誰が為

つきもと

君は

友達が死んだ。親友と呼べるほど近くもない、でも決して友人と呼べないほど遠い間柄でも無かった。

葬儀に並んでも何となく現実と思えなくて、ドラマみたいだななんて不謹慎なことを考えてしまった。


あれから2ヶ月。俺は放課後の教室でぼーっと茜色の空を眺めていた。そんな時、ふと人の気配を感じ、ドアの方に目をやると


「よ。」

死んだあいつが居た。


「え、おまえ…。」

「出てきてやった、お前のために。」

「なんで…。」

「何でってそりゃお前、来る日も来る日もぼーっと窓の外見て。みーんな心配してるぞ。もちろん俺もな。」

「…ごめん。」

「いいって。で、その原因は俺って思っちゃってもいいのかな。」

困ったように笑いながらあいつはそう言う。


「話してみなって。ほら俺幽霊だし。」

「おれは…。」

「うん。」

「ずっと普通に息して生きてきた。」

「うん。」

「でも、お前が死んでああ人って死ぬんだって思って堪らなくなった。何でこんな風に思うのか分からない、けどお前の好きな食べ物って何だったっけとかこの色好きだったよなとか思うたびに…何でもっと話さなかったんだろうって苦しくなるんだ。」

話している間に涙が溢れ出て止まらない。胸が軋むように痛んだ。


「お前、結構優しかったんだな。」

唐突にあいつはそんなことを言った。

「知らなかった。ずっと一緒に学校通ってたのに」

ありがとうと言わんばかりの笑みに自然と涙が止まる。

「なあ、俺はさ死んじまった。でも、そんな俺だって今新しいお前の事を知れた。だから、お前も新しい俺見つけられると思うんだ。ほら、成績とか親しか知らない癖とかさ。」

知ってる?なんて言いながら過去の思い出を語るあいつ。


「お前らは生きてるから今と未来しか見えてないのかもしれないけど、俺は未来から離脱しただけで過去は一緒にいるんだよ。無くなったりなんてしてないんだぜ。」

「…それでも!!」

大きくなった声が辺りに響く。

「俺はお前から、お前の声で、お前の事教えて貰いたかった。」

ごめんなと静かに呟くあいつに俺は問いかける。


「なあ、お前さ幸せだった?」

突然の問いにあいつは面食らった顔をしていたが、少し考えてこう答えた。

「分からない。」

「何だよそれ。」

「俺はもうそういう事は判断出来ないから。」

だからと付け加える。


「お前が決めてよ。俺が幸せだったかどうか、これからいっぱい俺のこと知って。」

な!と笑うあいつに馬鹿じゃねえのと恨み言を吐きたくなる。重いんだよばーか。でも、


「覚悟しとけよ、お前が生まれた時から全部知ってやるからな。」

「おう!」


嬉しそうに笑うあいつの顔が沈む夕日と共に徐々に消えていった。

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誰が為 つきもと @dg_mot

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