青空を翔ける・・・!
佐山 響子
青空を翔ける・・・!
五月晴れ
雲一つない空の美しさを改めて知る 見事だ
ほぅ・・・っとひとつ 深い息を吐き
僕は西の空を泳ぐ 鯉の群れを眺める
心地のいい風は 鯉たちをのぼせさせてしまうようで
景気よく体を尻尾を振り 橘月を活きている
本当に美しい
五月晴れとは5月だからそう呼ぶのであって
普段なら日本晴れ 快晴でもいい
そんな空を泳ぐ鯉の群れ
家族の健康と安寧を祈り
思いを込めて竿を立てる親と
そんなことより何より 鯉のぼりが嬉しくて
歓声をあげる子供たちと
微笑ましい風景はすぐに思い描ける
僕の鯉のぼりは毎年 僕が幼稚園でこさえたもの
マンションだから鯉のぼりなんて無理無理!と
母はにべもなく 父は頼りにならず
鯉のぼりへの思慕は 本人の知らぬ間に募っていたらしい
休日の昼下がり 気付けば僕は西の空を眺めていた
屋根より高い鯉のぼり
口ずさみ クスリと笑う もうあの頃には戻れないらしい
大人になってしまった僕はせいぜい
親になったとき我が子のために
せっせと鯉のぼりを立て 歓声をあげさせることに務めよう
5月のルーティンワークになりそうだ それはとても幸せな
結婚式は来月 母は僕の恋人を殊の外気に入っている
「よくもあんな子連れてきたわね!あんたにしちゃ上出来」
これが褒め言葉なのが我が家だ 彼女はついてきてくれるだろうか
ついていけないと言われたら 実家とは決別だ!
なんて あの子はそんなこと喜ばないな
何せあの子もこんな母のこと 気に入っているようだし 何故だろう
また見てるの?と母の声 うん、と返す僕はベランダから
暮れなずむ景色を 陽が落ち勢いを失った鯉のぼりを眺める
明日にはまたきっと 元気に泳ぐに決まっている
希望に満ち溢れた青い空を
「毎年ご苦労なことよねぇ 5月の声が聞こえてくると掲げるものね」
母の言葉は聊か無神経な気がして 僕は少々反論することにした
ご苦労って何さ?あの家のお父さんお母さんが
子供たちのため 立ててやっているんだろ?あんな立派な鯉のぼりを
母は至って素っ気ない
「あの家 50歳くらいの女の人がひとりで暮らしているの」
「夫と子供がいるって思い込んでるらしいわ」
「あの人 おばさんなのに32歳とか言って」
「子供はね 男の子が2人・・・」
「もういい!」
僕は遮って部屋に戻る 当然窓はきっちり閉める
僕の叫びなど 母には取るに足らぬことのようで
子供の日にはたぬきのデコレーションケーキを
毎年 近所のケーキ店に注文するとか
夏になると 庭にビニールプールを張るとか
雪が降れば 凧あげしないの?楽しいわよ!と
誰かに話しかけているような声が聞こえるとか
そんなことをまぁペラペラと
「あの人も」というくらいだから 母は面識があるのだろう
僕の妻になる人に 怖い思いをしてほしくないと
うっかり打ち明ける僕に
「マナちゃんが教えてくれたのよ あの子の方がよっぽど詳しいわ」
!! ・・・そうか。そうなのか・・・。
マナ 君だけは僕を裏切らないと思っていたよ
なんて 口が裂けても言えない
僕は既に 母が敷いた妻の隷(しもべ)となるための
ゴールデンラインを歩み始めているのかも知れない
マナが母を受容したことに 隠しきれない驚きが僕の胸を貫いたから
陽が暮れて 夜になる
帳がおりて 真夜中になる
誰の目にも触れなくなった鯉のぼりはきっと
夜が過ぎるのを息をひそめて待っている
朝が来て 陽がさして 爽やかな風が吹いたなら
彼らは息を吹き返し 美しい青空に舞うのだ
空を泳ぎ 空を舞い 空を翔け・・・!
自分達を真下から見上げる
初老女性(飼い主)のことなど 思い出しもせず
青空を翔ける・・・! 佐山 響子 @umemomosakura333
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