科学的黒猫

 自宅前に、汚れた猫ちゃんが捨てられていた。

「にゃん、にゃん」

 息苦しそうだ。つぶらな瞳で私を見上げてくる。

「ありゃ。体が悪いのかい。よしよし、回復するまでうちに泊まりな」

「にゃあ。ごろごろ」


「ねえ、黒猫って縁起が悪いんじゃないの」

 動物嫌いの夫が、テレビを見ながら呟く。いいじゃないの、数日くらい。

「おお、よしよし。体を洗ってあげようねえ」

 大人しい猫ちゃんだ。私は段ボールごと猫を風呂場に連れていって、ドアを閉める。



「次のニュースです。大気の二酸化炭素濃度が急激に上昇している件について、新たな仮説が発表されました」


「研究チームの報告によると、遺伝子変異を起こした黒猫が、通常の百倍以上のスピードで好気呼吸をしています。この呼吸によって、空気中の酸素は急速に二酸化炭素に置き換えられます」


「政府の呼びかけです。窒息死を防ぐため、身元不明の黒猫とは、密閉した空間に入らないように……」

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