日本書紀に学ぶ適材適所

ヨネゴン

日本書紀にこんな言葉があります。

「杉と橡樟の両樹は浮宝の、桧は瑞宮の、柀は奥津棄戸の用材とせよ」


これは、「杉と樟は船に、桧は建物に、柀(まき)は神社の扉に使え」という意味です。つまり、日本最古の歴史書の時代から、木材はその特性に応じた使い方をされてきたのです。


杉は水に強く、耐久性があるため船の材料に適しています。桧は香りがよく、防虫効果があり、強度にも優れているため、神社仏閣の建築に使われてきました。この「適材適所」の考え方こそが、日本の木の文化の核心だと思います。


「適材適所」という言葉を調べると「人の能力・特性などを正しく評価して、ふさわしい地位・仕事につけること」、主に人材配置に使われていますが、語源は言葉の通り木材の話だったんですね。


木と共に生きる日本の知恵

日本は国土の約7割が森林であり、古くから木と共に生きる文化が根付いていました。人々は木を単なる材料としてではなく、その性質を理解し、最適な形で活かすことを大切にしてきました。


例えば、飛鳥時代や奈良時代に建てられた法隆寺や東大寺は、1300年以上経った今もなおその姿を保っています。これらの建築には、適材適所の知恵が随所に見られます。


柱には桧 … 強度が高く、耐久性に優れる


梁には杉 … 軽くてしなやかで、長いスパンを支えやすい


屋根の垂木には松 … 硬くて丈夫


このように、木の特徴を活かした建築が受け継がれてきたのです。


日本的自然観と木の使い方

西洋では石やレンガを主に使い、永久に残る建築を目指しました。一方、日本の建築は、木を使い、修理や建て替えをしながら長く使うスタイルを採用しています。これは、日本の自然観と密接に結びついています。


日本の自然観では、「すべては巡るもの」と考えます。木は植え、育て、伐り、使い、そしてまた植える。こうして自然と共に生きるのが、日本の伝統的な価値観です。


例えば、伊勢神宮では20年ごとに社殿を建て替える「式年遷宮」が行われます。これは、ただの建て替えではなく、木を適切に使い、次世代に技術と精神を受け継ぐための仕組みなのです。


現代に生かす適材適所の思想

では、この「適材適所」の知恵は現代でも生かせるのでしょうか?


例えば、現代の住宅や家具においても、木の特性を活かすことができます。


フローリングにはナラやクルミ … 傷がつきにくく耐久性がある


テーブルにはウォルナットやチェリー … 手触りがよく、美しい木目が楽しめる


内装材には杉や桧 … 香りがよく、調湿効果がある


また、最近では「CLT(直交集成板)」など、新しい木材の活用技術も進化しています。これにより、木造の高層ビルが建てられるようになり、木材の新たな可能性が広がっています。


あなたの暮らしの中の木を見つけよう

「適材適所」という考え方は、私たちの日常の中にも生かせる知恵です。


たとえば、家具を選ぶときに「この木の特性は何だろう?」と考えてみると、より愛着のあるものを選ぶことができるかもしれません。日本の木の文化に目を向けることで、日々の暮らしをより豊かにするヒントが見つかるはずです。




木育は、木を知り、木とふれあい、木を活かす学び。日本の適材適所の知恵を、これからも大切にしていきたいですね。

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