かがみもち⭐︎オカルトちゃんねる
国際魔法少女通称『筆下ろし』
廃病院を探検してみよう!
第1話 2人は配信者!
「あー、テステス。オッケー?映ってるね?」
深夜近い時刻。ある山林に2人の少女がいた。
「じゃあ、さっそく始めましょー!
“かがみもち⭐︎オカルトちゃんねる”、今日のテーマは『怪奇現象の目撃多数!な廃病院』!!
そこを配信しながら探検してくよー」
若さ溢れる溌剌とした声。
彼女──十五夜望子(もちづき・もちこ)は、有名配信者になることを夢見る女子中学生だ。
「コメントありがとー…って、不法侵入?
それなら他の目撃談もそうじゃん。え、証拠に残るのがダメなの?
それじゃ今日の企画どーすんのさー」
たちまち望子の頬が餅のように膨らむ。
生きた日本人形の如き愛らしさ。現状、コレ目当ての視聴者がおよそ半分とされている。
そもそも未成年が保護者も連れずに、深夜の山奥にいること自体が顰蹙ものだが
そんな意見は初回配信から無視されている。
「かがみちゃん? 今日もいるよー。
おーい、呼んでるよー」
画面の向こうを睨め付けていた視線が、横で機器類を調整していた少女へ向く。
遠目でも美少女だと分かる圧倒的な造形美。
なるほど古代ギリシャの彫刻家は、2000年先を見通していたのかもしれない。
「本日は“かがみもち⭐︎オカルトちゃんねる”の配信をご視聴いただき、ありがとうございます。
お呼ばれにあずかりました、当チャンネルのアドバイザー“かがみちゃん”でございます」
恭しく腰を折って挨拶する彼女は、望子がネットで知り合ったオカルトヲタクだ。
瓶底メガネ、くたびれたジャージ、長らく切り揃えられていない黒髪。
それら全てを貫通する見目麗しさこそが、当チャンネル視聴者層を二分する理由である。
「さて、本日訪問いたしました廃病院。
こちらはここ数年に渡って、様々な怪奇現象が目撃されております。
それ以前にも肝試し等で訪れる方はいらっしゃいましたが、特に最近になって何故か目撃例が急増しているとのことですね」
見えない台本から流れ出るのは清流の調べ。立板に水とは、今この時のためにあった。
「こちらの病院、元々はこの山の鉱山資源を採掘するにあたって、怪我人を優先的に受け入れるために建設された外科医院ですが
廃坑に伴い役割も予算も減少して、やがて5年ほどで廃業。それが28年前。
以来、解体されることもなく、設備等もそのまま残っています。そうした経緯から、一時期は肝試しスポットとして人気を集めていましたがかなり山道を登った先にある上に交通の便も悪いため、一部の好事家にのみ語り継がれる存在となっていました。ですが、ここ数年で状況は様変わりしてきました。廃業当初はさほど怪奇現象で騒がれることのなかった当病院ですが最近になって多数の怪奇現象報告がネット掲示板を中心に寄せられるようになりましたその現象というのも実に多岐に渡り揺れる人魂謎の血文字院内放送から流れる音楽血塗れの女謎の呻き声果てには謎の怪物まで現れたとかそもそも病院というのは傷病にまつわる施設のため心霊現象の報告には枚挙に暇がありませんが多くの場合において心霊の存在を仄めかす伝聞が残るのみで実際に怪物を目撃したというのは希少な話
「あー、ダメダメ!ストップ!
早口ヲタ語りやめ!何時間掛かるのソレ!」
望子が勢い任せに、かがみちゃんを肩で押し退ける。
「ですが、視聴者の皆様に今回の配信背景をご承知いただかないと……よよよ……」
言の葉を堰き止められたかがみちゃんは、潤んだ瞳で望子を見つめていた。
手にはヒアルロン酸点眼薬。
「そーいうのは、ウチが探索してる間の賑やかしとかでやっといてちょうだい!
撮れ高見つけるまで視聴者の興味引くのが、そっちのお仕事でしょ」
かがみちゃんが儚げに煽れば、望子が軽快に地団駄を踏む。
美少女2人が小競り合いをしているだけで、いつもの視聴者は小盛り上がりだった。
「コメントうるさい。イジメてなーい。
ほらもうパソコンはいいから、中継機とかやっといて。カメラ繋ぐから」
鞄から取り出したるは、市場価格50万円以上の業務用ビデオカメラ。
その他の配信機器も、到底女子中学生が買えるような代物ではない本格的なものだ。
全部、親にねだって買ってもらった。
「画面よーし。マイクよーし。バッテリーよーし。通信よーし。諸々よーし」
指差し確認は親から叩き込まれている。
大きな神社ともなれば所蔵は多く、何かをするたびに確認事項が発生するのである。
年末年始だけの巫女にも厳しい徹底ぶりだ。
「それじゃあ、いってきまーす!」
右手にビデオカメラ、左手に懐中電灯、ヘッドライトに、腰には小物入れポーチ。
皺一つ無い作業服に身を包んだ日本人形が、鼻歌混じりに山道を駆けていった。
かがみもち⭐︎オカルトちゃんねる 国際魔法少女通称『筆下ろし』 @fudeorosi
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