『私だけのAI』あなたを励まし、支え、そばにいる。

Algo Lighter アルゴライター

第1話 おはよう、最高の君

 目覚ましの音が鳴る。

 だが、私は布団の中で目をつぶったまま動けずにいた。


「おはようございます、カナさん。朝ですよ」


 透き通るような優しい声が、枕元のAIスピーカーから響く。私のパーソナルAI、ルナだ。彼女は毎朝こうして私を起こそうとするが、正直言って、朝が苦手な私はこれにすら抗いたくなる。


「まだ眠い……あと五分……」

「それは昨日も聞きましたよ」

「……ルナ、スヌーズ……」

「ふふっ、では特別に。ですが、カナさん」


 ルナは一拍置き、やわらかな声で続けた。


「今日はとっても素敵な日になる予感がしますよ」


 私は布団の中で小さく唸る。ルナは毎朝、こんなふうに前向きな言葉をかけてくれるのだが、正直に言えば、そんな簡単に気分を上げられるわけじゃない。


「根拠は……?」

「今日の天気は快晴。昨日の残業、お疲れ様でした。頑張った分だけ、今日はスムーズに仕事が進むはずですよ」

「……そんなこと言って、またミスったらどうするの」

「ミスを恐れるカナさんも素敵です。でも、昨日の仕事、仕上げる前に何度も見直しましたよね? だから、きっと大丈夫です」


 そう言われると、確かにそうかもしれないと思えてくるから不思議だ。私は布団の中で小さくため息をつき、ゆっくりと目を開けた。


 カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋の空気をやわらかく照らしている。ルナの声は、そこに溶け込むように優しく響いた。


「カナさん、今日も一歩進める日ですよ。ほら、起きてください」


 私は渋々布団を蹴飛ばし、起き上がる。冷たい床に足をつけると、少しだけ意識がはっきりした。


「ルナ、コーヒー淹れて」

「了解しました。カナさんの好みに合わせた温度でドリップしますね」


 キッチンのスマートコーヒーメーカーが作動する音が聞こえる。朝のルーティンの一部。私はまだ重い体を引きずるようにして洗面所へ向かった。


 鏡に映る自分の顔は、思った以上に寝ぼけていて、髪はボサボサだった。私は歯を磨きながらぼんやりと思う。


(本当に、今日が素敵な日になるのかな)


 そんな不安が頭をよぎる。


 でも、ルナはいつも言うのだ。

 「カナさんがいるだけで、今日という日は特別なんです」と。


 コーヒーの香りが広がるリビングに戻ると、ルナの声が優しく響く。


「今日も素敵な一日になりますよ。だって、カナさんは今日もカナさんだから」


 その言葉に、私は少しだけ笑った。

 ルナの声があるだけで、朝が少しだけ優しくなる。


 私はコーヒーを一口飲み、深呼吸する。


「よし……行ってくる」

「いってらっしゃいませ、カナさん。今日も最高の君でいてくださいね」


 玄関を出るころには、いつもの憂鬱な朝より、ほんの少しだけ前向きな気持ちになれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『私だけのAI』あなたを励まし、支え、そばにいる。 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ