第7話 ヒーロー会議は、10分間

 ヒーロー会議が終わった。

 次に倒す相手をわかる範囲で説明し、行ける者のみが明日の早朝六時、東京にある廃工場へ集合だと司会者は告げた。


 十分間、それだけの会議である。

 たったそれだけの会議だ。


 しかし、真面目に聞いていたヒーローは何人いただろうか?


 ほとんどのヒーローは、十五歳にも満たない子供ばかり。

 子供たちは最初から最後までおしゃべりしていた。

 中には遊んでいる子までいた。


「お疲れ様、翔くん」

「え、あ! 大月先輩!」


 大ちゃんとすみれちゃんを連れて、司会者である後輩の翔くんに挨拶をする。

 どこかぐったりとして見えるのは、気のせいではないだろう。


「先輩、この会議って意味あるんですかね」

「意味はあるよ。でも、翔くんの求める意味はないと思う」

「ですよね……あはは。ごめんなさい、弱気なんて吐いちゃって」

「いいよ、翔くんが元気であること、それが一番だ」


 大ちゃんとすみれちゃんは、何も言わない。

 いや、気を遣っているのだろう。


 この二人は、想像以上に大人だ。

 今の会話で私たちの関係性を察してくれ、気遣いまでしてくれる。

 そこらでわいわいしている子供たちとは、あまりにかけ離れた子たちだ。


「あの、その子たちは……」

「こちらのクソガキが、神宮司大門。今年から私がサポーターを務めさせていただくヒーロー。こちらの可憐な少女は、上条純恋。大門の友達だよ」

「よろしく」

「よろしくお願いします!」

「なるほど、噂の二人ですね! 二人とも、よろしくお願いします」


 引っかかる言葉があったな。

 噂、とはどういうことだろう。


 大ちゃんに関しては想像できる。五年目にもかかわらず、悪者を倒した経験がない。まあ、そんなところだと思う。私の耳に入っていないだけで、そういう話はあったのかもしれない。


 私、集団行動が苦手だからなぁ。そのつけが回ってきた気分だ。


 しかし、すみれちゃんに何の噂があるのだろう。

 こんなに可愛い幼気な少女に何の噂を立てているというのだろう。

 場合によっては、噂の根源を私が叩き潰すことになってしまう。


「あのさ、翔くん。噂っていうのはちょっと……ていうか、どういう噂か知らないんだけど」

「ああ! ごめんなさい! またつい余計なことを……」

「俺に関しては、あやの想像通りだ。純恋のことが気になるんだったら、本人に直接聞け」


 大ちゃんが親指ですみれちゃんのことを指す。

 それに困る少女、上条純恋。


「こら! め! 人のことを指で指さないの!」


 パシッ! と親指を突き出していた右手を叩く


「いった! いってえぇ! 何もそんな思い切り叩くなよ! ただでさえ筋肉でか……いや、全部でかいわ」

「おいもういっぺん言えクソガキ、今度は右手を吹き飛ばしてやる」


 なぜか恐怖に怯える三人。

 私、何か変なことでも言っただろうか?


「ていうか、こんな人がいるところで聞けるわけがないじゃない。すみれちゃん、ごめんねー。うちの二人が本当に失礼なことを致しました」

「あ、ああ! いえいえ! お構いなく……」

「あの、すみれちゃんが嫌じゃなかったらでいいんだけど、このあと三人で食事でもどうかな?」

「へ!? いいんですか!? ぜひぜひ! ぜひに!」


 食事の誘いをした。それだけで、すみれちゃんは怯えた顔から満面の笑みに早変わり。まるで季節外れの満開のヒマワリを見ているようだった。


 ああ、なんて眩しい子なのだろう。

 この笑顔、守らなきゃ。


「先輩、それ、俺は含まれていないでしょ」

「なんか言った?」

「いえ、なーんにも」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る