溶けないチョコレート

崖淵

溶けないチョコレート

私の好きな人はあの人。

野球部のキャプテンで、私はマネージャー。クラスメイトでもある。


我ながら彼とはかなり仲が良い。…仲が良過ぎてあんまり女性として意識されてないみたいなのがアレなんだけど。そんな彼には、好きな人がいるらしい。

で、どうしたら良いか聞かれた。

私にそれを聞くか!?と思ったが、答えてしまう私。

しかも丁寧に色々相談にものってあげて、アドバイスもいっぱいしてあげてしまった。

だって、彼と話すのは楽しいし、少しでも長くしゃべっていたいと思ってしまうから。


高校生最後の夏が終わり、私も彼も野球部を卒業した。

一学期の終業式。私は彼に呼び出された。


すっごい嬉しそうな顔で彼が言ったのは、好きなあのコと付き合えたという報告だった。知ってる。風の噂で聞いてたから。

でも、本人の口からは聞きたくなかったよ。


そして彼が取り出したのは小さなラッピングされた紙袋。

彼女が出来たのは私のお陰だからってそのお礼らしい。

『みてみて!』と中身を開けさせられる。


レースのついたかわいいハンカチだった。


「いやぁ、俺はチョコでいいんじゃないかって言ったんだけど、『こんな真夏にチョコレートなんて溶けちゃうでしょ!?』って。」


そうかぁ。

このひとの事はよく知っている。こんなかわいいハンカチを選べる人じゃない。


大好きだった彼からもらった初めてのプレゼント。

大好きだった彼が大好きな彼女からアドバイスをもらって買ったプレゼント。


チョコレートで良かったのに。

チョコレートだったら溶けてなくなるのに。


そのハンカチは私の机の引き出しの一番奥に今も溶けずに残っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

溶けないチョコレート 崖淵 @puti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ