企画参加短編:『わたしのカレーは左利き』
夢美瑠瑠
第1話
テーブルには薔薇の一輪挿し。
クロスは、メルヘンチックな黒猫と
…HGのカップルのヒロシとキーボーが、逢瀬する予定の、ヒロシの豪壮な邸宅にある、キッチンと間続きのホームバー兼ダイニングの光景だった。
暗い場所でも「光景」というが、この部屋には眩いシャンデリアが光り輝いていて、文字通りの「光景」なのだった。
同じ趣味でも、ヒロシは、かなりにフェミニンな優男で、金髪。これは色素が薄いからで、瞳孔も碧かった。声もほとんど十代の少女のようだった。
筋骨隆々で、浅黒くて、ごわごわした縮れ毛。 いつも反射式の黒眼鏡で武装していて、攻撃的すぎる性格は、物腰と声やらに露骨に滲み出ているのがキーボーだった。
今は、その瀟洒な、白一色の厨房に、たくさんのスパイスの混じりあった、嗅覚経由で味覚を刺激して、唾を分泌させる、例の絶妙に美味しそうな”カレールー”の薫りが立ち籠めていた。
ホストのヒロシが、腕を揮っていて、彼のプロはだしの調理技能は、フランベの手際の良さや、ズラッと並んだスパイス、調味料その他のヴァラエティの豊かさ、整然とした使いまわしにも瞭然だった。
ヒロシは実は transgender で、SID。 ♀なのだが、ホモというややこしいケースで、性的嗜好というものの複雑怪奇さの如実な標本だった。 で、レズも嫌いでないのだった。 宝塚みたいに美しいカップルが出来上がって、と、その場合も恋人関係が長く継続したりする。
出来上がったカレーライスを前にして、二人は向かい合う。
アラジンの魔法のランプのような、例のアラベスクなカレー皿の中で、黄金のカレーが湯気を立てていた。
無言のまま、スプーンを操って、熱々のところを二人は賞味し始めた。 カレースパイスならではの、食欲を刺激する独特の風味に、魅せられたようにカレーライスのこと以外何も考えられなくなって、ご飯とルーを適当にスプーン上に按配して、まず一口。
舌が蕩けるような触感と旨味の至福の境地に、揺蕩い、痺れる… かなり辛口で、ご飯の炭水化物味が、それと絶妙のハーモニーを醸し出す…
カレーには、24種のスパイスと、スーパー野菜が5種類使われていて、強精効果、発情効果、その他、カップルの逢瀬を完璧に演出、助力するEXTRAな要素に満ち満ちているのだった。
あまりにも、その効果はすごくて、ヒロシは、ゲイのパートナーに孕ませられる、というさらにややこしいことになってしまった!
で、妊娠後のホルモンの作用で、見違えるほどにオンナっぽくヒロシは metamorphose をとげてしまったのだ!
カレーなる変身、だったのである。…
<了>
企画参加短編:『わたしのカレーは左利き』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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