一夜の過ち大作戦
湊
一夜の過ち大作戦
「な、な、何で俺の横に
とあるホテルの一室。私の隣で眠っていた男がようやく目を覚ました。
私は、あらかじめ準備していたセリフを男に伝える。
「昨日のサークルの飲み会で、私も
ちょっと困ったように、上目遣いで葵くんを見上げる。
葵くんは、まだ戸惑っているみたいで頭を抱えていた。
その反応も無理はない。
彼が片想いと思い込んでいる相手が、「昨夜、二人の間に何かがありました」と言わんばかりの姿で、同じベッドに入っているのだから。
実際のところ、私と彼の間には何もなく、飲み会で酔っ払った二人が一緒に帰りました、同じベッドで寝ました、というだけである。
だけど、葵くんには「昨夜、二人の間に何かがあった」と勘違いをしていてほしい。
そして、このチャンスを逃さず、早く私に告白するといい!
私はこの数か月、想い人である葵くんの好きな人が自分であることに気づいていた。
時代遅れだと思うけれど、ずっと男性から告白されるというシチュエーションに憧れてきた。
だから、葵くんに告白をさせるための作戦をいくつも実行してきたのだ。
葵くんの出席する飲み会には必ず行って隣に座る、大学の授業で会えば必ず話しかける、葵くんと同じ趣味を始める、など。
これに加えて、さりげないスキンシップも実行した。
だけど、葵くんが私に告白することはなかった。
彼の親友によると、
「美波さんの行動全てが、俺のことを好きとしか思えないんだけど、これは全部俺に都合がいい妄想に過ぎない! 妄想をやめたい!」
と言って、私の作戦を全て無かったことにしようとしていたらしい。
葵くんが真面目で慎重な性格だということは知っていたし、そこが彼の美点だと思っていたのだけど、まさかここでそれに困らされると思っていなかった。
流石に私から告白しようか……?と悩んだ。だけど、小細工を駆使してきた私の変なプライドと、男性からの告白への憧れが邪魔して、「何としても葵くんから告白をさせる」という目標を打ち立てる方向へ進んでしまう。
そして思いついたのが、「一夜の過ち、からの告白」大作戦だ。
作戦の内容はこうだ。
まず、飲み会で葵くんだけが酔っ払う。
もちろん、私は無理にお酒をついだりはしない。好きな人の嫌なことをするつもりはないから、自然に任せた。
次に、私も酔っ払っているふりをして二人で帰る。
これは比較的簡単だ。私と葵くんは、この大学の人があまり住んでいない地区に住んでいて家も近いため、二人で帰ることに違和感はない。
最後に、帰る途中でホテルに入って朝まで二人きりで過ごす。
私たちの家までに、ホテルがあるかどうか。無理強いせずに誘えるか。ここが作戦の肝だったが、これも意外とあっさり解決した。何度もセリフの練習をした甲斐があったというものだ。
ホテルの中で、私は葵くんには指一本触れないようにした。「ホテルには連れ込むのに、そこは配慮するんだ」と自分でもツッコミを入れたくなるが、触れ合うのは、付き合ってからいくらでもチャンスがある。あくまで今回は、告白をしてもらうための作戦に過ぎない。
あとは、葵くんが告白すればOKという段取りだ。流石に、好きな相手と朝まで過ごして、この告白チャンスを逃す人間はいないだろう。
やっとここまできたとしみじみ考えていると、どうやらしばらくの間フリーズしていたらしい。
「美波さん……大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」
葵くんの言葉に慌てて答えたが、彼は眉を下げ、鎮痛な面持ちで私を見つめた。
「大丈夫な訳が無いよね。そうだよね……ごめんなさい。俺を警察に突き出してもいいから」
その言葉に、私は息をのんだ。目の前で泣きそうに潤んだ葵くんの目を見て、胸が締め付けられる。
違う、こんなはずじゃなかった。私の作戦は、彼を戸惑わせて、それから嬉しそうに告白させるためのものだったのに。
私は何をしているんだろう。彼の気持ちを考えず、自分の憧れだけでこんな馬鹿なことを企てた。酔っ払った彼を連れ込むなんて、彼の意思を無視した最低な行為だ。
プライドとか、作戦とか、そんなものにこだわって、大事な人を傷つけた。
「ち、ちがうの! 私が誘ったの! 葵くんのことずっと好きだったからチャンスと思って」
慌てて口から飛び出した言葉は、私の本当の気持ちだった。
「……え? 美波さん、それほんと?」
あ……私から告白しちゃった。
私の馬鹿……。
「俺も、美波さんのことずっと好きだよ」
葵くんは戸惑いながらも、少しだけ嬉しそうにはにかんで告白の返事をする。
やっと葵くんの笑顔を見ることができた。
……あぁ、こんな回り道をするんじゃなくて、最初から素直に好きだと言えばよかった。
これからは、もっと素直に自分の気持ちを表したいし、葵くんも一緒に楽しくなる行動をしたい。せっかく彼女になれたのだから。
一夜の過ち大作戦 湊 @minato_ondo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます