恋する乙女
苺太
あなたの好み
私の好きな人の好きな人は私ではない。
それは私がそばに居た23年間ずっと変わらない。
彼とは3歳からの幼なじみで、私はずっと彼が好きだった。
私の初めての失恋は10歳。
彼が、花が好きだというその子に歪な花冠を差しだしながら、学校近くの公園で好きだ!と叫んでいるところに遭遇した時。花冠は、私が教えたものだった。
あの時感じた苦しいほどの嫉妬心を生涯忘れることはできないだろう。
彼に好きな人ができたと報告される度に苦しさが募った。
15歳、卒業式の日。
彼の目線の先が隣で話す私ではないことに気づいた。
また、庇護欲を掻き立てるような可憐な女の子だった。
それからは、彼の好きな人になる為に自分を彼の好みに近づけることに決めた。
まずは、髪を伸ばすことにした。
メイクも必要最低限ではなく、ふんわりしたかわいい女の子になれるようにピンクやブラウンをメインに、涙袋もかいてみた。
ヘアメイクも勉強をして、毎朝なれないコテで火傷しながらもふわふわに巻いた。
微笑むように笑って、落ち着いた雰囲気が出るように声のトーンや言葉遣い、所作も矯正した。
どれだけ変わっても、充分だなんて思えなくて必死に彼の言う守りたくなるような女の子を目指した。
私は、彼が誰を好きで誰と付き合っていてもずっと笑顔で隣に居続けた。
彼が欲しいだろう言葉を紡いで、彼が望むならいつでも駆けつけて、いつまでだって愚痴を聞いた。
髪型、メイク、話し方、服装、香り、趣味、私を構成する全てが彼に好かれるためのもので、そこに自分らしさなんて何もない。でも、それでいい。彼に好きになってもらう為だから。
なのに、彼は私以外の人と結婚するらしい。
大切な幼なじみの私には1番に伝えたかったと彼が笑う。
なんで。なんで私じゃないの。
あんな女すぐに別れると思ってた。
だって貴方のタイプじゃないでしょ?
写真なんてみたくない。
どうして。
こんなにも貴方のことを想っているのに。
貴方のことをずっと愛しているのに。
どうして私じゃないの。
おめでとうなんて言わせないで。
幸せなんて誓わないで。ずっとそばに居させて。
なんでなんでなんでなんで私のどこがダメなの!!
内心はぐちゃぐちゃで本当は今すぐ逃げ出したいのに、張り付いた仮面は分厚くて、自然と笑顔でいることができた。涙のひとつも流れてこなかった。
「おめでとう」
写真に映る彼女の勝気な笑顔が痛かった。
恋する乙女 苺太 @2gou
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