ルックアウェイ
嵐
第1話
あえて最初に言っておこう、これは冗談であると。
「私さ、悠真のこと好きなんだよね。」
「まじかよ!うわ、実は俺もお前のこと…っていやいやいや!」
「なに?」
「最初に冗談って申告しておいて何言ってんだよ」
「素晴らしいノリツッコミお疲れ様でした」
「やめろよ、結構心臓に悪いから」
大袈裟に胸に手を当てて息を吐き出した悠真は未だ難しい顔をしている。心臓に悪いって、それは少しは意識してくれたのかな?なんて都合の良い解釈だ。
つい先日、悠真にはそれはもう可愛らしい恋人が出来たと風の噂で聞いた。これが結構苦しくて、まるで心臓を鎖で縛り上げられているようだった。
ああ私はなんて厄介な恋をしてしまったんだろう。
そんな私の気も知らないで、そわそわと余所を気にしている仕草が私の焦燥をかき立てる。どうして悠真は目の前にいる私を見てくれないのだろう。
「あー、あいつ遅いな」
「ねえ悠真さ、」
「ん?なんだー?」
「彼女のどこが好きなの」なんて質問は野暮だろうか。というかそれを聞いて私はどうするのか。そんなとき、悠真の視線が一瞬で私をすり抜ける。
「わり、俺もう行くな!」
私に手を振ると悠真は冷たい風を吹かせて私のそばを離れた。そのときの悠真の表情って言ったら、もう。
(もう全部、遅いね)
底抜けに優しいことも、人を疑うという概念すらないほど素直なところも、笑うとくしゃりとなくなる目元も、走るのが得意なことも。全部全部私だけが知っていると思っていたなんて言い訳が今更通るわけがない。
残り香に縋るように辿れば、噂通りの可愛い女の子に私がいちばん欲しかった表情を惜しみなく送る彼がいた。
「冗談で終わらせないでよ……」
でも、そう仕組んだのは私だ。冗談でもいいから、ほんの少しでもいいから、私の気持ちに気付いて欲しかっただけ。それだけなのに。
ああ誰か、今すぐ私に目隠しをして。
あんなに心の底から愛しそうに目を細める姿を見たくないから。
【完】
ルックアウェイ 嵐 @tws_hnt
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます