君の隣にいたいから

こむぎこちゃん

第1話

『……ごめん、千秋。守れなくて』

 春陽の声に悔しさがにじみ出ているのが、電話越しでもわかる。

「いいの、私のことなんて気にしないで! 私は、春陽の音楽が大好きだから。これからも、ずっと応援してるからね」

『……ありがとう』

「じゃーおやすみっ!」

 春陽が何か言う前に、私は通話を切った。

 じわっとにじんできた涙をごまかすように、私は机に突っ伏した。

 わかってる。

 春陽は私のことを心配してくれてるんだって。

 それでも、別れるなんて嫌だよ……。


 私と春陽は幼なじみ。小学校卒業と同時に、彼氏と彼女としてお付き合いを始めたんだ。

 それとほぼ同時期に、TikTikで音楽投稿をしていた春陽はなんとデビューすることになったの!

 顔出しもしていたから、中学生アーティストとして有名となるのと同時に、クールイケメンって話題にもなった。

 そんなときだったんだ。

 だれかが、私と写った写真をネットに上げてしまったのは。

 あいつは誰なんだって、一時期すごく話題になってしまったんだ。

 それを見た春陽はすごく責任を感じてしまって。

 ……別れた方がいいって言われたんだ。

 春陽は受験して音楽を学べる中学に通っているから、学校で会うことはない。 外で二人きりになるのも、やめた方がいいって。

 今まで一番近くにいたのに、遠くから見ていることしかできないなんてやっぱり――

「ぎゃーっ! マジでーっ!?」

 突然、隣の部屋からお姉ちゃんの叫び声が聞こえてきて、私はびくっと肩をふるわせた。

「ねえ千秋! これ知ってる!?」

 私を呼ぶ声がするけど、正直今は行きたくない。

 ……でも、これ無視すると面倒なんだよな……。

 私は重い足取りで隣の部屋へ。

 入るやいなや、お姉ちゃんがスマホの画面をばっと見せてきた。

「星原玄弥と古垣唯が結婚だって!!」

「え、あの2人が?」

 画面には、『あの大人気アーティストと女優、電撃結婚!?』というタイトルがでかでかと書かれている。

「びっくりだけど、確かにお似合いだよね~。うわー、うれしすぎる~!」

 お姉ちゃんの言葉で、はっとする。

 そうだ。

 これなら……!


  * * *


「こんにちは! 星川ちあき、17歳です! よろしくお願いしますっ!」

 私はカメラに向かって笑顔で言った。

 司会者のいくつかの質問に答えてから、カメラの外の待機場所へ。

 今日から3日間、「恋旅~この旅で、ぼくらは恋に落ちる~」の撮影なんだ。

 え、どういうことだって?

 実は私、女優として活動してるんです!

 春陽と別れたあの日、ビッグカップルって言われてお祝いされるくらいの芸能人になるって決めたんだ。

 そうしたら、春陽だって付き合ってくれるんじゃないかって。

 初めはそんな下心満載だった私だけど、気づけば演技にのめり込んでいて。

 ネット配信のドラマで主役を演じたことがきっかけで、今回のオファーをもらったんだ。

 この番組は、初対面の高校生芸能人たちが旅行を通して恋をする、という恋愛リアリティ番組。

 最初は出演するか迷った。

 だって私は、春陽のことが好きだから。

 だけど――

「それでは、お二人目の登場です!」

 司会者の言葉で、私はぱっと振り返った。

 出演者は別々の車に乗ってきて、1人1人登場する。

 誰が出演するか、この場で会うまで知らないんだ。

 でも……。

「どう、も――スガヤハルヒです」

 一瞬の間があったものの、なんとか取り繕った春陽。何事もなかったかのように質問に答えている。

 カメラが回っているときは、お仕事モードを崩さない。

 もうちょっとびっくりしてくれてもいいのにな、と思うけれど、さすがは芸能人5年目だ。

 こちらへ歩いてきた春陽は、私の隣に立った。

 数年ぶりの距離感に、心臓がドキドキしている。

 ちょっとくらいいいかな、と声をかけようと口を開いたとき。

『……なんでいるんだよ』

 春陽が前を向いたまま小声で聞いてきた。

『だって、私もオファーもらってたんだもん』

『いや、それはそうだろうけど』

『春陽だって知ってるでしょ? 私、この3年間、すっごくがんばったんだからね』

『……そうだな。3年でここまで来られるのは、すごいと思う』

 そう言って小さく笑う横顔に、ついドキッとしてしまう。

『でも、これに出るなら、なんでおれが話したときに言わなかったんだよ』

 そう。

 春陽は私に、この番組に出ることを宣言してきたんだ。

 諦めろって意味だったんだろうけど、私はそのおかげで出演を決められた。

 なんで言わなかったかって言ったら、そりゃあ……。

『だって春陽、出演やめるでしょ?』

 少しだけ春陽の顔をのぞき込むように首を傾けると、すっと目をそらされる。

 やっぱり図星だ。

『私は今回、元カレをもう一度落とすために来たんだから。……覚悟しておいてね』

 私の言葉で、春陽はもう一度ふっと笑った。

『次の人、来るから』

 そう言って前を向く春陽にならって、私も前を向く。

 絶対に、他の子には負けない。

 この番組が終わるときには、春陽の『元カノ』なんて卒業してやるんだから!

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