第22話 ルーネとシャナ、キレる

『蒼穹の聖光』はラッカへ向かうため、大森林の中へと消えていった。


俺達『不死の翼』と『獅子の咆哮』は崖の端に近寄って、対岸を眺める。


『アビスの谷』の幅は約二百メートルほど。

飛行魔法でも使わない限り、届く距離ではない。


「ダントン、ドワーフ達は、崖の向こう岸へ向かう手段はあるか?」


「昔は谷底へ行くにも、崖の向こう側にも、オラ達が造った階段があっただ。でも、今は使ってないだ」


「どうしてだ? ダントン達は谷底には行かないのか?」


「谷底にランペルドラゴン共が異常発生してるだ。今は危な過ぎて近寄れねえだ」


ダントンの話では、ランペルドラゴンとは、ドラゴンの下等種らしい。

体長は三メートルを超え、地を這い、空は飛べないそうだ。


頑丈な鱗を持ち、ドワーフの力でも一撃で討伐するのは無理。


短い脚なのに動きは俊敏で、長い尾で獲物を吹き飛ばし、強いアゴで噛み砕く。

知能はあまり高くないそうだ。


下等種とはいえドラゴン。

ドワーフ達はその危険を察知し、谷底までの階段を全て壊したらしい。


「簡単に谷へ下りる術はないのか。谷底に行ってもドラゴンの異常発生。向こう岸へ渡る別の方法を考えないとな」


「何を弱気になってんだ! 谷に下りて、そのドラゴンを倒せばいいだけだろ! 『不死の翼』が行かないなら、『獅子の咆哮』だけで狩ってきてやるよ!」


「早まるな! 谷底にいるのはドラゴンだぞ! それも異常発生してるんだ! 少しは頭で考えろ!」


「お前に命令される筋合いはねえ!」


俺とブレイズが睨み合っていると、ライルとテットが駆け寄ってきた。


「『獅子の咆哮』はお前のパーティじゃない! 俺達のリーダーやブレイズだ! 俺はブレイズに従うぜ!」


「そうだ、そうだ! 俺達は『不死の翼』よりも強いんだ! ブレイズならドラゴンも、簡単に倒せる! さっさと谷底へ行って、俺達の実力を見せつけてやろうぜ!」


「ガハハハ! ライル、テット、俺と一緒に来い! 『獅子の咆哮』だけでドラゴンを討伐するぞ!」


二人が煽り、ブレイズは満面の笑みで息まく。


するとルーネとシャナが恐い表情をして、ズンズンと歩いてきた。


「いい加減にして! ドラゴンは魔獣の頂点に君臨する魔獣よね! 下等種でも沢山いたら、三人で討伐できるわけないでしょ! だからノアさんが、谷を渡る別の方法を捜してるんでしょ! ちょっとは考えてよ! 幼馴染として恥ずかしいわ!」


「今回ばかりは呆れたわ! ルーネの攻撃魔法と私の治癒魔法がなくても、ドラゴンの群れと戦えるの? それとも私達も一緒にドラゴンと戦うの? それって私やルーネが危険に晒されてもいいってことだよね。それとも何にも考えてないの?」


「俺達、『獅子の咆哮』であれば、ドラゴンも討伐できる! 俺を信じろ!」


「「信じられないから言ってるんでしょ!」」


ルーネとシャナの反論、ブレイズは顔を引きつらせて両手をあげる。

すると二人は顔の向きを変え、ライルとテットを睨みつける。


「ライルもブレイズ、ブレイズって、うるさいのよ! ライルが信じるのは勝手だけど、私達に押しつけないで!」


「テットなんて、口ばっかりじゃない。テットの短剣で、どうやってドラゴンの鱗を貫くの? 一撃でドラゴンを仕留められるって、テットの自慢できるのは脚の速さだけでしょ。それで本当にドラゴンと戦えるの?」


ルーネとシャナにまくしたてられ、ライルとテットは暗い表情をして俯く。


あー、ついに現実を言っちゃったよ。


二人ともブレイズ達とは幼馴染だから、今まで相当に我慢してたんだろうな。

親しい女子達からの厳しい言葉なら、あの三人も少しは反省するだろ。


無言になるブレイズ、ライル、テットに向けて、ルーネが指差す。


「今回はブレイズの指示は聞かないわ! 私達はノアさんと一緒に行くからね! ドラゴンと遊びたいなら三人で勝手にやって!」


「そうそう、『獅子の咆哮』だけでドラゴン討伐なんて絶対にイヤよ! 私達を巻き込まないで! 私とルーネは、アレッサちゃん達と一緒に行くからね!」


二人は宣言をし、体の向きを変えてアレッサ、ルディ、エリス、三人の元へ向かう。


「今日からよろしくね。アレッサちゃん、ルディちゃん」


「当分、『獅子の咆哮』には戻らないので、よろしくお願いします」


「大歓迎よ! 夜になったら皆で女子会しようね!」


「ノアに頼んで、お菓子パーティもいいかも。スイーツパーティもいいよね」


「私もお二人と仲良くなれて、すごく嬉しいです」


俺もこのレイドに来てから知ったのだが、『不死の翼』、『獅子の咆哮』、『蒼穹の聖光』の女子達は仲が良い。


ルディに聞いたのだが、随分前から女子達は頻繁に交流し、情報交換をしていたそうだ。


その情報ネットワークは、ラッカを拠点とする全ての女性冒険者まで広がっているという。


もし彼女達の機嫌を損ねるようなことを言えば、電光石火のごとく女性達の情報ネットワークを駆け巡り、女性冒険者全員から冷遇されることになる。


男にとって、なんという凶悪なネットワークなんだ。


そういえば転生前、まだ中学生の頃、クラスの女子をからかったら、なぜか同学年の女子全員にそのことがバレて……あの時は地獄だったな……


ブレイズ、ライル、テットは項垂れたまま動かない。


俺は三人に近づき、ブレイズの肩に手を置いた。


「ドラゴン討伐での勝負はお預けにしよう。遺跡を発見した後に、谷に行けばいいだろ」


「うるさい! 可哀そうな目で、俺を見るな! 全部、お前が悪いんだ! ルーネとシャナを洗脳しやがって! 絶対に許さないからな!」


世の中の悪いことは全て他人のせいにするなよ!


周りに当たり散らすなんて、ガキ過ぎるだろ!

呆れ過ぎて、怒る気力もないわ!

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最強冒険者への成り上がり!~チートスキル『神の封印在庫』と『不死』で未開の秘境を攻略します~ 潮ノ海月 @uminokazuki

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