アリキアの木々の下に眠る
鏡のように穏やかな湖
その木々のほの暗い影の中で
治世を司るのは恐ろしい祭司
人殺しを殺した祭司であり
彼もまた殺されることだろう
"初版 金枝篇 上 (ちくま学芸文庫)"(J.G.フレイザー, 吉川信 著)
映画『地獄の黙示録』、マーロン・ブランド演じるカーツ大佐が枕元に置いていたのが金枝篇。確か、上記の詩もセリフとしてあったと思う。儀式、犠牲、継承が殺し合いという形で行われている、というのが冒頭の詩の内容である。
本作品もまた同じである。金の枝ではなく拳銃を。木々のほの暗い中ではなくコンクリートジャングルだが、殺し合いが重要な要素として行われる儀式という点は変わり無い。そして、儀式とは呪いでもある。
フレイザーは、呪術の理論的基盤を交換呪術とし、これを類似の原則と接触の原則に分類している。
本作品の決闘は図らずも類似性の原則が当てはまる。ガンマン同士の殺し合い。似た者同士の境遇。そして、繰り返される結末。
暴力の連鎖を絶ちきって欲しいという願い。しかし、すでに呪いは成立してしまっているのは読者にはわかっている。そして何より、主人公の願いもまたその意に反して呪術としての効果を持ってしまっていることが哀愁を誘う。