第3話 デススタート

6人+俺のパーティは、人狼のバーサスルームを進んでいく。


一番後ろで彼らについて進んでいる間にパーティメニューを開いてみた。

・【大地の戦士】堂前ソウジ★…リーダー

・【風切のウィザード】井崎コウ

・【流浪のシーフ】羽村ヨウスケ

・【鷹の盾士】宝治トミハル

・【炎次の騎士】中村ダイ

・【占い師】佐倉ユウア

・【デッドイーター】慎波リン


(それなりに見たことがある職業たち。そしてやっぱりこの世界は全員本名でプレイヤー登録されているのだろうか。登録し直しとか?そんなことあるか?)


「先程は対応できなくてすいませんでした」

考え込んでいたときに話しかけてきたのは、唯一の女の子【占い師】の佐倉ユウアだった。

「あ、いえッ!別に大丈夫…です!」


挙動不審になってしまうのは現実で(以下略)

彼女はかなりかわいらしい子で、誰でも話すのにためらうほどだろう。年齢は俺と同じくらい。


「いやー、リーダーは気が荒れてんねん。井崎の他に誰もなにも言えんのよ」

「オレは宝治トミハル。トミでええで」彼は【鷹の盾士】だ。

「トミさん」

顎髭が少しある、30代に差し掛かるくらいに見えた。気が良く面倒見がいい雰囲気だ。

「チュートリアルプレイヤーやろ?えーっと、リンくん」

「あ、はい!そうです。多分寝てるときにいきなりLODAの開始画面みたいなのがでてきて」「オレも一緒。ユウアくんも」

「はい」「そうなんですね」


少しほっとしたが、違和感があった。

「え、てことは」

「はい。バーサスルームをクリアしたんですけど、チュートリアルが終わらなくて」

「オレたちがやってたLODAのチュートリアルは変わったんかねぇ、それともなんか不具合か。堂前や井崎はなんか知ってそうなんだがなーんか非協力的なんや」

「……」


「でも、それよりももっと恐ろしいのは」

「お、恐ろしいのは?」

「プレイヤーがゲームオーバーになってしまったらどうなるかってことや」

「ゲームオーバー、え?」プレイヤーが致命的なダメージを負ったら、当然の如く行動不能になりゲームオーバーとなる。そしてdeadの画面が現れるのだ。高難度のゲームのため、何度も何度も見ることになる。

「勿論、私たちがプレイしていたLODAだったらホームに戻るか、チュートリアルだったら始めから再スタートなんですが」

「ちがうんですか?」

「そんな感じじゃないねんな、堂前たちを見る限り、さっきの戦いやと、な……」

雰囲気は一気に暗くなり、それ以上俺は簡単に聞けなかった。たしかに、堂前のピリピリした態度や休憩中の張り詰めたような空気が気になっていた。


道はしだいに鬱蒼とした森につながっていた。バーサスルームは敵に応じたフィールドになる。


また暫く歩き続けると、ゴロゴロと遠くから雷の音が聞こえ、雨がポツポツと降り始めていた。

「ちっ!まだ出てこねぇのか?」

「そのようですね。もう出てきてもおかしくないのですが」


「くそ!軽い気持ちでランダムに入るんじゃなかったぜ。特別な報酬があるなんて言いやがるから」

「今そんなこと言ってもしょうがないでしょう」


「コモンやらアンコモンでEXITルームまで凌ぐしかねぇのかよ」

「またそれですか」

「うるせぇな!!」


堂前の怒鳴り声が響いたと同時に今度はすぐ真上で雷鳴が天を裂いた。瞬間。バタバタと周りの森から鳥が羽ばたいていく。


黒く厚い雲がさらに続々と忍び寄ろうとしてきた。そのとき。


一瞬、まだ残る薄い月明かりの下を黒い影が通り抜ける。


「……?」

「……!……!?」

ふと堂前の首が胴体と離れ、瞬間。彼の肉体は光の粒子と消え去った。堂前の腰に下げていた武器だけが地面にぽとりと落ちた。

余りにも素早い動き、堂前と井崎の口論の隙を狙った一撃。


プレイヤー「堂前リュウジ」dead

ピコン、と音を立てて俺たち全員に無情にもその表示が通知される。まだ、何も声が出ない。雨の音だけだ。


「……人狼?ばかな」井崎がその場に立ったままつぶやく。

「おい、井崎!なにして」中村が立ち尽くした井崎に声をかけると。異変に気付いた。。


「コ、コモンだと……こいつがッ……」

井崎の首筋に薄い切れめが現れる。鮮やかで致命的な一撃は、堂前がやられると同時に与えられていたのか。


バタ、と前に身体を倒し地面の泥に沈む。


「きゃあああああああっ!!!」

「うぁぁぁ!!こいつッ!本当にコモンかよ!」

「堂前、井崎」

主力の二人がやられてしまったことで一行はパニックに陥りつつある。


パニックのなか、悠然と人狼は姿を月明かりのもとに露わにしていた。2メートルは超える身長に分厚い胸板にはいくつもの傷跡が残る。


「グルルルルルッ!グァァァァァアッッ!!」

その隙をついて、人狼は井崎の身体を勢いよく俺にむけて投げつけていた。俺は呆然としていて……


「ビッグ・S・ガード!!」

「宝治さん!」

井崎の身体は宝治の巨大化した盾によって弾かれ、地面に落ちる前に光に消えた。


「くッ!大丈夫か!」宝治が手を差し伸べ、立ち上がる。「あ、ありがとうございます」


「おい!!どうにか勝つぞ!こいつはコモンだ!勝てる!」中村が自分を鼓舞するために大声をあげる。「ユウア!リードを頼む!」

「はい!!リード!」

対象の正確な情報を読み取るスキル。


「え……レア?【人狼の偉丈夫】って」

「なに?」「トラップルーム……!」

俺は頭に思い当たったことを口に出して言った。無限ダンジョンのギミックの一つ、ルーム選択後に難易度が上昇する。「そんな」


「ぐああっ!!」「ダイッ!」

焦った中村の大振りは簡単に避けられ、致命的な一撃をくらう。


「羽村逃げやがった!」

シーフ職の羽村はすでにその場にいなかった。


「クソ!!逃げろ、あんたら」「宝治さん!!」

「いけ!!」


俺はユウアさんの手を引っ張りその場を離れた。今は、そうするしかない。

「少しはカッコええやろ……」宝治は人狼に向かって、通じもしない声をかけた。前回のVSルームで、恋人を失っていたことは誰にも言ってなかった。すぐのことだったからだ。


ゲームオーバーになったら、お前に会えるかな。

「うおおッ!風爪の盾!!」


後ろから宝治の声が聞こえた。

逃げ去った先、森の茂みに俺たちは隠れた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「そんな、皆さん・・・」

ピコン、ピコン、とゲームオーバーの表示がパーティメニューに増えていく。少しして宝治も、その一人に入っていた。deadの文字にゾッとする。


一瞬の出来事。リーダー格の堂前と井崎がやられ、パーティは瓦解した。

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鬼畜VRMMOにて。【デッドイーター】で無双を目指そうか。 JB @redtal073

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