異端
よく分からん生命体
一話 地獄
夢を見ていた。どんな夢だったのか思い出せない。
思い出す必要も無い。
こんな場所で夢の深掘りなんかする必要ない。
「お前、生きてるか?」
見上げれば、そこには俺よりも一回り大きい子がいた。
鬱陶しい、話す気力もない。
「あ、おい! また寝るんじゃねぇよ!」
話をしたくないから顔を下げただけだ。
反応がないだけで揺らさないで欲しい。揺らされる側も体力を使う。
「煩い、要件はなんだ。」
「お、生きてんな! 良かった!」
何が良かったのか、こっちはたまったものではない。
「なぁ、俺と一緒に逃げ出してくれないか?」
何を言っているんだこいつは。
この家畜小屋から出れるわけが無い。
そう、ここは家畜小屋なんだ。
ここにいるのは子供だけだ。日に日に連れて行かれて毎日のように連れて行かれる。
あの化け物に食わされるためだけに。
あれ、あの化け物ってなんだっけ……。
「嘘って思ってんだろ。
ほんとだぞ!あそこに出られそうな穴を見つけたんだよ!」
頬を膨らませて睨んでくる。
こいつの行動は無駄なことが多い、こんな子がよく生き残っていたものだ。
いや、こんな子だから飯の奪い合いで勝てるんだろう。
体格がいいからよく食べているんだろうな。
よくこんな腐敗臭に満ちている空間でいっぱい食べれるよ。
「思ってない。無謀な夢を持っているだけだ。」
「お前、嫌な奴だな。」
君の方が嫌な奴だ。無駄なことをして人のことを巻き込まないでくれ。
「おい、今回は何匹出荷するんだ?」
大人たちの声だ。いつも通り子供たちが連れて行かれる時間だ。
「二匹だよ。あそこにちょうど固まっているし、あれでいいだろ?」
ここでは子供たちは固まってることなんてそうそうない。
つまり俺たちのことを言っている。
最悪だ、二匹と言っていたからこいつが俺に話しかけなければ連れていかれなかっただろう。
大人は俺と少年を掴んで持ち上げた。
立派な腕だ、食事をしっかりとって仕事をしているんだろう。
なんで俺がこんな目に。
「離せよ!!」
暴れても意味ない。
俺たちじゃ大人たちには絶対に勝てない。
「うるせぇ!」
ほら、暴れたから蹴られた。
暴れなければそんな汚らしく吐くことなんてなかったのに。
「おーい!”あの方”が夜に連れてこいだそうだ!」
「あー? せっかく見つけたってのに。」
そう言ってタグを俺と少年の手首に手際よく付けて小屋を後にする。
「さっきの、君の無謀な夢の話だが。乗ってあげる。」
「……え。」
連れていかれることは確定した。
でもタグがつけられて猶予ができたんだ、少しだけでも夢を見たっていいじゃないか。
どうせ死ぬんだから。
「いいのか!?」
「君から言ってきたんだろう、僕は君を利用させてもらうよ。」
利用すると言っているのに目をキラキラとさせて、そんなに嬉しいのだろうか。
「いいよそれ……オェ……。」
「汚いな!俺に向かって吐くな!」
びちゃびちゃと俺の服にこいつの吐瀉物が付着して最悪だ。
脱出前にこんなに吐き出して、大丈夫なのだろうか。
「い、行こう……」
終わったようだ。
歩き始めたから後を追えばいいのだろうか。
先程言っていた”穴”とは一体何なのだろうか。
ここにはもう何年もいるがこの広くて白い空間に穴なんて無いはずだ。あれば目立つ。
「着いた、これだよ。」
穴は穴でも換気口だ、こんなものは何ヶ所もある。
たしかに俺たちなら入れるかもしれないが奥には換気ファンがあって通り抜けることなんてできない。
俺は思っていたよりも期待していたようだ。
「君を信じた俺が馬鹿だったよ。」
「いやいや!この中音がしないんだよ!」
(音か……。)
本来換気口の奥からは喚起ファンの回る音が聞こえるが、この換気口からはその音が聞こえない。
もしかすると中のファンが壊れて止まっているのかもしれない。
そうであれば抜け出すのに良い機会だ。
「……わかった。ただし君が先に行け。」
「おう! でもなんで俺が先?」
「気にするな。」
ファンが急に動き出したらこいつを巻き込ませて止めよう。
換気口の中に入れば想像通り暗くて汚かった。
油の混ざった埃が体に張り付いて虫も湧いている。手入れなんてされたことがなかったのだろう。
「なぁ、お前は外に出たら何がしたいんだ?」
やっぱり俺はこいつの思考を理解できない。
外に出たら何をしたいかなんて、そんなこと考えていない。
”死んじゃいけない”から逃げるんだ。
「やりたいことなんて何も無いよ。」
「そっか、俺はヒーローになりたい!ヒーロー になって、あの子たちを助けて腹いっぱい飯を食うんだ!」
「いい夢だな。」
下らない。なんだその夢は。
どうして助けるなんて思考になれるのだ。
今俺たちは命懸けで抜け出そうとしているんだ、助けようとすれば危険度は更に上がるだろう。
そうだ、こいつは俺に声をかけた。純粋に人を助けようとしているのか。
否、人間はみんな裏がある。きっとこいつも俺を助けて悦に浸ろうとしているだけだ。
「あ、出口だぞ!」
「待て、大人がいるかもしれないから様子を見ろ。」
「お、おう。」
物音がする、何か大きなものが這って動いているようだ。
「ハヤクナオセ。餓鬼ドモガ見ツケテ出テイクカモシレナイダロ。」
「一人だけでは無理です!あと二人は必要となりますよ!」
言い争いをしているようだ。
片方は喋り方に違和感を感じる。
「オレニ逆ラウノカ?」
「ち、違います!どうかご慈悲を……うわぁ!!」
一体何が起こっているんだ。
「やめろぉぉぉぉ!」
「あ、ちょっと待て!」
何をしているんだあのバカは。
まぁ、俺には関係ない。
あいつが捕まって連れていかれている間に逃げ出すとしよう。
「くっそ!離せよ!」
すぐに捕まったようだ。
しかし、いくらなんでも早すぎる。一体どうしたというのだ。
「ヒッ……」
失敗した。
俺たちは甘く見ていたんだ。
あの”化け物”を。
「ナンダァコノ糞餓鬼ハ?」
黄土色の肌に、クラゲのような姿をして触手を生やしている。
一本の触手にはあのバカが捕まっていて。
もう一本の触手には大人の首のない死体がぶら下がっている。
失敗した、逆らってはいけなかった。
殺される……。
今すぐ戻れば、夜が来るまでは生き残れるだろうか……。
「助けてくれよ!」
は……?
「ナンダ?仲間デモイルノカ?」
「あぁそうだ!あの穴の中に俺の仲間がいるんだよ!」
やっぱり、馬鹿の提案に乗るべきじゃなかった!
「ふざけるなこのバカ!!」
あぁ、だから感情的になるのは嫌なんだ。
「ホラ捕マエタ」
捕まった。
もう終わりだ。
夢を見ていたかったと思うのは初めてだ。
「クッソ!どうする!?」
「黙れ、お前のせいで捕まったんだ。もうどうしようもないよ。」
どうしてそんな青ざめているんだ。
後先考えずに行動したんだから当然だろう。
「オ前ハ暴レタリシナインダナ?」
「暴れても無意味だろ?」
気色の悪い笑いをあげて何が楽しいんだこの化け物は。
化け物の考えていることなんて分からないし分かりたくもないが。
「オ前ハ後デニシヨウ。ヨク見テオケ?」
化け物は首のない死体をバリバリと大きな音を立てて捕食して、あいつの方に向かった。
「ま、待て、来るな!」
無駄な抵抗だ。何をしようが結局食われるだけなんだから。
こいつ、漏らしている。
汚らしい。
上と下の両方からなにか垂れ流さなければ気が済まないのか。
「助け……」
言い終わる前に頭から食われたな。
助けを求めていたが、俺には何も出来ない。
大人しく先に死んで待っていろ。
「……次ハオ前ダ。」
不満気にどうしたというのだ。捕食するなら早くして欲しい。
そう、動かして……って、どうして持ち上げている?
「オレハ食ベル時ニ泣キ叫ブヤツヲ食ウノガ好キナンダ。」
何を言っているんだこいつは。
「オ前ハドンナ悲鳴ヲ上ゲル?」
……あぁ、そういう事か。こいつは俺のことを足からゆっくり食べようとしているんだ。
せめて一思いに頭からが良かった。
”バキバキ”
「っ……!!」
痛い。尋常じゃない痛みだ。
つま先からバリバリと骨が砕かれて行くのがわかる。
肉が引きちぎられる痛みは最悪の感覚だ。
「モット鳴ケ!」
「かはっ……!?」
腹を思い切り触手で締め付けて、その上腕を引きちぎる気か……?
もうぼうっとしてきて痛みを感じなくなってきた。
早く意識がなくなってくれ。
「死ンダカ……不味ッ!?」
「痛ッ……!」
なんだ、何が起こった?
突然頭から投げ落とされたのか頭が痛い。
「……は?」
どうなってる。足が、生えてる……?
この化け物は確かに俺の足を
「オ前、神ダッダノガ……!」
カミ?
何を言っているんだこいつは。
「オレノナワバリカラデテイゲェェェ!」
「グハッ……!」
巨躯の体当たりはこんな痛いのか。
壁と化け物の巨体に挟まれて骨がバキバキと折れる音がする。
「ナニ、するんだ。」
痛いじゃないか、フザケルナ。
「ヤッパリカミダ!シンデナイ!」
「コンナモンジャ死なねぇヨ!」
なんだかイライラ、シテキタ。
こいつ……コロシテいいノカ?
「いいんだよ?」
殺す。
コロス
コロス
コロス
コロス
コロス
コロス
コロス
コロス
コロス
コロス
コロス
コロス
・触手による右の大振り。
ナニカミエル。
「ナッ!ドウシテヨケレル!?」
コイツガ次にどうやってウゴクのかミエル。
次は「正面から突っ込んでくる」。
「ガァァァァァ!」
真正面から突っ込んでくるだけなら避けることは簡単だ。
避けたあとは、ショクシュヲツカンデヒキチギル。
「ギャァァァア!?」
ムシノアシヲヒキチギルノトソウカワラナイ。
殴られたら痛い、血を浴びれば気持ちが悪い。
なのに、どうしてなのだろう。
タノシイ。
コイツをコロスニハドウスレバイイノダロウ。
・心臓を貫く。
ソコカ。
「シネェェェ!」
「正面から触手を叩きつけてくる」のは見えている。
「死ぬのはお前だ。」
心臓を貫く。
チカライッパイニナグレバイイ!
「グァァァァ!?」
拳が化け物の体に刺さって、なにか硬いものが壊れると化け物は動きを止めてぐったりとした。
「……死んだのか。」
生き物を拳で殴るのは不快だ。
まだ拳には肉を抉る感覚が残っている。
血を浴びて、生臭くて鉄臭い匂いは吐き気がする。
だけどなんでだろうか。
「ぷっ……あははは!」
ワラワズニハイラレナイ。
異端 よく分からん生命体 @yokuwakaran-seimeitai
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