モーツァルト・ハウス

 モーツァルトが作った、本物の「モーツァルト・ハウス」は、死ぬほど評論家に叩かれた。

 もちろん、モーツァルトは音楽家だ。家を作ったわけじゃない。ハウス・ミュージックを作ったのだ。

 それが、売れなかった。時代だね、モーくん。


 私はマッドサイエンティスト。

 最近、「人間を転生召喚する技術」を思いついた。

 普通なら延命サービスで金稼ぎをするだろう。私はマッドなので、ひと味違う。

 凡人を生き返らせても面白くない。芸術の偉人をプロデュースして、がっぽり儲けてやるぜ。そう思ったのだ。


 記念すべき第一号。「音楽の部屋」に、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト氏を召喚した。

 企画内容を説明すると、モーくんは目を輝かせた。白いカツラを床に投げ捨て、音楽史を遡る。ソニーのヘッドホンに感動しながら。

「ルートヴィッヒ……。大成しなかったな……」

「ショパンはいいね。ピアノが進化したんだ」

「ストラヴィンスキー、許せん、許せん!」

「ビートルズめ! Kommああ, Gib Mir Deine Hand抱きしめたい!」

「ずとまよ、見込みあるね。ボクのお嫁さんにしてあげようかな」

 以上、5分でわかる音楽史。彼は普通のポップオタクになってしまった。


 噂通りの高慢ちきな態度だが、演奏技能だけは抜群なので、さっそく天才に音楽を作らせる。

 ところが、モーくんは自分の過去を切り捨てた。

「クラシックの時代は終わりだ。ハウス・ミュージックとボクの作品を組み合わせよう!」

 そう言ってさらさらと楽譜を書き上げ、パソコンに打ち込んだ。

 そして昨日、『モーツァルト・ハウス』を発表。

 酷評を浴びる。

 調べてみると、全く同じコンセプトで曲を作ったバンドが、過去にあったらしい。盗作扱いだ。モーくんはぷんぷん怒っている。

「盗作はそっちだろ! ボクの名前、勝手に使いやがって!」


 第二号。「絵画の部屋」に、フィンセント・ファン・ゴッホ。

 大爆死。

 まず、パソコンの使い方を説明すると、目を丸くして言う。

「なんやこの、魔法のキャンバス。ヌルヌル動いとるやんけ」

 キャンバスじゃない、モニターだ。勘のいい偉人は嫌いだよ。

 ピカソを見て号泣、ウォーホールを見て発狂。AIで自分の画風を合成させて、耳をもう一つ切り落としそうになったので、慌てて「逆召喚」で消した。


 第三号。「文学の部屋」に、紫式部。

『カクヨム』の読み専になって、部屋から出てこない。


 第四号。「技術の部屋」に、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 現代工学の勉強のために大学の参考書が必要らしい。今はコンビニでバイト中。


「というわけで、いま一番金を稼いでいるのは、ケンちゃんだよ」

 私は頭を抱えて第五号に言った。

 ここは「論客の部屋」。たった数十の投稿と、スレッド上での口喧嘩だけで、ケンちゃんはインフルエンサーになったのだ。

 部屋の主は、ワルい顔をして笑う。

「誰にも覚えられていないぐらいが、ちょうどいいのさ」

「いや、ケンちゃんあんた、割と有名だからね……」

 私が苦笑すると、ケンちゃんは決まってスネてしまう。

「まさか死後に有名になってるとは思わなかったぜ。長生きはするもんじゃないよ」

 新しいポストを投稿しながら、ケンちゃんは皮肉な笑みを浮かべた。

 彼のSNSアカウントの自己紹介には、こう書かれている。

<やることないので一日中パソコンに向かっています。思いついた些事を垂れ流すアカウント。そろそろ気が狂いそうあやしうこそものぐるほしけれ


***

 Clean Bandit "Mozart's House"からインスピレーションを受けて。

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