を終えたい……」


 世の中には、表と裏が存在する。

 ヒーローが表側だとするならば、ヒールは裏側。


 ヒールは悪役。


 極秘で存在するルールの中だけに存在する、役割。

 これは、機密情報らしい。





「あんたと会うのは、これで五回目だ」

「そうだね」

「私がヒールをやるときは、必ずあんたがサポーターとしてヒーローのそばにいた」

「うん」

「そして、私はいつも殺されかける」

「…………」

「ヒーローにじゃない。サポーターである、あんたにだ」


 ヒーローが殺されそうになると、私が戦闘を肩代わりする。


「……うん」

「あんたは私と戦うたび、サポートしてるヒーローから離れられる。そりゃそうだ。あんなすごい戦闘技術を見せつけられたら、自信とかなくすよ。私だって、自信を無くした」





 もう何度目かわからない、そんな言葉を……彼女は口にする。








「あんたが、ヒーローになればいい」

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